亀裂
試合はそこから一進一退。点差は開きも詰まりもせず、78-60。冴島のいない時間帯、特に3Qに課題は残ったものの、快勝と言える内容だ。
全員で電車に乗り、帰る。
「大和くん、大丈夫かな……」
「ほっとけばいいよ」
山里と冨田が何か話していたが、それも頭に入らない。俺はイライラしていた。自分の不甲斐ないプレイ、SG冨田の活躍、PGとしても活躍した冨田、更には山里まで活躍。頭の中がごちゃごちゃして何も考えられなかった。
高校の近くの駅につき、鈴木監督から明日はオフという話を聞き、そこで解散となった。いつもなら冨田と山里と3人で帰る俺だが、そんな気にはなれず自転車に跨りさっさと帰ろうとする。
「待てよ大和」
冨田の声だ。俺は振り向かずにそのまま走り去ろうとする。
「大和くん!」
山里の声で1度両足を地面につく。その瞬間に冨田が追いつき、サドルの後を掴まれる。
「待てって言ってるだろ」
冨田が怒りながら俺を睨む。俺は仕方なく自転車を降りて2人の話を聞く事にする。
「悪かったな、まさか俺がスタメンになるとは思ってなかった」
冨田が謝る。
「お前は俺をスタメンにしようと頑張ってくれてたんじゃないのかよ」
「それは……」
珍しく言葉に詰まる冨田。
「俺はそうだと思ってたよ。なのに……なんでお前がスタメンになってんだよ」
「……すまん」
沈黙が流れる。
「しかも活躍しやがって……俺の立場はどうなるんだ」
冨田は言い返せない。多少なりとも罪悪感があったのだろうか。
「大和くん、それは違うと思うよ」
言い返したのは山里だった。目が点になる。
「大和くんをSGにするために3人で自主練してたけどスタメンになるのは実力がある人。監督の信頼を勝ち得た人だけだよ」
「俺に実力がないっていうのかよ」
「うん」
はっきり言い返されて黙ってしまう。俺は1on1なら1年生になら誰にも負けない自信がある。冨田が相手でもだ。
「単純な実力なら2人はそんなに差はないと思う。けど心の力は段違いだったって今日わかった」
「心の……力?」
山里は冷静に怒っている。俺はただただ話を聞くしかなかった。