第二の朝
目指せ!3000字越えの連載!
目が覚める。いつもとは違う朝だ。ニコ…いや"アイリス"はまだ寝ている。少し前は起きるのをずっと待っていたが、今はそうじゃない。おぼつかない足取りで窓を開け、深呼吸をする。硝煙がこびり付き、不毛の大地から漂う香りは、私の喉を殴りつけ、その場に叩き伏せてくる。
死が目前まで迫ってくる、そんな経験をした今となっては、この最悪な朝が生きている証にすら感じる。
「あぁっ...はぁ、琴音ぇ...おはよ...。」
「うん、おはよ。」
今日からまた、二人ぼっちの日々が始まる。
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45日目
今日も今日とて、小奇麗でどこから見つけてきたかわからない缶詰を食べる。小さな口で一生懸命に食べるアイリスが、私の数少ない癒しの一つだ。だが、いつもより元気がなさそうだ。
「ねえ、みんなに会いたい。」
「みんなはどこ?」
「皆...ね。」
少しだけ記憶を取り戻しているらしい。蜃気楼のようにおぼろげだが。
「会える...会えるさ。」
「必ず。」
二人だけの会話に、静寂の外。悠久のような日々は、少女達の心を、少しずつ蝕み続ける。あと、どれだけ続くのだろうか。
70日目
「受信機を作りましょう。鉱石ラジオです。」
「エァ!何?」
机に突っ伏しているところに、横から自律人型パワードスーツ「一型」が喋り始める。喋ったことに驚いたアイリスが部屋の隅へ逃げ、様子をうかがう。これは、アイリスを気に掛けるのが正しいだろうか。それとも、話しかけられたのだから返事をするのが正しいだろうか。
「...まだ喋れたんだ。」
「壊れたと思ってた。」
話しかけられたことに対する、素直な感想を言う。私は一型が嫌いだ。上から目線で話してくるからだ。
「情報収集機器が必要です。」
久しぶりの会話というものは、感慨深いものになるのが世の常だ。だが、脅迫気味で無機質な声には、そんなことは思わないが。
「琴音!何普通に話してるの?!こんなに流暢に喋ってるんだよ?!」
「あぁ、なんかのアップデートされたらしいの。」
「で、その鉱石ラジオって何なの?」
「それに今更...」
「原始的な受信機です。今のあなた達でも作れます。」
「目的を達成してください。」
私の言葉を遮る。子どもだと思われてるのかな。
「それと、修理部品が不足しています。部品を調達してください。」
「修理部品調達は戦闘員が空路で行います。」
「私たちは受信機の素材を調達します。」
合理的以外の理由は必要ないかのような言葉選びで、あいつが喋る。
「あなたにも、目標が必要です。」
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無彩色の大地を、小さな命は自立ドローン型のパワードスーツ「三型」から見下ろしていた。所々に緑が見え始めているが、大きく育つことなく枯れてゆく。動くことができたのなら、枯れなかったかもしれない。しかし、動くことが幸福とは限らない。兵士の行先は決められたままだ。
しばらく進むと、不自然なほど真新しい木箱の山がそこにはあった。雨風をしのげるものがないのに、傷や経年劣化はおろか汚れ一つない。ハッキリ言って怪しいが、目的地はここで間違いないはずだ。
「運が良かったにしても...。」
「まあいいか...全部運ぶのかな?いや…運ぶんだな…多分。」
早速作業に取り掛かる。積み下ろしを繰り返すだけの簡単な仕事。頑丈な紐も都合よく落ちていたため、一度に多く運ぶことができた。骨が折れそうなほど地道な作業は日が落ちるまで続いたが、体感時間は短く感じた。
「これで終わりかな?」
家に着くころにはあたりは暗く、吐息は粉雪のように舞っていた。琴音達はまだ帰っておらず、缶詰を開ける音だけがこだまする。孤独だ。
どうして一人になってしまったのだろう。もしもあの時、二人で行きたいと言えていれば変わったのだろうか。それとも、私が眠っている間に何かあったのだろうか。もしそうだとしたら――
「私は嫌われてしまった?」
そんなことを考えながら使わない服を被り、眠りにつく。
「や、また会ったね。」
「私ならもっと仲良くできるのにねー残念。」
変な夢だ。緑っぽい人が話しかけてくる。
「教えてほしいかい?答えは聞かないけど。」
誰なの、あなたは?
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73日目
「今日はこの辺りを捜索しましょう。」
地図を見せ、目的地を指さす。このやり取りは何回目だろうか。こっちのことは考えずにあいつはまだ歩き続けている。すでに足は、金属の棒のようになり、痛みや疲労すら感じなくなってきた。気を紛らわそうとしても空も風景も無彩色で、相方は一言も喋らずに歩くのを強要する。私にとっては拷問に等しい。何か悪いことでもしてしまったのだろうか。
「しばらく休憩しましょう。」
歩き続けた原因が、いったいどの口で言っているのか問い詰めようかと思ったが、無意味に叫ぶ気力すらなかった。
たった3日の野宿だが、もう帰りたい。あんな場所ですら、今は輝いて見える。なんでこんなことしてるんだっけ。どうしてこうなったんだっけ。
「琴音さん、作業を開始します。」
私の仕事は探索と分別、大きい物をどかすのは一型の仕事だ。待ち合わせ場所だったところや、背の高い不思議な建物から金属類を取り出す。さらにそこから使えそうな物や、処分すべき危険物に分別するが、ほとんどが危険物だ。稀に、医薬品や軍事品の類が出てくる時がある。その時はわざわざ一型の前まで持ってきて、詳しい判別をすることになっている。
指を切ることも、転ぶこともあって、私の体は涙を流している。それでも瓦礫の中を私は探す。隙間に手を入れながら呟く。
「死にたい…。」
突如、手先に妙な感触が走る。冷たさとぬめりが皮膚を伝い、思わず手を引っ込める。透明で、液体のような物が指先に付いている。
「え…何これ…もしかして危ないヤツ?」
「死んじゃうの…私…ヤダ…。」
「もっと楽しいことしたい!イヤ!」
「見せて下さい。」
手を持ち上げられ、観察される。しばらく固まった後、瓦礫を持ち上げて正体を見せる。
「………しょうぶ…つ?」
平べったく暗い緑色のなにかが、塊となって生えていた。
「イシクラゲです。無害な藻です。」
「作業を再開してください。」
無害、そう言われて安心して作業を再開する。そう思ったが、少しだけ気になる。あの感触が気になる。
「少しならいいよね…。」
息を吞み、指先を動かす。絡まりあった葉状部は滑らかな触感で、少しだけ冷えているのが心地いい。茎状部は確かな硬さと、葉状部が指の腹をくすぐる。
「気持ちいい...。」
先ほどまで恐れていた物は、今は子どもの好奇心と快楽を満たす物になり下がった。生まれた時から、死は身近な存在だった。遊ぶことは許されず、いつも隠れてばっかりだった。しかし、今この瞬間だけは忘れていた童心を取り戻せた。そんな気がした。
「満足しましたか?すでに作業は終わりました。」
「帰りましょう。あなたを背負います。」
気づけば空は赤く染まり、寒波も一段と強くなっていた。一型の手を取る。無機物特有の硬さだけが、私を締め付ける。
「明日は受信機の制作を開始します。」
「それまで自由にしてください。」
まだ仕事は続く。あと何日続くのだろう。一人の時間が増えるたびに、氷のような冷たい手が、私の胸の奥を握りしめる。
「...私は出来る。」
「あの時、何も出来なかった時よりかマシだ。」
そう、言い聞かせながら。
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響くような声が、頭の中で響く。鉛のように重く感じる体を、上から激しく揺らす。
「おはよう!朝だよ!」
「起きろ!起きろ?起きろ!」
寝ぼけた目を擦る。声の主がぼんやりと浮かび始め、頭の霧が晴れ始める。
「起きたぁ…?ん」
「んぁ...あ?あなたは誰?」
いつもより暗い部屋にいる私に、笑っているような仮面の女性が覆いかぶさっている。知らない声、知らない体、知らない匂い。
「おはよう琴音!琴音!」
「私はニコだよ!ニコだよ!」
また初めからなのか?でも、何かが違う気がする。
「ニコ、またよろしくね。」
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