おだやかな日々
今回の話でつなぎ部分は終わりです。
East(東)alとWest(西)Lade
アキバとミナミ
結局は物語にいろどりを与える為の細かな設定にすぎない。
どれほどNPCが対立していると煽っていても、それこそ画面の前の人間にとってみればゲームの中の出来事にすぎない。
『うぉっしゃーーーーーー。来たでえええ。関西にプレイヤータウン。』
『やりましたねビリケンさん。俺達の勝ちっすよ!!』
彼らの喜びはNPCの叫びなど一切聞くことなく、ただただ自分達の都市にプレイヤータウンができたことを喜ぶだけである。
アタルヴァ本社。
「原子ちゃーん。次の新種族についてのなんだけど。」
そう言って、新規プログラムの仕様を持ってくる。
「なんですか?」
「スキルコピー系の種族が欲しいんだけど、何かいいアイディア無い?」
「スキルコピー系ですか?」
「うん、能力値は低いけど、色々と無数のスキルのコンポができるような種族なんだけど……。」
「アイディアが湧いてこないと。」
「うん。」
そう言ってその男が肩をすくめる。
「そうですね……狐とかどうでしょうか? 変身とかのイメージがありますし。」
「そうなのか?」
「ええ、日本だと妖狐とか狐は化かすものってイメージがありますし。」
「……なるほどねえ、こっちだとそう言う感覚がなくてさ……実はここだけの話、ハーフアルブを能力コピー系にしようとしたんだけど、どーもイメージが合わなくてさ。」
「イメージ? 大事なのはゲームバランスでしょ? <エルダー・テイル>は役割分担を強くわけることで、万能キャラを排することでバランスをとっているゲームでしょ? イメージなんて後からついてきますって。」
その言葉に、近くで仕事をしていた一人が突っ込みを入れる。
「………なるほど、それがお前の意見か……残念だがそれは違う。<エルダー・テイル>の人気は重厚な世界設定にある!!」
その言葉に突っ込みを入れていた男はムッっとした表情を浮かべる。
「どれほど重厚な設定を持つ武器があったって、所詮は性能差でしかプレイヤーは選ばないですよ。
その武器にどれほどすごい設定があっても、自分のPCを守る武器ですよ。性能優先になっていきますよ。」
呪われてそうな武器と祝福を受けた武器のどちらを選ぶかと言えば、強い武器を選ぶとその男は言った。
「そもそも、ダメージ軽減とかも考えないと、レイドは攻略できませんし。」
それは事実である。レイド級のボスの攻撃力はとんでもないレベルになる。それを攻略するとなるとフレーバーテキストは無視して、能力優先の装備になっていくのは仕方のない事であった。
またまたギルドねこまんまのギルドホール
『新種族のお知らせと、次期アップデートのお知らせか……。』
『職業は増やさねえのに種族は増やすんだな。』
『……ま、戦うための職業は12個で十分って事だな。』
そう言ってメンバーは好き好きに言い合う。
『……ま、そいつがどんな種族かよりも、そいつが何ができるかってのが俺達には関係の深い事だからな。』
そう玉三郎はそうチャットで会話をする。
『………ええと、玉三郎さんすみません、ちょっと言いにくい事なんですけど……。』
『どうした?』
『<エルダー・テイル>をやめようと思うんです?』
『急だな、一体どうしたんだ?』
『リアルで子供が生まれるんですよ。流石に子供の前でゲームし続けるのは苦労が多いですし……。』
そう言ってメンバーの一人が申し訳なさそうに言う。
『子供か……そりゃ仕方ねえなあ。子育て頑張りなよ。』
『……引き止めないのか?』
『事情は誰にだってあるさ。いくらなんでも引き止めるなんて無意味な事さ。』
そう言って玉三郎は言葉を紡ぐ。
『………入るもの拒まず、出るもの追わず。まあ、この世界を楽しむ為のコツさ。』
『あっ、そうだ今まで稼いだ金、大半ギルドに収めときます。自由に使ってください。』
永遠に続く組織なんてない。それはオンラインゲームの当然の帰結であった。
そして新規アップデートが行われた。
『何でも新しいイベントらしいな。』
そこには東北マップ解放と、新規のイベントが公開されていた。
『何々……ふむふむ……。』
そこには新規イベント解放のお知らせと、大規模戦闘マップのお知らせが書かれていた。
アメリカ・東海岸
『まさか日本でレイドイベントが行われるなんて……。』
アメリカ・西海岸
『ハーフガイアプロジェクトの地図をこう利用するのか!!』
イギリス
『すぐにレベル50……いや55以上のメンバーを集めるんだ!!』
フランス
『……急いては事を仕損じる。まずは1つずつ潰して……。』
スペイン
『これは、先にゴブリン王を倒すべきか?いやそれでは他のチームに先を越されてしまう。
それぐらいならいっそ………。』
この時期に関していえば最大級の報酬を前に、幾つものチームが活動を開始していた。
これがレイドイベント『ゴブリン王の帰還』の始まりであった。




