7話
それからしばらくして、大山さんは帰ってきた。
しかし、大山さんかどうか目を疑ってしまった。
「綺麗になってる…」
髪が整えられ、はんてんではなく普通の上着、ヨレヨレやダボダボではなくキッチリピッシリ。いや、そこまでピッシリでもないけれど、さっきの服とは比べ物にならないくらい綺麗だ。そして、メガネではなくコンタクト。意外とイケメン。
「何か言った?」
「ひっ…いえ、なんでも!」
「最初の印象と違いすぎだろって思ったでしょ」
「い、や、それは、その…」
「あはは、そこまで怯えなくてもいいよ。そんなことでは怒らないから。これが余所行きの格好なんだ」
落ち着かないよ、とおどけて見せる。
沸点がわからない。
ますます怖い。
「そ、そうですか…」
「だいさん余所行きかっこいい〜」
そう囃し立てる凪沙さん。
「そう?」
ヒュッと10度ほど温度が下がった気がする。
「あ…あの、遅刻をしてしまい大変申し訳ございませんでした」
立ち上がって、凌さん同様90度の綺麗なお辞儀をしてみせる。
そんな凪沙さんを一瞥したあと、笑みを深めて言った。
「…それじゃあ、毎年恒例共同作業を行ってもらいます」
この人、温度を測るのが難しすぎる。
「毎年恒例…」
「共同作業?」
私と悠くんは首を傾げる。
「毎年恒例ってあるように、新入居者が入ったら必ず行うことなんだけどね、買い出しから調理、後片付けまでを、今年は4人だね。で、行ってもらう。予算は決まってないよ。全部僕の奢り。メニューも品数も、和洋中、フレンチ、イタリアンなどなどなんでも。ただ、多数決はなし。少数決はもっとなし。妥協はあり。みんなで話し合って決めてね」
「なる、ほど…」
かろうじて頷く私に対して、悠くんはこんな質問を。
「あの、大山さんは食べないんですか?」
確かに。それは大事な質問だ。
「僕も頂くよ。干渉も手助けもしない代わりに文句は何一つ言わない。もったいないから不味くても食べ切るよ」
ニコリと笑った。
あ、これは大丈夫な笑顔だ。
だんだん、コツを掴んできた気がする。
「じゃあ、まずは何を食べるか決めようか。あたしは、タコパしたーい」
仕切り出したのは凪沙さん。
「凌は?」
「俺は…なんでも。作るのが簡単なら」
(え…そんなこと言ってもいいの…?)
大山さんの顔を見ると、ずっとニコニコしている。
(いいんだ…)
「悠は?」
「んー…俺は、ハンバーグの気分です」
「そっかー、誰1人被んないね。…さくらんは?」
「えっと…」
誰かに合わせた方がいい?でも、そうしたら多数決みたいになっちゃう。それに、どれも気分じゃない。
「大丈夫だよ、さくらん。ここではどんな本音を言っても怒られない。ね、今どんな気分?」
「…じゃあ、パスタです」
久しぶりに、自分の食べたいものを言った気がする。
凪沙さんに感謝だ。




