B.G. so3(新世紀が訪れた)
それから?
ベリンダを見送った。
それから?
リックが見舞いに行った。
リックは決意を持って帰ってきた。
それから?
リックは火星に行った。
それから?
便りのひとつもない。
それから?
ぼくらは散り散りになった。
もう、誰も集まらない。
大気の熱は、すっかり冷えた。
ベリンダは、回復室を出られなかった。
それからどうしたって?
ぼくは、彼らの元へ向かった。
彼らは、やさしく迎えてくれた。
ぼくの〈番号〉が箱に入れられた。
焼いたはずの番号は死んでいなかった。
いまはただの〈数字〉になった。
抽選の結果を待っている。
太陽が沈んで、夜になる。太陽が昇って、朝になる。
ぼくは公営住宅に住んでいる。
住人はみな、気がいい。
でも、夜遊びはない。
酒は飲まない。煙草は吸わない。
ぼくは抽選の結果を待ち続ける。
必要なものは届けられる。
不要なものは引き取られる。
無駄のない、あたらしい生活。
社会は、あたらしいひとたちが担っている。
彼ら。
大気が動いて、地上も変わる。
世界の代謝はうまくいっている。
ぼくは、彼らの言葉を学んでいる。
文字は合理的だが、発音は難しい。
いずれ、よどみなく使えるようになるだろう。
咽喉も・処置が・済めば。
未来人へ。
ケッタイでコッケイな世代は去った。
新世紀が訪れた。
ぼくは彼らと同じになる。
ぼくは彼らと共にする。
ぼくは、地上に残るのだ。
月と太陽が入れ替わる。
ぼくは、ただソファに座って公共放送を見る/ベッドに入って横になる。
彼らはコンテンツを、大空の上にアーカイヴした。適切な保管と云う。無形文化と呼ぶ。
雲の上だと説明する。
エーテル層は、遠く高く手が届かない。
紙の本が恋しい。
ぼくは祈ることもない。
あの頃より健康なのかもしれない。
実は一度、自殺を試みた。
どうかしていたのだと思う。
すぐに手当てをされ、傷の一つも残っていない。
彼らはいつも先廻りをする。
いつも間に合う。
ぼくを置き去りにして。
シンクとバスルームは、プライヴァシーを侵害しない程度に知られている。
それは悪いことだろうか?
具合が悪いのなら、相談員に連絡すればいい。
気持ちが沈んだら、相談所の扉をノックすればいい。
彼らはいつだって、ぼくの健康と幸福を願ってくれる。
寝つけないなら、温かなミルクが届けられる。
それが、悪いことだろうか?
なのにぼくは、どこか納得できない何かを持って倦んでいる。
今朝、通知が届いた。
午前十時。
今、午後の十時。
公営の住宅は静まっている。
今はもう、誰もいない。
初めから、この家には隣人もなく、知人もなく、ぼくだけだった気がする。
明日、ぼくはバスに乗る。
それから〈待機室〉で説明を受け、〈処置室〉で生まれ変わり、〈回復室〉で準備をする。
外に出られる準備をする。
ぼくの準備は何もない。
ぼくの〈選択〉は正しかったのだろうか?
地上に残るか/火星へ行くか。
今朝の自分と話せることができたのなら。
もしかしたら・昨日の自分と。
タイムマシーン/一方通行。
明日、ぼくはバスに乗らない。
すぐに医療メカを積んだ救急車がやって来る。
不安定の診断を下される。
今度は、ぼくが間に合うと思う。
ぼくはいま、冷静だ。
心と身体は冷えている。
それから?
おしまいさ。
ぼくは、彼らをちっとも好きでないことに気が付いたんだ。
了
「アレックスおばさんの図書館」
お兄ちゃんの彼女が吹いているギャルの角笛。
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201016-20, 0400, #1-5(END).




