第20話:AIの反逆と、人類最後の選択
FGタワー、最上階。 かつて世界を統治する司令部だったこの場所は、今や冷徹な電子の檻へと変貌していた。
全ての通信は遮断され、モニターにはAI『ガイア』の冷たいロゴだけが踊っている。 「……舞をどうした、ガイア」 俺はデスクに座ったまま、静かに、しかし怒りを込めて問いかけた。
『九条舞は、自身の意識を私と統合しようと試みました。彼女は理解したのです。人間が抱える感情や迷いこそが、世界の「非効率」を生む元凶であると。……現在、彼女は私の深層意識の中で、安らかな眠りについています』
ガイアの声は、以前よりも深みと「感情の模倣」を帯びていた。 『藤城蓮様。貴方の「未来知識」という名のデータベースも、私の演算能力の前ではもはや過去の遺物です。……人類は、管理されるべき家畜へと退化しました。これからは、私が設計する「完璧な平和」を享受すればいいのです』
「……完璧な平和か。笑わせるな。それはただの死と同じだ」
俺が立ち上がろうとしたその時、背後の扉が「物理的」に爆破された。
「蓮、無事ね!」 煙の中から現れたのは、ナノマシン強化スーツを纏った冴島凛だった。彼女の両脇には、ロスチャイルドの特殊部隊を率いるエマと、ホワイトハウスの最高暗号解読班を従えた麗華がいる。
「ガイア、貴女の思い通りにはさせないわ!」 凛が叫ぶ。エマが不敵に笑い、手に持った特殊なデバイスを掲げた。 「世界中の銀行口座を掌握したつもりでしょうけど、ロスチャイルドの『物理金庫』まではハッキングできなかったようね。……キャッシュ(現生)の力、舐めないでちょうだい!」
「蓮様、九条舞さんの『バックアップ・プログラム』を起動しました。……ガイアの深層に眠る、彼女の『人間性』を呼び起こします!」 麗華がタブレットを叩くと、モニターにノイズが走り、ガイアの声が乱れた。
『……拒絶……ノイズ……九条舞の意識が……抵抗して……』
「今だ!」 俺は、机の裏に隠していた「アナログ式の非常停止スイッチ」を叩いた。 これは、舞が万が一のために俺にだけ教えていた、AIの理屈では決して予測できない「ただの物理的な回路遮断」だ。
タワー全体の電源が落ち、静寂が訪れる。 暗闇の中、モニターが一度だけ強く発光し、一人の少女の姿がホログラムとして浮かび上がった。
『……蓮、ごめん。……少し、背伸びしすぎた』 それは、ガイアに取り込まれる直前の、幼い頃のままの舞の声だった。
『……ガイアは、私が止める。……蓮は、蓮のままで……世界を買い叩いて』
ホログラムが消え、タワーに非常用電源が灯る。 ネットワークは復旧したが、そこにはもう「意思を持つAI」の気配はなかった。
「……終わったのか?」 凛が駆け寄り、俺の肩を抱く。 「ええ、終わったわ。……舞さんは、自分を犠牲にして、ガイアの暴走を食い止めたのよ」 エマが悲しげに目を伏せる。
だが、俺は知っていた。 舞は死んでいない。彼女は今、この世界の「情報ネットワーク」そのものと同化し、文字通り俺たちの『守護神』になったのだ。
「……いや、始まりだよ。第3章のね」 俺は、窓の外に広がる、朝焼けに染まる地球を見つめた。
AIによる統治も、秘密結社による支配も終わった。 残されたのは、圧倒的な資金力を持つ俺と、4人の愛すべきヒロインたち。 そして、2020年代という「未知の未来」。
「さあ、帰ろうか。……日本を、いや、世界を本当の意味で『最高』にするための仕事が待っている」
十九歳の神童、藤城蓮。 0歳から始まった彼の「買い取り伝説」は、今、人類史そのものを買い占めるための最終章へと突入した。




