↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニコの追記  作者: 名無しの公式
もう一人の追記
PR
13/13

第二の朝

目指せ!3000字越えの連載!

 目が覚める。いつもとは違う朝だ。ニコ…いや"アイリス"はまだ寝ている。少し前は起きるのをずっと待っていたが、今はそうじゃない。おぼつかない足取りで窓を開け、深呼吸をする。硝煙がこびり付き、不毛の大地から漂う香りは、私の喉を殴りつけ、その場に叩き伏せてくる。

 死が目前まで迫ってくる、そんな経験をした今となっては、この最悪な朝が生きている証にすら感じる。


「あぁっ...はぁ、琴音ぇ...おはよ...。」


「うん、おはよ。」


 今日からまた、二人ぼっちの日々が始まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


45日目

 今日も今日とて、小奇麗でどこから見つけてきたかわからない缶詰を食べる。小さな口で一生懸命に食べるアイリスが、私の数少ない癒しの一つだ。だが、いつもより元気がなさそうだ。


「ねえ、みんなに会いたい。」

「みんなはどこ?」


「皆...ね。」


 少しだけ記憶を取り戻しているらしい。蜃気楼のようにおぼろげだが。


「会える...会えるさ。」

「必ず。」


  二人だけの会話に、静寂の外。悠久のような日々は、少女達の心を、少しずつ蝕み続ける。あと、どれだけ続くのだろうか。


70日目

「受信機を作りましょう。鉱石ラジオです。」


「エァ!何?」


 机に突っ伏しているところに、横から自律人型パワードスーツ「一型」が喋り始める。喋ったことに驚いたアイリスが部屋の隅へ逃げ、様子をうかがう。これは、アイリスを気に掛けるのが正しいだろうか。それとも、話しかけられたのだから返事をするのが正しいだろうか。


「...まだ喋れたんだ。」

「壊れたと思ってた。」


 話しかけられたことに対する、素直な感想を言う。私は一型が嫌いだ。上から目線で話してくるからだ。


「情報収集機器が必要です。」


 久しぶりの会話というものは、感慨深いものになるのが世の常だ。だが、脅迫気味で無機質な声には、そんなことは思わないが。


「琴音!何普通に話してるの?!こんなに流暢に喋ってるんだよ?!」


「あぁ、なんかのアップデートされたらしいの。」

「で、その鉱石ラジオって何なの?」

「それに今更...」


「原始的な受信機です。今のあなた達でも作れます。」

「目的を達成してください。」


 私の言葉を遮る。子どもだと思われてるのかな。


「それと、修理部品が不足しています。部品を調達してください。」

「修理部品調達は戦闘員が空路で行います。」

「私たちは受信機の素材を調達します。」


 合理的以外の理由は必要ないかのような言葉選びで、あいつが喋る。


「あなたにも、目標が必要です。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 無彩色の大地を、小さな命は自立ドローン型のパワードスーツ「三型」から見下ろしていた。所々に緑が見え始めているが、大きく育つことなく枯れてゆく。動くことができたのなら、枯れなかったかもしれない。しかし、動くことが幸福とは限らない。兵士の行先は決められたままだ。

 しばらく進むと、不自然なほど真新しい木箱の山がそこにはあった。雨風をしのげるものがないのに、傷や経年劣化はおろか汚れ一つない。ハッキリ言って怪しいが、目的地はここで間違いないはずだ。


「運が良かったにしても...。」

「まあいいか...全部運ぶのかな?いや…運ぶんだな…多分。」


 早速作業に取り掛かる。積み下ろしを繰り返すだけの簡単な仕事。頑丈な紐も都合よく落ちていたため、一度に多く運ぶことができた。骨が折れそうなほど地道な作業は日が落ちるまで続いたが、体感時間は短く感じた。


「これで終わりかな?」


 家に着くころにはあたりは暗く、吐息は粉雪のように舞っていた。琴音達はまだ帰っておらず、缶詰を開ける音だけがこだまする。孤独だ。

 どうして一人になってしまったのだろう。もしもあの時、二人で行きたいと言えていれば変わったのだろうか。それとも、私が眠っている間に何かあったのだろうか。もしそうだとしたら――


「私は嫌われてしまった?」


 そんなことを考えながら使わない服を被り、眠りにつく。


「や、また会ったね。」

「私ならもっと仲良くできるのにねー残念。」


 変な夢だ。緑っぽい人が話しかけてくる。


「教えてほしいかい?答えは聞かないけど。」


 誰なの、あなたは?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


73日目

「今日はこの辺りを捜索しましょう。」


 地図を見せ、目的地を指さす。このやり取りは何回目だろうか。こっちのことは考えずにあいつはまだ歩き続けている。すでに足は、金属の棒のようになり、痛みや疲労すら感じなくなってきた。気を紛らわそうとしても空も風景も無彩色で、相方は一言も喋らずに歩くのを強要する。私にとっては拷問に等しい。何か悪いことでもしてしまったのだろうか。


「しばらく休憩しましょう。」


 歩き続けた原因が、いったいどの口で言っているのか問い詰めようかと思ったが、無意味に叫ぶ気力すらなかった。

 たった3日の野宿だが、もう帰りたい。あんな場所ですら、今は輝いて見える。なんでこんなことしてるんだっけ。どうしてこうなったんだっけ。


「琴音さん、作業を開始します。」


 私の仕事は探索と分別、大きい物をどかすのは一型の仕事だ。待ち合わせ場所だったところや、背の高い不思議な建物から金属類を取り出す。さらにそこから使えそうな物や、処分すべき危険物に分別するが、ほとんどが危険物だ。稀に、医薬品や軍事品の類が出てくる時がある。その時はわざわざ一型の前まで持ってきて、詳しい判別をすることになっている。

 指を切ることも、転ぶこともあって、私の体は涙を流している。それでも瓦礫の中を私は探す。隙間に手を入れながら呟く。


「死にたい…。」


 突如、手先に妙な感触が走る。冷たさとぬめりが皮膚を伝い、思わず手を引っ込める。透明で、液体のような物が指先に付いている。


「え…何これ…もしかして危ないヤツ?」

「死んじゃうの…私…ヤダ…。」

「もっと楽しいことしたい!イヤ!」


「見せて下さい。」 


 手を持ち上げられ、観察される。しばらく固まった後、瓦礫を持ち上げて正体を見せる。


「………しょうぶ…つ?」


 平べったく暗い緑色のなにかが、塊となって生えていた。


「イシクラゲです。無害な藻です。」

「作業を再開してください。」


 無害、そう言われて安心して作業を再開する。そう思ったが、少しだけ気になる。あの感触が気になる。


「少しならいいよね…。」


 息を吞み、指先を動かす。絡まりあった葉状部は滑らかな触感で、少しだけ冷えているのが心地いい。茎状部は確かな硬さと、葉状部が指の腹をくすぐる。


「気持ちいい...。」


 先ほどまで恐れていた物は、今は子どもの好奇心と快楽を満たす物になり下がった。生まれた時から、死は身近な存在だった。遊ぶことは許されず、いつも隠れてばっかりだった。しかし、今この瞬間だけは忘れていた童心を取り戻せた。そんな気がした。


「満足しましたか?すでに作業は終わりました。」

「帰りましょう。あなたを背負います。」


 気づけば空は赤く染まり、寒波も一段と強くなっていた。一型の手を取る。無機物特有の硬さだけが、私を締め付ける。


「明日は受信機の制作を開始します。」

「それまで自由にしてください。」


 まだ仕事は続く。あと何日続くのだろう。一人の時間が増えるたびに、氷のような冷たい手が、私の胸の奥を握りしめる。


「...私は出来る。」

「あの時、何も出来なかった時よりかマシだ。」


 そう、言い聞かせながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 響くような声が、頭の中で響く。鉛のように重く感じる体を、上から激しく揺らす。


「おはよう!朝だよ!」

「起きろ!起きろ?起きろ!」


 寝ぼけた目を擦る。声の主がぼんやりと浮かび始め、頭の霧が晴れ始める。


「起きたぁ…?ん」

「んぁ...あ?あなたは誰?」


 いつもより暗い部屋にいる私に、笑っているような仮面の女性が覆いかぶさっている。知らない声、知らない体、知らない匂い。


「おはよう琴音!琴音!」

「私はニコだよ!ニコだよ!」


 また初めからなのか?でも、何かが違う気がする。


「ニコ、またよろしくね。」

気に入ったらブックマーク(保存)と高評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。