第18話:南極オークションと、神への請求書
南極大陸。 氷点下五十度を越える極寒の荒野に、FG社の最新鋭ステルス輸送機が着陸した。 超古代文明の地下都市『アガルタ』。かつて『エルダー』が世界の管理者として君臨したその場所は、今や藤城蓮の新たな『資産管理拠点』へと変貌していた。
「素晴らしいわ、蓮。あなたに屈服させられた後も、彼らは我々の言うことを聞こうとしなかったけれど……この『ベーシックインカム停止』という脅しには、さすがの彼らも震え上がったようね」
地下都市のメインホール。エマ・ロスチャイルドが、まるで自分の邸宅であるかのように優雅に歩く。 彼女の指示により、捕らえられた『エルダー』の十二人の長老たちは、凍り付いたような表情で床にひざまずかされていた。
「神だの調律者だのと嘯いていた連中が、まさか『今月のベーシックインカムは止まるのか!?』と泣き叫ぶとはな。……人間は、衣食住の前では等しく無力だ」
俺は、最上級の防寒スーツに身を包み、長老たちの前に立つ。 俺の隣には、凛とした表情でアサルトライフルを構える冴島凛。背後には、情報統制を徹底するための通信ジャミング装置を操作する九条舞。そして、長老たちに厳しい目を向ける神崎麗華。
「さて、『エルダー』の諸君。君たちの『価値』を査定させてもらう」
俺は舞が作った小型ドローンを飛ばし、地下都市内部の精密スキャンを開始させた。 壁に埋め込まれた古代のテクノロジー、異次元へのゲート、そして地球の核に直結するエネルギー炉。 それらは、すべて人類の常識を遥かに超えるものだった。
「これらはすべて、人類を導くための叡智……貴様のような子供に弄ばれるものではない!」 長老の一人が、悔しさに顔を歪めて叫ぶ。
「ほう。人類を導く? 君たちが過去、パンデミックや戦争、災害を『演出』してきたこと、僕のデータベースはすべて記録済みだが?」 俺は冷笑する。
「いいか。君たちの『叡智』は、今日から僕のフューチャー・ゲートの『商品』だ。そして君たちの『命』も、だ」
俺がタブレットを操作すると、メインホールに巨大なホログラムが投影された。 それは、世界中の政府代表者や、富豪、科学者たちが参加する『オンライン・オークション』の画面だ。
「これは……!?」
「君たちが『神の力』と呼んでいた超技術。それを、世界中の権力者たちが血眼になって欲しがっている。……彼らは君たちを操ってきた『道具』として、君たちの『存在そのもの』を競りにかけるだろう」 俺は不敵に笑う。
「さあ、始めよう。……『エルダー』諸君への、ささやかなお別れ会だ」
オークションが始まった。 長老たちが裏で操っていた各国首脳たちが、彼らを『手に入れる権利』を巡って血眼になって競り合う。 古代の重力制御技術、不老不死の秘薬、時間遡行装置……。 一つ一つのオーパーツが、数兆円、数十兆円という価格で次々と落札されていく。
そして、最後に残ったのは、『エルダー』の十二人の長老たち自身だ。
「最期の品は、『人類の管理者』を名乗った長老たちそのものです。……彼らを、貴方たちの『歴史の研究材料』として買う権利。……最低落札価格は、100兆円から」
俺の言葉に、長老たちは絶望の顔を浮かべる。 数千年間、神として君臨してきた自分たちが、一人の少年の手で「商品」として売られていく。
「……勝ったわね、蓮。あなたは、本当に『神』そのものだわ」 エマが、俺の肩にそっと手を置く。
「ええ、蓮様こそが真の王です。……ですが、一つだけ気になることがございます」 麗華が、鋭い視線を凛とエマに向ける。
「最近、凛さんとエマさんが、蓮様の『朝食』のメニューを巡って、互いの会社の株を担保にオークションをされているとか……」
「なっ! 麗華、それは公私混同よ!」 「あら、ビジネスに私情を挟むなんて、凛もまだまだ甘いわね。……蓮の胃袋を掴むのも、立派な『支配』の一つでしょう?」
舞は、そんな修羅場などどこ吹く風とばかりに、タブレットを操作している。
『……蓮、新しい宇宙船、完成した。……もう地球、狭い』
俺は、オークションで莫大な利益が確定した報告を耳にしながら、頭を抱えた。 地球の裏側を支配し、超古代の力を手に入れた。 だが、このハーレムだけは、未来知識をもってしても制御不能のようだ。
「……やれやれ。宇宙を買い取る前に、この部屋の女たちを何とかしないと、命がいくつあっても足りないな」
十九歳の神童による、地球の完全なる統治。 それは、同時に新たな「正妻戦争」の勃発でもあった。




