第4話
「帰らないわよ」
そう、アイレンは目の前の三つ目だという混合種に言い放った。
少しは予想していたものの、全く予想通りという答えではなかったため、
「……どうして?俺が怖くないの?」
シズリーは緑色の瞳を丸くする。
「どうして怖がる必要があるのよ」
片眉をあげてアイレンはシズリーの緑色の瞳を見る。
「いや、だって……え?」
戸惑いを見せるシズリーを余所に
「何年一緒に居たと思ってるの?」
と問いかけながら近づいて行く。
彼女のブーツのヒール音が、木製の床をコツコツと鳴らす。
そして、自身よりも背の高いシズリーの胸ぐらを掴み、
「アンタが何者でも……私はアンタを受け入れるつもりだけど?」
緑色の瞳に金色の瞳を絡ませて、アイレンは真正面から問いかける。
「……っ……」
胸ぐらを掴まれ、グッと近くなったらアイレンの瞳に、シズリーはたじろぐ。
「第1、アンタだって私が人殺しだってのに、怖くないんでしょう?」
と、付け足してアイレンはシズリーを解放する。
「それは……まぁ……」
歯切れの悪い返事に
「それとなんら変わりないわ」
と、会話に終止符を打とうとする。
シズリーは腑に落ちなかったのか、そんなアイレンを余所に
「でも……三つ目だよ?気持ち悪くないの?」
と、言葉を紡ぐ。
その言葉にアイレンは
「はぁ??今更すぎね」
苛立ちを含んだ声を上げる。
眉間に皺を寄せ、アイレンに再び胸ぐらを掴まれ彼は、引き戻される。
「……ちょっ」
彼女の瞼が一度閉じ、再び開かれる。
そして
「自惚れてんじゃないわよ」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……?」
視線を絡ませようとはせずシズリーは答える。
「こっち見なさいよ」
「ぅぶっ」
彼女は言い捨て、彼の顎を捉え
「緑色の瞳は、なんら他の混合種と変わらないわ」
金色の瞳でしっかりと目の前の緑色の瞳を睨みつける。
「だから、三つ目はここ……」
と、額の上で横に伸びる傷を指差す。
「……【傷】なんでしょう?」
「ぇ?」
キョトンとする、シズリーに彼女は
「言いたくない事を言わせるような状況を作ってしまったのは私の責任」
と、呟く。
その呟きに
「いや、責任は感じなくていいんじゃないかな?」
シズリーは問いかけるけれど
「アンタの事だから【魂の浄化】に対する話自体本来好きじゃないんでしょう?それに加えて、選ばれた混合種……三つ目ですって?それが何?ただの個性よ。聞いたらはい。さようなら。なんて、するような女だとでも思ってたわけ?」
彼女は一気に目の前の混合種へとまくしたてる。
「思って……ないです」
「でしょう?」
胸ぐらを解放し、彼女はシズリーへと背中を向け歩み出す。
そして
「で、どうするの?」
カスールの前を通り過ぎ、彼女は店外へと出るドアの前で振り向く。
「ぇ?」
赤い髪が揺れ、金色の瞳は緑色の瞳を再び射抜き出す。
「今夜の依頼……人型精霊の奪還は……私と組むんでしょう?それとも何?まだ何か話し足りないことでもある?」
腕を組み、彼女は頭の先から足先まで目の前の男を一瞥する。
「それは……むぐっ」
答えを出すか出さないかの所で、シズリーは、口を塞がれる。
彼の口元を覆うのは、今までことの顛末を見守っていたもう一人の人物。
カスール・マトラーである。
「カスール?」
眉根を寄せ、金色の瞳でアイレンは、二卵性双生児の兄を見つめる。
彼のピアスが付いた口元が笑みを浮かべ
「早く宿に戻れよ」
と、二人を促し出す。
「シズリーは行きたいのか分からないじゃない」
「本当は大変不服だが?アイレンが行くって言うならこの犬っころは行くだろうさ。なぁ?シズリー?」
彼はそう聞きながら、混合種の口を塞いでいた手を離す。
「…げほっ………あた……っ……りまえだ」
上半身を前に倒しながら肩で息をし、シズリーは答える。
新しい酸素が、彼の口から取り入れられ、二酸化炭素として排出されていく。
苦しそうなその姿に、
「ぁ?なんか苦しいことでもあったか?」
彼の頭上からカスールは問いかける。
「ぁんのなぁぁぁっ!!!」
涙目になりながら、シズリーは自身より少し背の高いカスールの胸ぐらを掴む。
「ぁ?ぁんだよ」
「お前の手!地味に大きいからな!?口だけじゃなかったからな!?地味に鼻も塞がれてたんだよっ!」
「……どれ」
カスールは再び右手をシズリーの口元を覆う。
すると
「……何じゃれあってんのよ」
嘆息して、彼女は男二人へと背を向ける。
「アイレン!」
カスールの手を振りほどき、足早にシズリーは彼女の後ろへ向かう。
「……何?」
「行くんでしょ?」
と、シズリーは彼女の肩を抱き見つめ下ろす。
「それは私のセリフじゃないの?」
その、手を振りほどきながら155センチのアイレンは混合種を見つめ上げる。
「本当、敵わないね」
シズリーはその瞳を見つめ、嬉しそうに笑みをこぼす。
そして
「じゃ、そういうことだから」
と、踵を返しカスールへと、彼は声をかける。
「ぉー」
「やる気ないねぇ……」
生半可な返事に、シズリーは眉根を垂らす。
「だってよ、アイレンの意思があるから協力してやるが……」
カスールは、ズボンのポケットから煙草を取り出して、口へと咥える。
「意思がなく、俺と彼女が祭典に行くのはよく思ってない。そんなところだよね?」
「分かってんならいい」
クックッと喉を鳴らし、カスールは咥えた煙草に火をつける。
煙草の先から、紫煙が立ち上りゆっくりと店内を匂いが侵食していく。
その様子を眺めたのち、
「ほらよ。お前の嫌いな匂いだろ」
小馬鹿にするような瞳でカスールはシズリーの顔の前に、煙草を持っていく。
「ぁぁ。大嫌いだね」
そう言って、シズリーはカスールへと背を向ける。
「ちょ、押さなくても歩けるわよ」
「いいから。この匂い本当嫌いなんだ。さ、早く早く」
そう言って、彼女の細い背中を押す。
「またね、カスール」
振り向き、緑色の目を細めシズリーは一言残し、店内を後にする。
二人が出て行った後、カスールは
「んっとに、手ぇかかるんだからよ」
フッ……と嬉しそうに笑い、まだ少ししか吸っていない煙草を灰皿へと押し潰し
「さぁて……」
腰に手を当て、彼は店内を一瞥し
「本職をするか」
気怠げに、店奥へと姿を消したのだった。
お久しぶりです。
4月から
ドラマの沼に落ちてました。
やっと、這い出てきましたので
また
少しずつ
己のペースで進めていきます。
どうぞ、宜しくお願いします。




