第二章
「フォリオさんの処刑・・・!?」
響は愕然と目を見開いた。隣にいるウィリアムは完全な無表情だし、真正面のサガも落ち着き払っている。
響は机の上に身を乗り出すと、慌てて言った。
「ちょっと待ってください!どうしてですか?なんでそんな」
「響」
混乱した響を、サガが冷めた口調で遮った。
「トランドという国は消滅する。王族は国の象徴だ。生かしておくわけにはいかない」
「でも・・・でも、」
響はぎゅっと服の裾を握った。サガの言いたいことは分かる。ティティンの民だってそれを望むだろう。でも、だめだ。
「処刑なんてだめです。だって、だってカリルさんがいないのに」
「あいつのために皇子を生かせと?話にならんな。もともとこういう結末があることは、事前にカリルにも話してあった。皇子も納得している。諦めろ」
信じられない言葉に、響はサガを凝視した。
「納得って、フォリオさんがですか?」
「そうだ」
「処刑を、受け入れたってことですか?」
「ああ」
淡々と答えられ、一瞬で頭に血が上った。
「なんですか、それは!サガさんもサガさんですが、フォリオさんもフォリオさんですよ!なんでそんなに簡単に諦めちゃうんですか!?」
「皇子は諦めたのではなく、わきまえているだけだ。王族としての義務をな」
「そんなのただの逃げじゃないですか!死んでいい理由になりません」
「響、やめろ」
それまで黙っていたウィリアムが、ようやく口を開いた。響は震える息をのみこんで、自分の主を見た。
「ウィリアムさん・・・」
「サガの言うことはもっともだ。政に私情をいれたら、それこそトランドの二の舞になる」
「私情なんて」
「入れてないって言えるか?もしもあの皇子が全く会ったこともない人間でも、同じように殺すなって言えるのか?」
「言えます」
「じゃあクライス王が生きていたとして、同じように殺すな、罪を償わせろと、そう言えるんだな?」
「それは・・・」
響は言葉を詰まらせ、答えられなかった自分に驚いた。
目元を歪めた響に、ウィリアムは穏やかに告げた。
「これは避けて通れない、ある種のケジメなんだ。それくらい分かるだろ?響」
「っ、分かりますよ、それくらい!何ですかウィリアムさんのバカ!カリルさんに嫌われたって、ぼくは知りませんからね!バカ!」
「おい、響」
呆れ顔のウィリアムとサガに舌を出すと、響は猛然と部屋を飛び出した。鳥の群を追い越して、無我夢中で飛んでいく。
本当はどうするのが正しいかなんて分かっていた。トランドという国は負け、滅ぶのだ。
その王族の処刑が、終戦のための区切りとして重要なことだということも。ティティンの民のほとんどがそれを望んでいるということも、嫌というほど分かっていた。けれど。
けれど。
「・・・」
響は空中で立ち止まり、じっと空をにらみあげた。




