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第七話 百人の落ちこぼれと、たった一つの入学条件



王都の学院を退学になった子供が、百人以上。


村長から報告を受けた直後、俺たちは丘の上から街道を見下ろしていた。


馬車は十二台。


どれも荷物と子供を大量に乗せ、ゆっくりとエルガ村へ近づいている。


先頭の馬車には王国教育院の紋章が掲げられていた。


リリアが聖剣へ手を添える。


先生。追い返しますか。


なぜそうなる。


王国が先生へ、不要な者を押しつけようとしている可能性があります。


その可能性は高いな。


だが、子供たちに責任はない。


俺が丘を下り始めると、七人の教え子と四人の生徒も後ろからついてきた。


村の入口へ到着した頃、先頭の馬車が止まる。


降りてきたのは、眼鏡をかけた女性だった。


二十代半ばほど。


灰色の制服を隙なく着込み、両腕で分厚い書類を抱えている。


女性は俺の姿を確認すると、深く頭を下げた。


アレン・クロフォード学院長ですね。


そうだ。


私は王国教育院所属の監査官、クラリス・エーベルトです。


監査官が、どうして百人もの子供を連れてきた。


クラリスは抱えていた書類を差し出した。


そこには百十二人分の名前と、退学理由が記されていた。


魔力が多すぎる。


魔力が少なすぎる。


武器を持てない。


命令を理解できない。


授業中に眠る。


魔物を怖がらない。


魔物を怖がりすぎる。


精霊の声が聞こえると言い張る。


適性検査の結果が毎回変わる。


ほとんどが、王都の学院では指導できないと判断された子供たちだった。


先代国王陛下の命令により、王都で才能を認められなかった者は、本人が希望すればアレン学院長のもとで学ぶことができます。


全員が希望したのか。


いいえ。


クラリスは正直に答えた。


約半数は保護者が希望しました。残る半数には、帰る場所がありません。


馬車の中にいる子供たちは、静かだった。


遠足へ来た様子ではない。


窓からこちらを見ながら、追い返されるのを待っている。


同じ経験を何度もしてきた顔だ。


王都から、教育費は出るのか。


出ません。


食費は。


支給されません。


寝具や教材は。


最低限の荷物だけです。


リリアの周囲から、目に見えない圧力が広がった。


クラリスの眼鏡に小さな亀裂が入る。


王国は、百十二人の子供を何の支援もなく先生へ押しつけたのですか。


正確には、こちらの学院が受け入れを拒否した場合、子供たちは各地の救護院へ送られます。


クラリスの声には、わずかな怒りが混じっていた。


彼女自身も、この命令へ納得していないらしい。


俺はもう一度、子供たちの名簿を見る。


生徒は現在四人。


使える教室は一つ。


食料は数日分。


百十二人を受け入れる余裕など、どこにもない。


普通なら断るべきだろう。


先生。


ミレイユが俺の服の袖をつかんだ。


自分も追い出された経験があるため、馬車の子供たちを放っておけないのだろう。


セシリアも何も言わず、俺を見ている。


ノエルが抱いている角ウサギまで、馬車へ顔を向けていた。


俺はクラリスへ名簿を返した。


子供たちを降ろしてくれ。


受け入れていただけるのですか。


まだ決めていない。


まず、一人ずつ話をする。


十二台の馬車から、子供たちが降り始めた。


最年少は七歳ほど。


最年長でも十六歳くらいだ。


獣人、亜人、貴族らしい服装の者、身寄りのない子供。


全員が不安そうに並ぶ。


俺は百十二人の前へ立った。


この学院には、立派な校舎も、豪華な食事もない。


背後では、屋根の一部を失った校舎が風を受けて軋んでいる。


説得力は十分だった。


教師も足りない。


リリアたち七人が不満そうな顔をしたが、今の彼女たちは教師見習いだ。


食事も寝床も、今日から全員分を用意しなければならない。


だから、強くなりたいだけの者は、別の学院へ行った方がいい。


子供たちの表情が暗くなる。


俺は言葉を続けた。


この学校で学べるのは、自分に何ができるのかを探したい者だけだ。


一番前にいた少女が、恐る恐る手を挙げる。


試験があるのですか。


ある。


子供たちの緊張が一気に高まった。


剣や魔法の試験ではない。


俺は壊れた校舎を指した。


自分が学びたいことを一つ。


それから、この学校のために自分が手伝えそうなことを一つ。


それを俺に教えてくれ。


少女は目を瞬かせた。


それだけですか。


それだけだ。


できるかどうかは関係ない。


今できなくても、覚えればいい。


最初の少女が、胸の前で手を握った。


文字を読めるようになりたいです。


手伝えることは。


掃除なら、できると思います。


合格だ。


少女の顔に笑みが広がった。


その後ろにいた獣人の少年が前へ出る。


計算を覚えたい。鼻が利くから、食べられる草を探せる。


合格。


魔法を使えるようになりたいです。料理を少しだけ作れます。


合格。


母さんを守れるようになりたい。力仕事ならできます。


合格。


一人ずつ話を聞いていく。


誰一人として、何もできない子供はいなかった。


針仕事ができる。


小さな弟妹の面倒を見られる。


野菜を育てたことがある。


動物の世話が得意。


歌を覚えるのが早い。


火を起こせる。


水の場所が分かる。


王都の学院では評価されなかったものばかりだ。


だが、百人以上が一緒に暮らすなら、どれも必要になる。


最後の一人が答え終えた頃には、日が傾き始めていた。


百十二人全員、入学を許可する。


一瞬、誰も声を出さなかった。


やがて子供たちの間から、小さな歓声が上がる。


泣き始める者もいた。


クラリスは眼鏡を外し、目元を押さえている。


問題は、これからだ。


今夜までに、百十二人分の寝床と食事を用意する。


俺が告げると、七人の教え子たちが一斉に動き出した。


フィオナとヴァルガスは森へ向かい、枯れ木を運ぶ。


エリシアとセシリアは、木材を同じ長さへ切り分ける。


マリアが精霊へ頼み、校舎周辺の地面を平らにする。


ルシアは魔法で簡易宿舎の設計図を描き始めた。


セレナとノエルは、井戸と調理場の衛生を整える。


クロエは姿を消し、どこからか大量の鍋と毛布を持って戻ってきた。


どこから持ってきた。


王都の倉庫です。


返してこい。


きちんと購入しました。


ならいい。


リリアは子供たちをまとめ、作業を分担していた。


先ほどの授業で、相手が何をできるかを見る大切さを覚えたらしい。


夕暮れまでに、運動場には何棟もの簡易宿舎が完成した。


豪華ではない。


壁も薄く、寝台も木を組み合わせただけだ。


それでも雨風は防げる。


子供たちは、自分たちで作った寝床を嬉しそうに眺めていた。


夕食は、大鍋で作った野菜のスープ。


パンは村から譲ってもらった。


百人以上が並んで食事をする光景を見ながら、俺はようやく実感した。


ここはもう、廃学院ではない。


生徒百十六人。


教師一人。


教師見習い七人。


古竜一体。


角ウサギ一匹。


少し変わった学校だが、今日から本当の学院が始まった。


先生。


クラリスが俺へ近づいてくる。


王都へ戻る馬車は、明朝出発する予定だったな。


はい。


彼女は少し迷い、手にしていた王国教育院の徽章を外した。


その馬車だけ、王都へ返していただけませんか。


どういう意味だ。


クラリスは徽章を俺へ差し出した。


私も、この学院で働かせてください。


七人の教え子たちが、同時にクラリスを見た。


世界最強の英雄たちから向けられた視線に耐えながら、クラリスは言葉を続ける。


百人以上の生徒を、学院長お一人で管理するのは不可能です。


確かにそうだ。


私は教育院で十年間、予算、名簿、授業計画、寮の管理を担当してきました。


今、この学院に最も必要な人材かもしれない。


ただし。


クラリスは壊れた眼鏡をかけ直した。


私を雇う場合、先にお伝えしなければならないことがあります。


彼女は王都の方角へ目を向けた。


今回送られてきた百十二人は、王都に残っていた落ちこぼれのすべてではありません。


まだいるのか。


はい。


クラリスは静かに頷いた。


各地の学院と救護院を合わせれば、同じ境遇の子供は少なくとも三千人います。


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