恩恵(ギフト)と罰(ペナルティ)
「私も一度は神界に捕らわれたのだ。しかし、そなたらの言うところの創造神様が私を密かに解放してくれた。」
俺は今、神様と話をしている。
創造神が当たり前のように出てくる。
創造神はこの世界の神々の長だ。
別格の神様だ。
神話では他の神々は皆、この創造神の息子ということになっている。
そして目前にいる魔王メルコルはその末弟ということになっている。
本当に神様がいるんだな。
そして…
俺は今、神様と話しをしている。
「私の正体を知るくらいでは、これまでの報いとしては過少すぎるであろう?どうも私が大金を与えると言う話になっているようだが…」
魔王は少し面白がっているような表情でノルデル伯とソニアに視線を飛ばした。
ノルデル伯は申し訳なさそうに黙って頭を下げ、ソニアは悪戯がばれた子供のような表情で首をすくめた。
「それでも、そなたらへの礼としては足らぬであろう。何か望みはないか?」
「後ろにいる者達へは、各自の希望を聞いてやってもらえませんでしょうか?ここまで来るのに私の果たした役割など彼らのごく一部に過ぎません。」
「無論だ。皆の希望を聞こう。しかし先ずはそなたの望みを聞こうか?」
「では、魔王様、どうしてあなたは解放されたのですか?」
「そんなことを聞くだけでよいのか?」
「私は歴史を学ぶのが趣味なのです。魔王様のことはウェスタリアでは知られておりません。その知識はとても貴重なのです。」
「それでは話をしようか…」
魔王様の話はこうだ。
第二次暗黒大戦の後、一度は魔王様も神々とともに強制的に神界に連行された。
そして、神々に糾弾され、一時は幽閉もされた。
神界においては魔王様は罪人として他の神々から虐待され続けたそうだ。
そのことを憐れまれた創造神は魔王様を解放することにした。
そして、人界に戻すことを決意された。
「但し、力のほとんどを奪われたがね。巻き添えになったレネはとんだとばっちりだ。」
魔王様は苦みのある微笑を浮かべながらも、どこか茶目っ気のある視線を半神レネに向けたが、情のない半神は無反応だった。
「なぜ創造神は魔王様のお力を奪われたのですか?」
「罰だよ。」
「?」
「創造神は我々に対して常に公正だ。一方に何等かの益が与えられれば、同様に損も課すことになっている。逆もまた然りだ。」
「では、他の神々が禁じられている人界への復帰の代償として御力が奪われたと?」
「そうだ。私を解放することは神々からの虐待という罰への代償として与えられた恩恵で、人界への復帰は恩恵であり、その恩恵には罰が伴う。」
「恩恵と罰ですか…」
これだけ強大な力を持つ神様(或いは元神様?)でも悩みはあるんだな。
「うむ。例えば第三次暗黒大戦で神々は召喚者を出現させた。あれは私への嫌がらせだな。私にとっては罰だから、創造神は私に恩恵をくださった。」
「その恩恵とは何だったのですか?」
「スヴァート族の裏切りだ。彼らの長曰く、創造神からの啓示を受けてライオス族に反乱を起こし、我らの側についたとのことだ。当時の我らにとって彼らは貴重な戦力であった。」
「他にも恩恵と罰はあったのですか?」
「最後はやはり第三次暗黒大戦の後半、神々はやはり私への嫌がらせとして私に感情を植え付けた。奴らとしては悪戯程度のことだったのだろう。おかげで私はそれ以降、敵にも憐れみを感じるようになってしまい、人間の死に悲しみを感じるようになってしまった。お陰で情に溺れて正確な判断ができなくなってしまったのだ。」
そうは言うが、俺達から見ればそうではないんだけどな。
少なくとも魔王様が情を覚えるようになってからヴァラキア魔王国軍は一時持ち直したのは事実だしな。
しかし、情のない存在から情を得た魔王様としては罰であったようだ。
俺は今一つ賛同できかねたが…
「但し、この代償に相当する恩恵はまだ受けておらぬ…」
そう呟くと魔王様は考えに耽りうつむいてしまった。
暫く沈黙した後に魔王様は俺を見てこう言った。
「もしかしたらそなたが恩恵なのかもしれぬな…これで辻褄が合う。」
仲間達もささやかな要求しかしなかった。
ンダギはンダガを英雄としてヴァラキアでも讃えてほしいと望んだ。
魔王様はそれに答えて、ンダガを苦しむ民を救った市井の勇者として正式にヴァラキア魔王国の正史に記す事を約束した。
ブロウはうまい酒を望み、フレッドはヴァラキア製の弓矢を、エミィはヴァラキア地方の詳細な地図を望んだ。
魔王様は何れの希望にも答えることを約束した。
最後にジルワードからテルデサード王国の特使が数日後に来ることが伝えられた。
目的は勿論、オーク、ゴブリン追放令の公布だ。
事実上の宣戦布告であることは疑いない。
特使の謁見の翌日には御前会議が開かれるとのことだ。
アルフハイムに続き、こちらでも御前会議だな。
こちらでは座敷牢まがいの席ではなさそうだが…




