⑧
ーーー我ながら、めちゃくちゃ美味しそうなオムライスができた。
フワフワの卵を纏ったオムライス。簡単にサラダとスープも作った。
ちょうど出来上がった時、料理長がひょこっと顔を覗かせた。
「相変わらず美味そうだな。俺も作って貰えば良かった」と、私の頭をポンポンと撫でる。
それを見ていたオーバンさんも「ニコルが持って行きな。大丈夫だから」と、優しい表情を向けてくれた。
改めて、私には優しく見守ってくれる優しい先輩達がいて幸せだなぁ…と感じる。
「はい!オムライス、届けてきます!」
私は自然と笑顔になることができた。そのままカミーユ様とメラニー様のオムライスを配膳しに向かった。
「…わぁ!とても美味しそうですわ。わざわざ作ってくれて、ありがとう」
メラニー様はパァッと華やかな笑顔で、少し興奮した様子で私にお礼を言ってくれた。
同性から見ても、本当に可愛らしい人だと思う。私も小さく微笑んで会釈をした。
「…いただきます」
相当お腹が空いていたのか、すぐにオムライスを頬張るカミーユ様。
メラニー様がいても食いしん坊は全開らしい。そんなカミーユ様を見て、目を見開くメラニー様。
「私、初めてカミーユが食事をしているところを見たわ。こんなに愛らしいのね」
そう呟いたメラニー様の表情はとても可愛い恋する乙女そのものだった。
その表情を見て、私の心はズキッと痛んだ。
カミーユ様はそんな私たちを気にもせず、ひたすらオムライスを頬張っている。
口の端にオムライスのソースがついていたので、いつものように私はポケットからハンカチを取り出そうとした。
「ふふ、カミーユ。あなた、お口にソースがついているわ」
私よりも早くハンカチを出し、そっとカミーユ様の口を拭くメラニー様。
…頭が真っ白になった。目の前の二人を真っ直ぐに見ることができなかった。
カミーユ様の口元を拭くことは、いつも私がやっていたこと。
私の楽しみで、幸せで、かけがえのない大切な瞬間。
それをいとも簡単に奪われた。
私はカミーユ様にとって何者でもないのに、隣にいるメラニー様に勝手に嫉妬してしまう。
私は俯き、出番の無いハンカチをポケットの中でぎゅっと握りしめながら、ひたすら悲しみを飲み込んだ。
じわっと視界が潤んだ気がして、慌てて二人に頭を下げ、踵を返した。
いきなり立ち去ってしまった私を、カミーユ様はどう思ったかはわからない。
…いや、何も思わなかったかもしれない。私たちはその程度の関係だ。
厨房まで、地面と睨めっこをして歩いていると、誰かにグイッと右腕を掴まれた。
びっくりして振り返ると、そこには若手騎士が立っていた。
「…ニコルさん、大丈夫ですか」
彼は眉を下げ、私をジッと見つめた。なぜかその瞳から目を逸らせなかった。
「あ!アル、お前何ニコルちゃんに触ってるんだよ!ずりぃ!」
若手騎士のアルさんに、同僚の騎士達が騒ぎ出した。
やかましかったからか、オーバンさんがスタスタとやってきたかと思えば、騎士達から私を庇うように仁王立ちした。
「おい、うちのニコルに手ェ出すな若造」
そう言ってオーバンさんは若手騎士、アルさんを睨んだ。
さすが私の保護者…。
しかし若手騎士のアルさんも強者だった。オーバンさんを見ず、ジッと私を見ている。
「ニコルさん、今度僕の主催で飲み会をするんですが、来てもらえませんか。一部騎士と、仲の良い使用人の方達が来ます。ニコルさんの顔馴染みの方達なので、来てくれればみんな喜びます」
そう言ったアルさんに続き、周囲の騎士達は嬉しそうな表情で歓声を挙げた。
「でかしたぞアル!ニコルちゃんが来てくれたら俺も嬉しいぞ!」
「ニコルちゃんにお近づきになるチャンスだぁ…!」
「馬鹿、ニコルが行くなら俺も行くぞ」
オーバンさんが腕を組んで騎士達を見下ろす。
「えー!お前も来るのかよ!」「まぁおまけがいてもいいか!ニコルちゃん来てくれよ〜!」と盛り上がる騎士達に、私はなんだか少し救われた。
なんだか肩の力が抜けて、自然と自分の口角が上がるのを感じた。
「…私でよければ、行きます」
小さく微笑んだ私に、騎士達みんなが「やったー!」と叫んだ。
若手騎士のアルさんも、ほっとしたように優しく微笑んでくれた。
オーバンさんは小さくため息を吐くと、私の頭をポンポンと撫でた。
「ニコル、あんま無理すんなよ」
それだけ言って、一人厨房に戻るオーバンさん。
私もオーバンさんの後ろに続き、厨房へと戻った。
いつも私の周りの人たちに支えられていることを実感する。へこんだ心が少し癒された。
「…なんだか賑やかね。ニコルちゃんって人気者なのね」
「……」
「カミーユ、無視しないでよ」
オムライスを全て口に詰め、頬を膨らませるカミーユ。
そんなカミーユをジッと見つめるメラニー。
二人がニコルや騎士の会話に耳を傾けていたなんて、ニコルは知らなかった。




