①
「…あ、この光景、夢で見たわ」
王宮の庭園は薔薇が咲き誇り、ぶわっと強い華やかな匂いが充満する。そんな庭園のベンチに腰掛け、花を愛でながら束の間のひと時を過ごす男女の姿を私は静かに見つめた。
一人は第二王子妃の親友、侯爵令嬢のメラニー・ギロー。
腰まで伸びた輝かしい白金の髪は丁寧にケアをされているのがわかるほど真っ直ぐでサラサラ。
令嬢の中では少し高めの身長で手足がスラッと長く、お淑やかで穏やか、頭も良く私が学生の頃から非のつけどころがない美女だ。
頬を染めて、口元に手を当ててクスッと笑う仕草さえ色っぽい。恋する乙女の顔をするメラニー様は同性の私が見ても、とても可愛らしい。
…そんなメラニー様の隣に座る男性。
第二王子専属騎士にして、第二騎士団副団長のカミーユ・アベラーム。
銀髪の髪は太陽の光に当たってキラキラと輝いている。彼の、澄んだ湖のような綺麗な青色の瞳もまるで宝石のようだ。その瞳に映りたい女性は数多くいる。
騎士団の中では細身なタイプで、中性的な整った顔立ち。その儚げで綺麗な見た目とは裏腹に、王宮最強騎士ベスト五位以内に入ると言われている…凄腕の持ち主。
そんなカミーユ様は「氷の王子」と言われるほど無愛想なお方で、とにかく表情筋を動かさない。それにくわえて口数もとても少ない。
クールすぎて人間味をあまり感じず怖いという貴族子息もいれば、そんなところも素敵だと目をハートにする貴族令嬢も多い。
…そんな私は、目をハートにしている貴族令嬢達の中の一人だ。
彼は、私の好きな人である。
それも私が学生の頃からだから…かれこれ片想い歴はおよそ三年ほど。
カミーユ様は今日も騎士の制服をしっかりと着こなし、いつもの無表情でメラニー様の話を虎視眈々と聞いている。
でも私は知っている。表情や言葉で表さなくとも、カミーユ様なりに一生懸命にメラニー様の話を聞いているということを。
メラニー様の目をジッと見る澄んだ青い瞳が物語っている。
私は、彼のそんな誠実なところが大好きだ。
薔薇で埋め尽くされた庭園に並ぶ二人が眩しくて、思わず目を細める。
「……うん、今日も私の好きな人はかっこいい」
そう呟いて、私は王宮の料理場へと踵を返した。
***
「は?また夢で見た光景を見た?普通に怖いんだけど」
料理場の裏口で大量のジャガイモの皮剥きをしながら、先輩のオーバンさんは切れ長の目をこれでもかと見開いていた。
「私だって怖いですよ。いつも見た夢が正夢になるんですから」
「しかもカミーユ様の夢だけ正夢になるんだろ?なに、予知夢ってこと?」
「んー、ハッキリと予知夢だとわかる夢を見るときもありますが…今日は二人を見て夢を思い出したので予知夢ではなく、正夢になるんですかね?」
「あー…よくわかんねぇけど、とりあえず変な特技だよな」
変って言うな、変って。
どうでもいいように欠伸をしながら言うオーバンさんに心の中でツッコんだ。
…私、ニコル・フォンテーヌ。
実家はごくごく普通の男爵家で、昨年貴族が通う学園を卒業した。
それと同時に、ずっと夢だった王宮の料理人の職について早一年。絶賛、新米料理人をしている。
そんな平凡な私には、予知夢や正夢を見るという不思議な力がある。
さらに不思議なことに、大好きなカミーユ様が出てくる夢だけが対象となる…。どうしてこんな力があるのかは、全くわからない。
今日見た庭園の二人も、夢で見ている。
二人を見て思い出したのだが、夢の中でも私は胸がギュッと苦しくなる思いをした。
先輩のオーバンさんと並んでジャガイモの皮剥きをしながら、私は気持ちを切り替えようと無理やり口角を上げてみる。
そしてオーバンさんが丁寧に素早く皮を剥いていくのを見ながら、私も負けじとナイフを器用に使って皮を剥く。
「…大丈夫かよ」
「うん、まぁ、うん…まぁ、なんとか!私なんてカミーユ様に相手にされないのはわかってますし!大丈夫じゃないですかね?!え?大丈夫ですよね?!」
「知らねぇよ、俺に聞くな」
ジャガイモの皮剥きに集中したいのに先ほどの光景が頭をチラついて…全然集中できない。
そんな私の心境をすぐに見抜くオーバンさんは、ふいにナイフの動きを止めた。それを見て私も思わず手を止めてオーバンさんの顔を見る。
「ん?オーバンさんどうし…ブフッ」
見上げたオーバンさんは、私に向かってとてつもなく変な顔をしていた。白目で、鼻の穴も頬も膨らんで…
「…プッ、信じられないくらい不細工…ッふふ、あははははっ!」
私は我慢できなくて声を上げて笑った。そんな私を見て、オーバンさんも変な顔をやめてガハハと豪快に笑う。
「あー、やっぱお前は笑ってた方がいいよ、うん」
そう言って、私の頭をワシワシと撫でてくれた。
お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのだろうか…。
オーバンさんは面倒見が良く、いつもこうして私に優しくしてくれる。
「ふふ、ありがとうございます!」
そんなオーバンさんに、私は満面の笑顔で返した。
心配してくれる人がいることに感謝しかない。
その時、「ぐぅきゅるるるる…」と、私達の背後から盛大な音が聞こえ、驚いてオーバンさんと振り返った。
振り返った先には、無表情で佇んでいるカミーユ様が居た。
「カ、カミーユ様!」
いつのまに…!?カミーユ様が来ていたなんて…!
驚きと嬉しさで思わず目を輝かせる私を、カミーユ様は何も言わずにジッと見つめた。
「ごきゅるるる…ぐぅぉぉぉおおお」と先ほどより激しい音が、カミーユ様のお腹から鳴り続けている。
「か、可愛い…!お口は静かなのに、お腹はおしゃべりさんですね…!そんなところも可愛くて好きです!」
「……」
「カミーユ様、お昼ご飯まだですよね?私でよければなんでも作りますよ!」
「…じゃあ…パスタがいい」
「なるほど、トマトとバジルの冷製パスタですね!承知しました!」
コクリ、とカミーユ様が頷いてくれた。そんなところも可愛い〜!ああ、好き!
「…なんでカミーユ様の食べたいパスタがわかるんだよ…やっぱお前怖いわ」
オーバンさんはそう言って、カミーユ様に好き好きオーラ全開の私を冷ややかな目で見ていた。




