第二話 真っ赤な手
「改めて自己紹介をすると、私は鈴木琴音て言うんだ。12歳だよ。」
「12歳か…まだ子どもなんだね。」
「そう言うあなたは10歳だよ。」
「嘘でしょ?!この見た目で?!」
11日目
本日の予定は、探索で見つかった缶詰を、1つ残らず回収すること。そうすれば、しばらくの間は飢えを凌ぐことができる。しかし…
「つまり!お店を開くために道中のナイトメアを倒してたってこと!?」
「そんなこと言ってない!」
話が通じない!?どれだけ説明しても変な解釈を入れてくる!喋らないよりかはマシかもしれないけど!
「と!に!か!く!持って帰れなかった缶詰を持って帰る!そのために足を使う!だけどナイトメアが出てくるかもしれないから隠れながら行くの!」
「いいけど、足を使うって何?歩くのに足を使うのは当たり前じゃん。」
至極真っ当な質問をする。
「それは!…いや、見せた方が早いか。そんなことわざがあっか気がするし。ついてきて。」
「?」
琴音に言われるがまま、2人は外の世界へ踏み出した。
虹心を家の裏手に案内し、吹きっさらしに放置された足の正体を見せる。
「…がらくた?」
「お手伝い人形なの!」
昔、兵隊が戦闘と戦後復興の為に作ったパワードスーツ兼ロボット、メモーツ。だが。
「動くの…これ…」
「動くの!これ!とにかく、ピンクの足に缶詰を乗せて運ぶの!」
3台しかなく、どれも機種も違う上にボロボロの状態であった。そのうちの1台がギリギリ動くが、足しかないのである。
「…これ使うの?足しかないけど…」
流石にここまで破損していれば、なんらかの不具合を懸念するが。
「運べれば胴体なんて飾りよ!」
「それはないだろ…」
こんな物で何ができるのか。
少しだけ長い旅が始まった。一度は通ったことのある道でも、1人から2人と1台ともなれば少しだけ騒がしくなるだろう。もっとも、記憶喪失の相手や初対面ともなれば話は別だが。
「缶詰って何があったの?」
「多分ご飯。」
虹心が気まずくなり口を開くが、琴音が適当な返事をしてしまい、気まずさが増す。
「ねぇ、足なんて使わずに私が全部運べばいいんじゃ…」
「1人だと重いでしょ?それに、みんなで運んだ方が楽しいよ!」
琴音は少し罪悪感を感じて楽しそうに振る舞うが、ニコからしたら、「みんな」に何か引っかかりを覚えて、それどころではなかった。
「みんな?」
そういえばおかしい、12歳の少女がこんな廃墟で生きられるはずがない。そもそもここは何処だ、なぜ2人で暮らしていたんだ?私はなぜ琴音と暮らしていたんだ?何か私に隠してるんじゃないか?もしかして、ナイトメアとなんらかの繋がりがあって私を
「…こ…ニコ!」
ふと我に帰り、辺りを見回す。目的地のデパート前に着いていた。近くの地面の瓦礫は不自然に捲れ上がっており、昨日の出来事を鮮明に思い出す。琴音は不思議そうにこちらの顔を覗く。
「大丈夫?私が分かる?」
「大丈夫だよ…多分。」
ぶっきらぼうに返事をして、2人と1台でデパートに入る。
デパートの中は、昨日と同じような景色のはずだった。ただ、物資の前に立たずむ1人の大人を除けば。
「もしかして、本物のサンタさん?!」
自分たち以外の生存者を前に高ぶった心は、くだらないジョークを発していた。今まで何処にいたのか、何をしていたのか、聞きたいことが山のようにあった。再開した飼い犬のように走って行きたかった。だが、そんなリボンの少女をニコは制止した。
「どうして止めるの?!私たち以外の人だよ?!」
声を荒げながら、ニコにその真意を問う。
「ナイトメアだ。しかも擬態型。」
言葉が詰まる。もしそれが真実であれば、あまりにも残酷すぎる。高ぶっていた心は冷え切り、まるでクリスマスプレゼントが石炭だった感じだ。
「…どうして分かるの。」
もし、ニコの勘だったら、ただの心配性だったら、筋の通ってない理屈だったと、淡い疑念と期待を込めて聞く。
「私の見た目はともかく、琴音は外見も12歳だ。もし、それくらいの子どもの生存者を見つけたら大人はどうすると思う?」
それじゃあ、やっぱり。でも信じたくない。
「…声を掛ける。」
助かったと思ったのに。
「そうだ、でもアイツは声一つ発してない。喋れなくても身振り手振りでアピールするはずだ。」
「考えすぎだよ。」
そう少女が反論する前に、虹心はナイトメアの方へ走り出し、殴りかかった。途端に大人の姿は瞬く間に変わり、ニコの姿に変わった。そしてその拳を受け止めたのだ。
「嫌なやり方!」
反対の右手で殴ろうとするが、もう片方の手で防がれてしまった。左手が軋む音がする。もしかしたらこのまま握り潰されるのかもしれない。
「左手を離して!」
必死に叫ぶが、ニコには届かない。昨日と同じだ。息も荒く、震えている。一瞬だけ、顔が見えた。悪魔に近いような、恐ろしい顔だった。
「ニコ…?」
突如として、ナイトメアが受け止めていた拳から煙が上がる。手を離し離れようとするが、右手で腕を掴まれ、逃げられない。
「捕まえた…」
そう囁くとナイトメアの指を絡ませ、炎がる。必死に振り解こうとするが、右手がそれを許さない。自由な方の拳で何度も殴打されるが、一向に辞めない。拳が更に燃え上がる。悲鳴をあげながら胴体を蹴るが、お構いなしに握り続け、燃やしてゆく。そしてほんの一瞬、軋むような音が響く。
「あ…ああ…」
腕を引きちぎった。黒色の体液が吹き出し、一際大きな断末魔がデパートに響き渡る。もがき苦しむ自分そっくりな相手を前に、拳を振り上げ、力一杯殴った。
何度も何度も、何度も何度も何度も何度も。拳が真っ黒に染まる頃には、見るも無惨な姿がそこにはあった。そして、息を荒げて立たずむ狂気も、そこにはあった。
「あっ終わったよ!」
灰になって消えてゆくナイトメアを前にこちを見てくる。気持ち悪い。黒を浴びたはずの拳は、琴音には真っ赤に染まって見えた。
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