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セーラー服に袖を通したかっただけなのに  作者: どってんかい


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1 もんもん

 私には憧れている制服がある。

 

 襟に1本の黒い線が入った紺色のセーラー服で、制服の色より明るめの紺のリボンがとても可愛い。


 初めて高校受験案内を見た時、あの制服の学校が地域の中でトップであることを知った。


 必死に頑張って迎えた人生のピークはあの時。



「賀川さん、この調子なら合格するよ」



 担任の先生にこう言われて舞い上がってしまった。


 だが、結果は違った。私・賀川陽菜(かがわひな)に突きつけられたのは『不合格』の3文字。


 不合格なのは自己採点した時に分かっていた。


 あの問題を間違えたから、あそこで3点落としたからとか、考えても仕方がないことを後悔していた。


 とにかく、私はあのセーラー服を着れない。入試の結果が発表されてから空虚な気分のまま。


 一方、受験に関して私とは正反対な親友が、隣に住んでいる。名前は月形凛花(つきがたりんか)。


 凛花も勉強できる方で、私と同じ学校を受験した。今でも縁石に座って話した光景をはっきりと思い出せる。



「陽菜が受けようとしている学校、良い感じだね」


「そうでしょ?!」


「私もそっちにしようかな……?」


「本当に?」


「もちろん」


「やったぁ! 一緒に行こうね!」



 言い出しっぺが行けないということにも、憂鬱な気持ちになってしまう。


 私も凛花も陽キャではないので、たとえクラスが別になったとしても、同じ高校に通うことで保険をかけたかった。


 私が着たくもないブレザーで学校に行く間、凛花だけがあのセーラー服を着て行くのは、嫌な呪いのように思える。


 流石に3年も経てば、自分のに愛着が湧いてくるはずと信じたい。


※


 今日は入学式。凛花の学校も今日に行うのは嫌がらせに違いない。



「出かける前に凛花ちゃんと一緒に写真を撮ろう」



 母は私の部屋を覗き込みながら言った。


 凛花の家との付き合いは家族ぐるみで、キャンプやコストコに行くことも多い。



「うん、よく似合っているよ」


「S学園の特進科でも十分凄いんだから、自信もって」


「母さんの言う通りだ。陽菜は賀川家始まって以来の天才なんだから」


「うん……」



 新しい制服を着てるのに、不満なのがバレた。


 黒いハイソックスとワイシャツの上に重ねられたブレザーが体を拘束してくる。


 第1ボタンまで閉めてネクタイをしているため首が苦しく、一刻も早く脱ぎ捨てたい。


 校則違反にならない範囲でヘアアレンジを模索しても、髪が伸びないことには出来ることも少ない。



「月形さん、かかりそうだから、先に私たちで撮っちゃいましょう」


「それがいい」



 父がスマホ用の三脚を路上に立てて撮影の準備をする。



「5、4、3、2──」



 写真の出来栄えを、両親は嬉しそうに見ていた。


 おそらく、遠くで暮らす祖父母や地方の大学に通っている姉に送るものなのだろう。


 姉があの学校の卒業生であれば、制服ゾンビにならずに済んだのかもしれない。


 2人の様子を見ていると、全く喜んでいないことに申し訳ない気持ちと整理出来ない悔しさがぐちゃぐちゃになった。



「あ! 陽菜ちゃん、制服似合ってる〜!」


「月形さん! どうも……!」



 凛花のお父さんは私の心情なんか知りようがないため、こんな不謹慎なことを簡単に言える。



「理子さん(凛花の母)、休みが取れなかったのは残念ですね」


「ええ。でも、僕が理子の分も娘の晴れ姿を見届けるので!」



 大人たちの景気の良い笑いをよそに、玄関の方を見つめる。


 セーラー服姿の凛花が出てくる瞬間を見逃したくなかった。私の『憧れ』を纏った彼女と撮るのにドキドキしている。



「凛花! みんな集まっているからおいで!」


「うん!」



 幼馴染は黒いタイツを履いてスカート丈は膝が見えるぐらいだった。


 耳が隠れた真っ黒なショートヘアもいつもと変わらないはずなのに、とても可愛らしい。



「凛花ちゃんもよく似合ってる……!」


「うん!」


「ありがとうございます……」



 凛花は頬を赤く染めて、私の両親に軽く頭を下げている。



「うん。可愛いよ。本当に」


「陽菜まで……!」


「よし、揃ったし撮るぞ」



 主役である私たちは隣同士で真ん中に立つ。あまりにも近すぎて、セーラー服の斜めに入っている繊維の線がはっきりと見えた。


 写真の私は、家族だけで撮ったものより満たされているように見えた。


 しかし、気持ちの昂りはここで終わらない。


 ふと凛花の方を振り向くと、彼女は肩を動かしていた。


 この動作自体はごく普通なのだが、視線を斜め下に向けると折れないように太くなっているスカートのゴムの上に真っ白な空間が見えた。


 この正体がキャミソールなのは分かりきっているのに、不思議と情欲を煽られてしまった。


 ツルツルとした裏地とあのキャミの間は私が生み出すことが出来ない聖域。互いのほくろの数を知っているような仲なのに、あそこに魅惑を感じる。



「行くよ!」



 今思うと、私の門出は入学式ではなく、何気ない親友の振る舞いによるものだった。

 初めまして、どってんかいです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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