そう言えば、元の世界に戻る方法はわかったのか?
大阪の天満に行き、寿司を堪能するグラティアとくろくま。
この後はどうするのかな……?
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
くろくま:人族の男性、25歳。日本生まれ、日本育ち。平凡なサラリーマン。
くろくまと訪れたオオサカのテンマで日本ならではの料理である寿司を頂いた。
「グラちゃん、あと一件だけ付き合ってほしい店があるんやけど、ええかな?」
くろくまが私に聞く。まぁ普段は一日あたり五回くらい食事を摂るから、まだまだ腹の余裕はあるのだがな。
「仕方ない。せっかくだから付き合ってやるか。その代わり美味いものを食べさせてくれるのだろうな?」
くろくまはにっこりと笑っている。
「もちろん任せといて〜! ここからちょっぴり歩くけど、すぐあるお店やから。あ、大将おあいそお願いします」
「はい、おおきに! ちょっと待ってやぁ」
正直なところ、誰が大将で誰が副将かもわからんが、くろくまは見分けがつくのだろう。
支払いを終えて外に出て、くろくまは元気よく歩き出す。
「すまぬな、本来なら目上の者が下の者に奢ってやるのが筋なのだろう」
「グラちゃん、そんなこと言わんと。こういう時は男はカッコつけたいもんやねんで。ほら、こっちこっち」
商店街から道を逸れて、少し入り組んだ道を左へ右へとスイスイ曲がって進む。店構えは先ほどの寿司屋よりも少し小さいくらいだが、なんだか賑わってる感じの店だった。扉は無く、そのまま中に入る。
「二人です〜、いけますか?」
「ん〜、なんとかギリギリいけるかな。お客さん、そこ少し詰めたってもらってええかな? うん、そっちに寄ってくれる?」
店員の一人が客の数名に声をかけて、場所をあけてくれた。
カウンターが四角く囲っており、店員はその四角いカウンターの中で、調理したり、忙しく動いている。そして、客は皆立って飲み食いしていた。
「立ち呑み屋さん、ってグラちゃん行ったことあるかな? たぶんマグヌスにもなかったんちゃうかな?」
ん〜、そうだな。領主の屋敷などで立食で食事を頂くことはあったが、雰囲気は全然違うな。主に酒を飲みながら色々つまむような店だろうか。
「すんません、詰めてもらって。ありがとうございます〜」
くろくまが場所を空けてくれた他の客に礼を言う。私も習って頭を下げておいた。
「兄ちゃん外人さんの可愛い彼女とデートかいな! ええやんか! ゆっくりしていきや〜」
いや、コイツは店の者ではないよな。くろくまも苦笑いしている。
「おっちゃん、とりあえず瓶ビールと、土手焼きと、ポテサラください」
「あいよ!」
ここはなんだか、客も店の者も活気があるな。それも騒々しいという感じではなくて、気持ちのよい賑やかさという感じだ。
「はい、グラちゃんコップ持って。注いであげるわ」
運ばれた瓶ビールをくろくまが持ち、私にコップを持つように急かす。仕方なくコップを持つと、ビールを入れてくれた。
「はい、おつかれさま〜! 壁にも色々メニュー書いてるから、食べたいもんあったら言うてな」
くろくまの真似をして、私もくろくまに注いでやった。
「おっとっと。いやぁ〜、グラちゃんにお酌してもらえるなんて、夢みたいやわ〜!」
美味そうにビールを飲むくろくま。
「そう言えば、元の世界に戻る方法はわかったのか?」
私はふと聞いてみた。くろくまはビールを自分で注いで、そして一気に飲んだ。
それから一息ついてから私のほうを見る。
「グラちゃんってな……元々物語の中の主人公なんよね。僕が創った物語の」
私が物語の中の登場人物……
「もし私が物語の中の架空のキャラクターなら、何故この場に、お前と一緒にいるのだ?」
朝に目覚めたらくろくまが居て、牛丼屋さんに行き、職場にも行き、色々なものを飲み食いした。そして、異世界の大空を共に飛んだ。
「うん……それは僕もわからないんやけど……たぶんなんやけどね、昨日に僕が書き始めた物語のせいやと思うんよ」
そう言うくろくまは、さっきも持っていた板切れを懐から出し、何か操作して私に見せてきた。
『エルフの少女グラティア〜永遠の命をもつエルフが現実世界に転移したらこうなってしまう〜』
「これが……お前の創ったという物語の題名か?」
くろくまは申し訳なさそうな、辛そうな表情をしていた。そして、画面を操作してまた違うものを見せてくる。
『エルフ族の少女グラティアが、何故か現実世界の「エルフの少女グラティア」を執筆している作者「くろくまくん」の自宅に異世界転移してしまう物語です』
「ごめんな……こんなん自分勝手やってわかってるんやけど。というか、まさかホントにグラちゃんが僕の住んでいる現実世界に来てくれるなんて、思いもせんかったから……」
その割には、初めのびっくりの後は、割と落ち着いていたような気がするが。
にわかには全てを信じることは難しいが、それを聞くと私のことをまぁまぁよく知っていることや、ルミノース王国のことに精通していることも納得がいく。
ただ、私が何故ここに存在するのかという理由は、くろくまにもわからないと言う。
私は少しの間考え……そして、口を開いた。
「くろくまよ、ひとついいか」
「どうしたん? グラちゃん」
私はくろくまに私が思うことを伝えた。それに対してくろくまは何も言わず、はっきりと頷いた。




