14話
「そういえばさ、」
大山さんが居なくなり、悠くんが私に向き直る。
「うん」
「どうしてこのシェアハウスに住もうと思ったの?」
「あー…うん…人と、関わろうと思って」
「人と?」
「うん。人と。…あ、関わってなかった訳じゃないんだけどね。…そ、そういう、悠くんは?」
言葉を濁し、勢いで悠くんの名前が口から飛び出た。
「…俺も、似たような感じかな」
「そうなんだ…」
この穏やかな時間は、コーヒーが冷めるまで続いた。
気づけば10時を回っていて、湯気が完全に消えたコーヒーはアイスコーヒーになっていた。
「そろそろ、解散する?」
「そうだね」
私は凪沙さんを、悠くんは凌さんを起こした。
「凪沙さん、起きてください。もう10時です」
「んぇ、まだ10時ぃ?」
もう10時と言ったはずなのに、"まだ"。
ぽーっと時計を見つめ、数回瞬きをした。
そして。
「まだ10時じゃん。二次会しよ」
「は?」
酔って寝ていた人とは思えないくらいの勢いで立ち上がる。
今ここで、「酔ったときの凪沙さんに関わらない方がいいよ」という大山さんの発言が、しっかりフラグとして回収されてしまった。
「で?さくらんは彼氏いるの?」
「ッゴホゴホッ…え?」
パイの実のあの皮の部分らしいところが上手く飲み込めず、むせてしまった。
それも全て、凪沙さんのせいだけど。
「あ、今の時代彼氏とは限らないのか。恋人いるの?」
「いませんよ…」
「えー、じゃあ好きな人とかは?」
「いません…」
「あー、目逸らしたぁ!可愛い〜」
凪沙さんのテンションについていけない。
この話題は苦手だ。
でも、少しだけ、新鮮だった。
カチッと電気をつけて、一息つく。
共有スペースの方から、ガヤガヤと賑やかな声が聞こえる。
その声たちは、かつて10数年前に自分がこの家に住んでいた時を思い出させる。
(どうしてこのシェアハウスをやろうと思ったのか、か…)
桜さんにそう問われるまで、その答えを忘れていた気がする。
『陽ちゃんに任せれば、このシェアハウスの未来は安泰だね』
しわくちゃになった、それでも温かい老婆の手。
『アンタがこんなシェアハウスなんて続けるから!』
ヒステリックに、悲鳴のような罵詈雑言を浴びせられたときの、声。
『このシェアハウスのお陰で、自分のやりたいことが見つかりました』
そういいながら見せた、綺麗なお辞儀。
全てが、忘れられない。
だからこそ、続けなければならない。
2人の老夫婦がつくった、「oyama familie」という名の、このシェアハウスを。




