B.G. so1(未来に、ようこそ)
GORILLANIAN: before (Spin Out)_14
たとえば、タイムマシーンがあったとしよう。
三年前の自分に話しても、信じなかったと思う。
一年前でも半年前でも、ひょっとしたら三ヶ月前でも難しいと思う。
なにか起きそうだって予感はした。
火星へ行くか? 地上に残るか?
たとえば、何でもいい──手近なものを手に取って、それを、いつ/どこで/幾らで/あるいは、誰から/貰ったか。
思い出せるだろうか?
それらは、気付いたらすでになかったか?
手近にある他愛もないもの。
今やすっかり前世紀の遺物。
始まりはそんな風だった。
いつの間にか、うねりがあった。
大気を伝って広がった。
肌に感じる空気感/目に見えない。
空にUFOが浮いていた。
今こそ・何か・しなければ。
(空軍が出た。宇宙ステーションのカメラが向けられた)
情報を求めてみんなが集まる。
テレビを点けて、ラジオを聴く。
言葉が電話線を駆け巡る。
電波に空電が混じりだす。
(何か新しいことはあったかい?)
誰もが訊ねる。
(分からないよ)
なのに、誰もが一家言ある。
何故なら、空はずっとつながっているから。
空は、地上の誰にとっても平等だから。
晴れの日もあるし、雨の日もある。曇っているかもしれない。
でも空は、そこにある。
それから?
大気が変わり始めた。
風が吹いて、空気が流れた。
夏の始まりの頃だった。
おかしいって、感じ始めた。
何かが、おかしい。
地上に残る?
そんな問いがあるものか。
火星には、火星人が住んでいる。
ぼくらは地球人だ。
火星人じゃない。
それから?
リックが誘いに来た。「行こうぜ」って。バンダナ持って来いよ。ないなら、タオルでいいぞって。
どうして?
「顔を隠すのさ」
暑いじゃないか。
みんなしてるぜ?
それから?
ぼくらは一緒に通りに出た。
口を覆って、厚いサングラスをして、深い帽子を被って。
ぼくらは仮面の下で、声を出して歩いた。
誰かが写真を撮っていた。カメラを廻していた。
「リック」ぼくは彼を呼んだ。「百年前の映画を見たことあるかい?」
だからなんだ、って顔をされた。
ぼくは云った。写った人たちは百年後に見られるって思わなかったろうね、って。
ちょっと考えて欲しい。
百年前の映画に出てた人たちは、ほぼ間違いなく全員が死んでいる。
誰一人として地上にいない。
ちょっと考えてみて欲しい。
両親の結婚写真を見たことがあるだろうか?
あるいは、祖父母の若い頃の写真を。
あるいは、両親の子供の頃の写真を。
すごく不思議な気持ちにならなかったか?
ぼくはまだ生まれていなくて、父と母の細胞は、いずれぼくを形作るものが、ただのひとつもまだ減数分裂していなくて、生殖細胞でもなんでもなく、つまりぼくはひとかけらも存在しないのに、それから数年後に地上で息を吸っているのが確定している。
百年前/百年後。
火星にいるか? 地上にいるか。
若者たちは、ここにいる。
地上にいる。
リック。百年後の人たちがぼくらの姿を見るよ。
リックは笑った。両腕を広げ、声を上げた。
「未来人へ! おれたちと未来にようこそ!」
いい掛け声だと思った。
だからぼくも真似をした。
「未来に、ようこそ!」
彼らは、新しい言葉を提案した。
ぼくらは、自分の言葉を使い続けた。
自分たちの言葉で、声を上げた。




