ゴブリン王の挑戦
今回はゴブリン王の帰還の前段階。
『ゴブリン王の帰還』。そのイベントは、現実世界でいうところの東北地方の大半を利用した、大規模戦闘であった。
その前の段階として、『ゴブリン王の挑戦』と呼ばれる東北地方エリア開放イベントが発生していた。
これはいきなりエリア開放が行われるのは、現実世界とリンクしている以上、『どうしてそこに行けなかったのだ。』という理由づけとしての意味合いが強い。
しかし、これがとんでもない仕様だったのだ。
エリア開放の地に降り立った<冒険者>たちが見た物は。
レベル70。レイド4のゴブリン王。
レベル55。レイド3のゴブリン族長が6体。
彼らがバラバラにゴブリン達を指揮しながら暴れまくっている姿だった。
レベル70というのは、現在の冒険者の限界であるレベル50を20レベルも上回る相手である。
しかもレイド4。つまりこのゴブリン王はレベル70の冒険者が96人集まってようやく倒せる相手なのだ。
事実最初に突撃したイギリスのギルド『ブラック・ブレード・ブラザーズ』が、ゴブリン王のHPを10%も減らせずに敗退している。
さすがにこれではゲームにならないだろう。さすがに運営もそれは考えている。
東北地方の幾つかの地域に存在する、ゴブリン砦を攻略する事で、ゴブリン王の力が削られていき、戦闘力が下がっていくという設定がなされていた。
ゴブリン砦の難易度はレベル30の2パーティ(12名)が最低ランクで、最高ランクとなればレベル50の4パーティ(24名)が基準である。
レアアイテムこそ存在しない(これは、うかつにレアアイテムを手にされて、パーティー分裂を防ぐための運営の優しさである。)が報酬はそこそこ良く、初心者~中級者の攻略にうってつけに設定されていた。
こうすることによって、『初心者にも簡単に攻略できる場所』と『上級者が全力を振り絞って攻略できる場所』を連動させることによって、上級者が初心者を導きやすいようにしたのだ。
『どれぐらいゴブリン王のレベルを下げれば96名で攻略できるようになるか。』
『どうすれば、ゴブリン王を簡単に倒すことができるようになるか。』
そういった議論は幾つかのギルドで行われていた。
そんな中、ギルド『ねこまんま』の出した判断は。
『ゴブリン王の攻略を一時的にあきらめて、ゴブリン砦の報酬を貰いまくる。』
という、わりかし消極的な代物であったのだった。
『……あのー。もし、ほかの組織からゴブリン王討伐の協力依頼が来たらどうしますか?』
『そいつはそいつの判断に任せる。確かにゴブリン王討伐の報酬はでかいが……討伐できなきゃ意味がねえ。
攻略できるようになった瞬間に討伐に行くとかいう方法も考えたんだが………。』
『それじゃあ、張り付いているあいつらに、絶対先こされますよね。』
ゴブリン王撃破の報酬は、『赤の魔石』。最高級の武器の素材であり、現状においてはレイドモンスターを倒すぐらいしか入手方法がない特別なアイテムである。
必然的に数が限られており、廃人連中の間でも取り合いが発生している状況だった。
よってゴブリン王の討伐は異常なまでの過熱を見せていた。
『くそっ! <吟遊詩人>がやられたっ! <付与術師>もまずいっ!』
『軽装の奴は下がれっ!やられるぞっ!!』
『ああっ!!今度は<妖術師>と<暗殺者>がっ!』
ゴブリン王へのラストアタックをとるためのギルド間同士のPK合戦が始まっていた。
耐久力の無い職業はPK合戦であっさりやられることになる。
必然的に耐久力が高い、前衛戦士職と回復職が残ることになるが、MPが切れて倒されたり、暴れまわるゴブリン王によってダメージを受けたりと次々と倒されていった。
『くそっ! またやられたっ!!』
この状況はまさに冒険者全員で攻略を行う『祭り』であった。
この時のゴブリン王の能力は簡単に言えば<森呪使い>の能力をフルに利用した万能型である。
HPを回復呪文で回復しつつ、従者を召還しては暴れまわらせてダメージを与えながら、ボス特性で状態異常を防ぎ、MP吸収武器でPCのMPを奪いながら暇を与えれば強力な範囲攻撃をぶっ放すという、それこそPC達がすれば速攻でヘイトの稼ぎすぎで倒される可能性が高い
なお、プレイヤーでそんなことをすれば、たちまちのうちに攻撃が集中して撃破されるのでやらないように。
『現在ゴブリン王のレベル68!! 現在4ギルド、100名が戦闘にあたっていますが、MPが減る様子は一切ありません!!』
『第四砦攻略班、攻略に失敗……<ねこまんま>に攻略権が移ります!!』
『トラップか? くそっ! <罠探知>持ってるサブ職業はどれだああああ!』
『こちら第六砦攻略班……攻略成功!! 報酬手に入れたら次の砦の援護に向かいます。』
砦を攻略するたびにある程度のお金は手に入るようになっている為、小さなギルドがお手軽に挑戦するのに丁度良いクエストになっている。
砦の攻略が終わるたびに、ゴブリン王の経験値が少しずつ減っていくのが見えるようになっていたのだ。
『ゴブリン王のMPが減り始めた!』
その報告が入ったのは、イベントが始まって3日目の事だった。
レベルが下がっていけば『万能』は『器用貧乏』になっていく。
ゴブリン王一人で攻撃・回復の両方を行っている以上、回復に重点を入れれば攻撃がおろそかになるのは道理だった。
そしてMPの回復をMP吸収武器に頼っている以上、攻撃をおろそかにするということはMPの回復量が減るのは道理である。
守護戦士の槍が、バイキングの斧が、武道家の拳が、武士の刃がゴブリン王のHPを削っていく。
対するゴブリン王は必死に回復を試みるのだが、回復している間は攻撃できないので、さらに<冒険者>達は激しい攻撃を仕掛けてくる。
やがて10日目……ゴブリン王はレベル55まで下がり、MPも尽きかけ、もはや武器をぶんぶんぶん回すだけの憐れな存在になったゴブリン王の体がずしんと倒れた。
『よっしゃあああああああああああああああああ!』
『やったぞおおおおおおおっ!』
『誰だ? 最後の一撃を手にしたのは?』
そんなこんなで皆でワイワイと勝利を喜び合う面々。
皆が喜び合う中、こんなメッセージが表示された。
【冒険者の皆様の活躍によりゴブリン王は退治されました。
しかし、邪悪なるゴブリン族は新たなる王を選出し、ヤマトを破滅に導かんとしています。
冒険者の皆様はゴブリン王の戴冠式を阻止せねばなりません。
さあ、勇気ある冒険者よ! 新たなる冒険の始まりだ!!】
『レイドイベント、<ゴブリン王の帰還>が解放されました、か。』
『なるほど、これはうまいな。』
レイドイベントの問題点は、初心者・中級者プレイヤーと廃人プレイヤーの隔絶感である。
しかしこのイベントは、初心者・中級者が参加しても問題なく……いや砦の数を考えるなら、初級・中級冒険者も交えて攻略しながら進めることを推奨しているこのレイドイベントは色々と考えられてるなとPC達はそう思っていた。




