誇り高き狼王と商人の話術
狼人族の村、フウガ村。
その奥にある会議室。
俺とガロウは向かい合って座っていた。
テーブルの上には先程作った骨スープ。
『それにしても美味いなこれ。』
『本当に骨から作ったのか?』
「骨からですよ。」
『信じられん。』
そう言いながら既に3杯目だ。
飲み過ぎやろ。
「あのー。それでそろそろ商談に…」
『おう!』
『なんだかわからんが言ってみろ!』
ガロウは骨スープを飲みながら話を聞いている。
よし。
じゃぁまずは慧眼だ。
ピーピピッ。
スキル発動【慧眼】
【ガロウ】
感情:幸福・期待・好奇心
こいつはスープのことしか頭に無いんか?
「まずは最初に話していた毛皮からお話しましょう。」
『おう!それは持ってって構わんぞ!』
「それはありがたいのですが、今後継続して頂戴したい。」
『ん?』
ガロウが眉をひそめる。
【慧眼】
【ガロウ】
感情:幸福・困惑・疑心
『お前さんの頼みなら聞き入れなくも無いが、あまりに強欲だなぁ。』
「もちろん一度助けたんだからって言うつもりは有りません。」
「干し肉やコンフィ。」
「それに骨スープを俺が作りに来ても良いんですけど。」
「それやと俺が定期的にフウガに訪れなければならない。」
「俺の身体はひとつなので必ず来れるかわからない。」
『それはそうだなぁ。』
「なので作り方をご教授します!」
『なんと!それはありがたいなぁ!』
「ですがこの知識や技術も簡単に教えて良いものでは無い。」
「それほど貴重なものなのです。」
『なるほど。』
「なので他言無用でお願いします。」
「もし約束を違えるようなら取引を全面停止します。」
「その情報を知った者とも一切取引しません。」
『おっ、おう。』
『俺にこんな圧をかけてくる奴は初めてだぞ。』
未だにスープを飲みながら聞いている。
こいつは何杯飲むねん。
「それと1つの知識と技術に付き1つ契約を結びたい。」
『と言うと?』
「まずは毛皮の定期取引と干し肉の技術を交換しましょう。」
「いかがですか?」
『ならこの骨スープとやらは好きに飲めんのか!?』
「骨スープとの契約は最後に!」
『わかった!毛皮は契約成立としよう!』
「ありがとうございます!」
よし!
理解の早いやつで良かった。
この調子やったら簡単に済みそうや。
『それで毛皮以外には何が欲しいんだ?』
【慧眼】
【ガロウ】
感情:幸福・疑心・焦燥
随分と焦っているようだ。
「少し落ち着いてください!」
「骨スープは一旦置いておいて次の話に進みましょう!」
『わかった。』
骨スープを飲んで落ち着くガロウ。
ここで俺は切り出す。
この戦闘民族から一番欲しいものを。
「2つ目は――戦力が欲しい。」
ガロウの目が細くなる。
『戦力だと?』
『我ら狼人族を金で動く傭兵にするつもりか?』
部屋の空気が一変した。
どうやら地雷を踏んだらしい。
まずいまずい。
簡単に話が済むと思っとったのに。
「いやいや!とんでもない!」
何とか挽回せな。
「そういう意味じゃないです!」
『ならば何だ。』
低い声が響く。
ガロウは俺を真っ直ぐ見据えていた。
鋭い目が異常なまでに恐ろしい。
【慧眼】
【ガロウ】
感情:憤怒・警戒・集中
「傭兵なんて烏滸がましい。」
「俺も何か協力出来ることが有れば協力します。」
「その代わりに俺が協力要請した時に助けて欲しいんですよ。」
「つまり狼人族と俺の協力関係を結びたい。」
「戦力と知識の相互関係です。」
少しの沈黙が流れる。
ガロウの眼力も少し緩んできた。
『なるほど。お前さんと俺の同盟という事だな。』
「そういう事です。」
「いかがですか?」
「この話を呑んで頂けるならコンフィの知識と技術を先に提供します。」
『よし。それなら良かろう。』
良かった。
何とか上手くいった。
にしても怖すぎやろて。
「ありがとうございます!」
『して骨スープは何と交換してくれる?』
「これも交換というより条件みたいなもんなんですけど。」
「実は俺ペルシャ村に住んでて、そこで商店開くんですよ。」
『あの弱っちい猫の村か!』
「まぁそうなんですけど。」
狼人族と比べたら弱いやろけど。
そんな弱いんかな?
今度レベルとか見てみよ。
「それで骨スープとかコンフィの調味料もそこで売るつもりです。」
「なのでペルシャ村と友好関係を結んでください!」
『あんな雑魚の村と友好関係だぁ?』
『そんな雑魚とつるんで俺たちに何の得があるんだ。』
「もしペルシャ村との友好関係が無理なら俺は全ての商談を白紙に戻すつもりです。」
『なに!?』
「俺も今やペルシャ村の村民です。」
「友好関係を結んで損はないでしょう?」
『ぐぬぬ。』
『ペルシャの友好村になれば骨スープは好きなだけ飲めるんだな?』
「はい!それは約束します!」
少し沈黙が続く。
ガロウは少し難しい表情をしている。
『んー。』
『いや。』
『んー。』
【慧眼】
【ガロウ】
感情:自尊・困惑・威厳・羞恥・葛藤
何やらプライドが邪魔をしているようだ。
「ではガロウさんに問います。」
「狼人族だけで生きていけますか?」
『当然だ。』
「じゃぁ俺に依頼したあの肉や骨をどうするつもりでした?」
『どうするも何も腐る前に捨てる。』
「ですよね。」
『それがどうした!』
「狼人族は強い。」
「生存力もある。」
「それは認めます。」
「でも俺が来なければ捨てていた。」
「今日までその価値に気付けなかった。」
『……。』
「俺はペルシャ村でも同じ事をしてます。」
「鳥人族の村でも同じ事をしました。」
「強さじゃない。」
「価値を見つける力です。」
『……。』
「ガロウさん。」
「あなた達はペルシャ村を弱いと言った。」
「でも俺はペルシャ村で店を開く。」
「鳥人族とも取引する。」
「この調味料は鳥人族との交易で得た品です。」
「あなた方は戦う力は強いでしょう。」
「ですが戦う力だけで生きられるなら交易なんて存在しない。」
【慧眼】
【ガロウ】
感情:屈辱・葛藤・納得
『ぐっ…。』
ガロウは拳を握り締めた。
反論したい。
だが反論出来ない。
俺の言葉が全て事実だからだ。
「狼人族は強い。」
「ですが強いからこそ見落としている。」
「あなた達は今まで自分達だけで生きてきたかもしれない。」
「ですが他種族の力も借りればもっと生活が豊かになる。」
「それに少なくとも価値を見つける事に関しては俺の方が得意です。」
「だから取引を持ち掛けてるんですよ。」
ガロウはしばらく黙り込んだ。
部屋の空気が重い。
だが俺は急かさない。
こういう時に無理に言葉を重ねるのは悪手だ。
しばらくして。
ガロウは大きく息を吐いた。
『……負けだ。』
『確かに俺は見下していた。』
『ペルシャ村も。』
『お前さんもな。』
『だが今回ばかりは認めざるを得ん。』
『強さだけでは見えんものもあるらしい。』
ピーピピッ。
〔慧眼の熟練度上昇〕
〔追加項目を獲得〕
スキル発動【慧眼】
【ガロウ】
感情:屈辱・納得・敬意
信用度:92
「と言うことは取引成立ということで宜しいですか?」
『あぁ。構わん。』
『毛皮の取引と干し肉の技術。』
『お前さんとの同盟とコンフィの技術。』
『ペルシャとの友好と骨スープ。』
『全て承認する!』
「ありがとうございます!」
『お前さんには一杯食わされたな。』
『俺はひとりで村を守ってる気でいた。』
『助けを求めるなんてのは雑魚のやる事だと決めつけて。』
『だが村を、村民を守る為には交易とやらも必要なんだな。』
『広場でお前さんの作る料理を食ってるあいつらが嬉しそうにしてた。』
『現に俺もこの骨スープが気に入った。』
『調味料なんか俺たちだけじゃ手に入らねー。』
『だから料理なんてしなくても腹に入れば同じだって考えてた。』
『だけど食事ってこうも幸せに出来るんだな。』
俺は思わず笑った。
そう言ったガロウの表情は、先程までの戦闘民族の村長ではなく。
ただ美味い飯に感動した一人の男だった。
戦闘民族の村長が、骨スープでここまで変わるとは。
やっぱり商売ってのは面白い。
強さでも権力でもなく、人が求めている価値を見つける事。
それこそが商人の仕事だ。
まぁ、俺は金が欲しいから商売したいだけやねんけど。
こうしてガロウとの取引は無事成立した。
その後。
正式に取引内容をまとめた俺は、約束通り狼人族へ技術提供を行うことになった。
「いつも解体で血抜きまでしてるやろ?」
「それを食べやすい大きさに切って。」
「この塩を全体にすり込む。」
「後は倉庫内で吊るして乾燥させたら完成や!」
『こんな簡単に出来るのか?』
「この倉庫は風通しのいい設計になってるし充分や!」
「肉はデカいほど乾燥にも時間かかる!」
『けど兄ちゃんは一瞬で作ってたやん!』
「それは魔法で水分飛ばしたからなぁ。」
『そう言うことか。』
『魔法ってそんな使い方できるんだ。』
「まぁ俺の特殊能力やと思っといて。」
「ほな次にコンフィやな!」
「さっき解体した脂を火にかけて液体にする。」
「んで半日ほど干した干し肉をこの液体に入れて弱火でじっくり火を通す。」
「しっかり火が通ったらこのまま鍋ごと冷ませば完成や!」
『これもさっきは魔法で作ったのか?』
「まぁそう言うことやな。」
『あんたの魔法便利すぎへん?』
「まっ、まぁなぁ。」
属性魔法が使えへんのは黙っとこ。
「ほな最後に骨スープや!」
『おぉ!これを聞くために待ってたぞ!』
ガロウが目を輝かせながら横に来た。
さっきまで威圧感たっぷりだった狼人族の長とは思えん。
「ちょっとガロウさん近いわ。」
『おお。すまんすまん。』
「ほなまずは骨を鍋に入る大きさに砕く。」
「鍋に水はって骨入れてゆがく。」
「しばらくして水が濁ったらこれを捨てる。」
『えっ!?捨てるのか!?』
「骨には汚れが多いから下茹でってゆーて骨を綺麗にする為にゆがくんや!」
『ほーほー。俺たちは気にせんがなぁ。』
「これが美味さのポイントやから覚えとき!」
『なんかめんどくさいなぁ。』
「美味いの食いたいなら文句言うなよ!」
「ほんでもう一回水入れて弱火で数時間煮込んで完成や!」
「味整えるのに調味料を軽く入れたり、干し肉入れて軽く煮てもええで!」
『これで完成か!』
『随分と根気のいる作業だ。』
『村の女子供は今回の講習内容を必ず覚えるように!』
『特に保存食作りに関わる者は全員だ!』
どうやら狼人族の男は狩に出ることが多いらしい。
女子供も狼人族であるが故に強い。
そのため村の防衛程度は女が担っているそうだ。
その後も質疑応答は続いた。
干し肉の保存期間。
コンフィの作り方。
骨スープの応用方法。
『兄ちゃん!』
『骨スープに肉入れてもいいのか!?』
『塩はどれくらい使うんだ!?』
『干し肉は何日持つ!?』
質問攻めである。
まぁ嫌な気はしない。
知識に価値を感じてくれている証拠だからな。
一通り説明を終える頃には、空は赤く染まり始めていた。
「さて、そろそろ帰るか。」
『もう帰るのか。』
ガロウが腕を組みながら言う。
「商店の準備もあるので忙しいんですよ。」
「また機会があればちゃんと来ますよ。」
『そうか。』
『なら次は新しいものを食わせろ!』
『もちろん骨スープに合う料理でだ!』
「俺に強欲言うといてあんたのが強欲やな。」
『俺とお前さんの協力関係なのだろう?』
「協力の意味わかってるか?」
思わず2人して笑ってしまう。
初めて会った時は恐ろしい戦闘民族の長にしか見えなかった。
だが今は違う。
『気を付けて帰れ。』
『お前さんはもう狼人族の客人だ。』
『何かあればいつでもフウガ村を頼れ。』
その言葉に少し驚く。
【慧眼】
【ガロウ】
感情:信頼・期待・敬意
信用度:95
いや、期待って本気かい。
まぁ骨スープ一杯から始まった関係にしては上出来やな。
「ガロウさんたちも定期的にうちの商店に調味料買いに来てくださいね!」
「ペルシャ村には俺から伝えとくんで!」
『おう!わかった!』
俺は軽く手を振りながら村を後にする。
毛皮の定期取引。
ガロウとの相互協力関係。
ペルシャ村との友好関係。
思っていた以上の成果だ。
後はペルシャ村へ戻って店を開くだけ――
そう思っていた。
この時の俺はまだ知らない。
俺が持ち帰るこの話が。
ペルシャ村の住人達を、盛大に混乱させることになるなんて。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回は戦闘ではなく、商談と交渉がメインのお話でした。
力では敵わなくても、価値を見つける力では負けない。
そんな翔斗らしい一幕になったかなと思います。
そして気付けばガロウとの関係も、取引相手から信頼出来る協力者へと変わりました。
次回はいよいよペルシャ村へ帰還です。
翔斗が持ち帰った成果に村人達はどんな反応を見せるのか。
ぜひ次回もお付き合い頂けると嬉しいです!




