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第一話 私の名前は

 目蓋を細める。また朝がやってきた。ふと隣に視線をやると、茶色い髪の少女が寝ている。よかった、琴音はどこにも行ってはいないようだ。重なった服を押し除けてひび割れた眼鏡を掛ける。布団の上に座り目を閉じる。やっぱりうまく考えられない。

「起きたぁ…?ん」

 少女の名前は琴音。もう一人のボサボサ髪の少女との二人ぼっちな一日が始まる。


10日目

 用を済ませ家に戻ると琴音が缶詰を開けようとしている。辛そうに踏ん張るが蓋は動かず、指はどんどん赤くなっていく。

「ごめん…開けて。」

 顔を真っ赤にしながら彼女は言う。最初から頼めばよかったのにと思いながら。蓋を開ける。

「いただきます!」

 わざわざ喋る必要があるのか?そう思いながらごはんを食べる。やはり味がしない。しかし、味がないとはいえ、同じご飯も十日も食べ続けるのは飽きてきた。そんなことを思っていると。

「ねえねえ、ご飯の残りがなくなってきたから探しに行こうと思うの。」

 なんだって。

「飽きてきたじゃなくて、えっと、あと3つくらいしかないから行こうかなって。」

「ダメ、外は危ないって言った。」

 咄嗟に否定する。なぜなら、外にはナイトメアと呼ばれる怪物が居ると琴音が言ってたからだ。

「大丈夫だよ、すぐに帰ってくるから。」

「だめ、待って。」

私が止めるよりも先に、外へ行ってしまった。また一人になってしまう。追いかけなくては。


 道具を持ち。外へ出る。瓦礫を登っては、すぐに降りる。

「どこにあるかな」

 当てが無いわけではないが、期待はしてない。ふと、一つの大きな建物を見つける。淡い期待を抱いて、黄色いリボンは闇の中に消える。中は円状の大広間となっており、周りのお店の跡から考えるとどうやらここはデパートのようだ。そして、真ん中には目新しい木箱や段ボールが積み重なっており、崩れた天井から刺す光で、お宝のように輝いていた。

「もしかして、サンタさんの忘れ物かな!」

 大喜びで箱に飛びつき、中身を調べる。弾薬、靴磨き、ネジにバネ。どれもいらない物ばかりで肩を落とす。

「変なのばっか!やっぱりサンタさんの意地悪!」

 そう叫びダンボールを蹴ると見られない缶詰が転がる。

「…もしかして食べれるやつかな?」

 拾った缶詰には「赤飯」と書かれている。なんて書いてあるか読めないけど缶詰だから食べられるはず。

「重いなぁ…こんなにあるなら"足さん"を持ってくればよかった。」

 たらればを言いながら外へ出る。大きい声を出したのが間違いだった。真横から一つ目の怪物、ナイトメアが迫ってきたのだ。

「」

声を出すより早く、ナイトメアの手が顔に迫る。

「あっ、えっ」

 すんでのところで誰かに引っ張られ他お陰で、顔を掠めた程度で済む。そこには家に置いてきた少女の姿がいた。

「ニコ?」

 名前を呼ぶが返事がない。無理もない。息を荒げ、瞳孔が震えている。様子がおかしい。

「待って、落ち着いて。私は大丈夫だから。」


 よくわからない。何も聞こえない。

「やつだ、あいつが、あれが、あの子を、でも、私で、倒せる?」

 様々な考えが脳裏をよぎる。勝手に口が動き、怒りが私を支配してゆく。化け物が近づいてくる。もしこんな時にあの人ならどうする。

「あいつなら、あいつ、あいつ?」

 何か、誰か、忘れちゃいけない人がいた気がする。


 叫ぶ、名前を呼ぶ。しかし届かない。ナイトメアの手が。

「ニコ!危ない!」

 受け止めた。少女がナイトメアの拳を片手で止めたのだ。そして、みるみると少女が赤い光に染まってゆき、全身を包み込む。それと同時に体型も大きく変化する。拳を受け止めたさらに手が大きくなり、ナイトメアの拳を握りつぶす。さらに、同じくらい大きくなったもう片方の手で吹き飛ばした。

「もしかして…でも何か違う。」

 動揺する琴音を尻目に、少女を包んでいた光は消えて消えて行き、小麦色の肌が顕になる。そこに立っていたのは、白く小さな少女ではなく、赤く大きい女性が立っていた。

「ナイトメアァ!」

 拳を振り下ろし、トドメを刺そうとする。ナイトメアは体を捻り、拳を避ける。

「すばしっこいなぁ!!」

 なんとか捕まえようと手を伸ばすが、すんでのところでかわされる。

 言葉にならないような呻き声をあげ拳を振り回すが、だんだん動きが単調にになっていく。このままニコ体力を消耗するのは非常にまずい。

「なんか方法はないの?!」

 必死に戦いを陰から観察する。すると、ナイトメアに一つの癖を見つけた。

「おーい!このナイトメア、移動する時に地面に手をつけるよ!」

 言葉が届く。赤い女性は拳を地面に叩きつける。叩きつけられた地面からは、大量の蒸気が噴き出した。ナイトメアはその蒸気に大きく姿勢を崩す。

「あぁっ!」

 一瞬の隙を逃さず、赤い女性はナイトメアの首根っこを掴み、地面に叩きつけた。そして、ピクリとも動かなくなり、灰になって消えた。

「ふぅーー」

 息を整える赤い女性。いや、おそらくニコ本人に声をかける。

「あの」

「あぁ、大丈夫?ところで、君の名前は?」

 私の名前を忘れた?いや、おそらく別人格になってしまったのだ。あの時、教えてくれた通りだ。

「あ…うん…鈴木琴音です。」

「そうってあれ、私の名前ってなんだっけ?え?え?」

 また始めからか。

「ニコ」

「うん?」

「美空虹心、それがあなたの名前だ。」

 また二人ぼっちの一日が始まる。

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