1 部屋もドレスも宝石も、どうぞ差し上げます
「ねえ、あなたぁ、ワタクシ、あちらの部屋がいいですわ、前の奥様のお部屋は、思いが詰まっているでしょうから、とても心苦しいのですわ」
「いや、しかし、あの場所は娘の」
「あら娘はいつか嫁いで行くのですよ。ワタクシはこれからずっとあなたとここに住むのに」
継母が泣きそうな顔をする。
「そうか、確かにプリシラの言う通りだな。では夫婦の部屋は、場所を変えて作り直すことにしよう」
「まあ、うれしいぃ」
その日、新しい継母が伯爵家に入ってきた。
そしてお父様と私が屋敷の説明をしながら家を回っているときに、継母は私の部屋の場所が良いと言い出した。
お母様が亡くなって半年、由緒ある伯爵家に夫人がいないのはよくない、周りの勧めもあって男爵家から若い後妻をもらった。
歳は私より五歳上。姉と言ってもいいくらい若い。
仲良くなれるかと思っていたけれど。
初日にして、私は自分の部屋を追い出された。
ついでに継母はこうも言った。
「ねえ、あなたぁ、ワタクシ、このお部屋のドレス頂いてもよろしくてよ」
「しかしそれは、娘のアリッサの」
継母の表情が一瞬で曇った。
「歳もそんなに変わりませんし、ワタクシ、初婚なのに後妻ですもの。立場はわきまえておりますわ。新しいドレスを作って散財するなんて気が引けますもの。アリッサには、前の奥様の形見のドレスがたくさんあるでしょう」
「そうか、確かに男爵家で着ていたドレスでは家格が合わないな。ひとまずアリッサのドレスで我慢してくれ。プリシラは謙虚だな」
「そんなぁ当たり前のことですわ、あ、な、た」
そうくるのね。
私は、亡きお母様が見立てて作ってくださったドレスを、一瞬で全て失った。
そして、伯爵夫妻の部屋は、私の部屋があった場所に、あっという間に出来上がった。
私は、生前のお母様が過ごされていたお部屋と、そこに置かれていたドレスや家具など一式を受け継いだ。
その夜、お母様を失って、初めて泣いた。
この継母がうちに来てから、色々なものが好き勝手に変えられていった。
お母様の愛した優しい庭園。
淡い色の花々が咲き乱れていたのが嘘のように、真っ赤な薔薇だけの派手な庭園になった。
ある日、私の部屋にズカズカと入ってきた継母は言った。
「ねえ、アリッサ、ワタクシは男爵家から嫁いできたから、宝石も持ってこられなかったの。あなた、形見の宝石を独り占めする気なのかしら」
ジロリと刺すような視線は、私や使用人に向ける目。
とうとうきたわね。侯爵家出身のお母様の宝石、いずれ目をつけるとは思っていたけれど。
とにかく差し出す方が話が早い。
「お継母様、とんでもございませんわ。私の大切な『おかあさま』ですもの。もちろん差し上げますわ」
「あら、まあ、ずいぶんと優しいのね」
「お継母様には、お父様に相応しくあっていただくことが大切、どうぞお持ちください」
継母は、宝石箱の物色を始める。
そして、ただ一つ開かない宝石箱があった。
お母様のお嫁入りの宝石。
侯爵家の血筋でないと開かない魔法がかかっている。
つまり今は、お祖母様と私しか開けられない。
「これ、どうして開かないの?」
「これは、血が繋がっている者しか開けられないのです」
「……まあいいわ、一個くらい残してあげるわ」
「ありがとうございます」
「なら、アリッサ。その代わりにそこの金糸の刺繍のドレスをよこしなさいよ」
目がギラついている。
それは、お父様がお母様に贈ったドレス。
王妃様とのお茶会のためのもの。
お母様のドレスの中では、破格に格の高いものだった。
高価なものだけはわかるのね、この人。
「ええ、お持ちになって、お継母様」
継母は侍女に全てを持たせ、意気揚々と部屋を出ていった。
その後、全てデザインは一新され、派手な首飾りや耳飾りになった。
私の手元に残ったのは、幼馴染からもらった、細い鎖の一粒の石がついたもの。
それと、お母様の実家の侯爵家から持参したその血筋の娘だけが継げるものだけ。
でも取り上げられたのはそれだけではなかった。




