第9話 HUMMER
ガガガッ! ブルルンッ......ドドドッ!
「おっと、時間通りだね。さすがポール君だ」
突然お堀の上から立ち上がった大爆音につられて上を見上げてみれば、なんと! 真っ黒な大型四駆車両が、皇居のお堀を斜めに突き下りて来てるじゃない!
「あっ、あれは?!」
「安心しろ。俺が手配した『タクシー』だ。ハッ、ハッ、ハッ......やっぱ『HUMMER』はド派手だねぇ」
「ド派手だねぇって......」
この人は一体何を感心してるんだろう?
そんなあたしのクエスチョンに対し、説明の言葉なんか必要は無かった。
なんと『HUMMER』はお堀の斜面を斜めに走りながら、そのままバシャ~ン! お堀の中へと突入して来たの。
誰がどう見たって、それはド派手としか言い様が無かった。
そんな改造四駆車両がお堀に突っ込めば、当然の事ながら、ビッグウェーブが巻き起こるわけさ。
「うわぁ!」
バシャバシャバシャッ!
「波に呑まれるぞ!」
バシャバシャバシャッ!
やがて目の前で停車した3Dタクシーの扉が開くと、
「お客サン、水陸両用『HUMMER』タクシーの到着デス。サァご乗車下サイ。車高高いカラ、足元に気を付けてネ」
タクシーの運ちゃんこと、イケメン・ハーフは『どんなもんだい!』と言わんばかりの笑顔を浮かべてる。
何だか嬉しくなって来た反面、この人達は一体何者なのかと、少し恐くなったりもする自分がそこに居た。
『サァご乗車下サイ』......なんて唐突に言われたところで、頭はそう簡単に付いていけない。
『ずぶ濡れモジモジ君』と化したあたしが、フリーズから抜け出せずにいる様子を見た圭一さんは、
「早く乗らないと風邪引くぞ。ずぶ濡れじゃんか」
ニヒルな顔して、今度は自分のコートを脱ぎ、あたしの肩に掛けてくれたのである。
ここのところ、すっかり『ぞっこん研究女子』が定着しちゃって、よもすれば自分が『女』である事すら忘れ掛けてた自分に取って、そんな然り気無い『男』の優しさは、気付け薬以上の効果を発揮したらしい。
やっぱ圭一さんは圭一さん。この優しさは4年前から色褪せてないや。
今はこの人達を信じよう......
「はい......」
頬を赤らめ、素直に『改造HUMMERタクシー(地獄行き)』へと身を投げ入れる乙女と化すあたしだった。
ドドドドッ! ガガガガッ!
アクセルを踏む右足に力を込めれば、そこが水の中であろうと、60度の斜面であろうと、そんな事お構い無しに『HUMMER』は、爆走を開始してくれた。すると、
「うわぁ、引かれる!」
「うわぁ、踏まれる!」
警察官達の間で更なる大パニックが巻き起こった事は言うまでも無い。
「おいポール君、間違っても警官引き殺すなよ。シャレにならんからな」
「分かってマスッテ! それよりお客サン、しっかり掴まってて下さいネ。チョット道が悪いみたいダカラ」
み、道が悪いですって?! お堀の土手登ってるんでしょう? ここのどこが道なの?! 別に言われなくたって掴まってるわよ! まだ死にたく無いからね。
もしかしてこの人は、わざとあたしを驚かせて楽しんでるんじゃ無かろうか? この美竹摩耶をナメないでよ!
「この程度の揺れなんか別に大した事有りません。ご存分に」
あたしが『大した事無い』的オーラをふんだんに巻き散らしたその時だった。
ドッカ~ン! ガタンッ!
「ひ~!」
なんと、横付けしてたパトカーにブレーキも踏まずに突っ込んだじゃ無いの! この人もしかして頭おかしい?
それはもう、誰が見たって『ダイハード』の世界。2人の顔がブルース・ウィルスに見えたあたしは、きっと正常だと思う。
「おっとヤバッ!」
バキッ、ゴトゴトゴトッ!
「アチャ~......」
今度は電柱なぎ倒してるっ! でもこの『タクシー』はまだ普通に走ってる。
運転してるこの人が普通じゃ無きゃ、車も普通じゃ無いらしい。
「おいポール、パトカーが1台付いて来てるぞ。しぶて~な~......よし、後ろ開けてくれ!」
「了解ッス!」
ギー、バタンッ!
ちょ、ちょっと......後ろのハッチバック開けて一体何するつもり?! バズーカ砲ぶっ放すとか? まさか......軍隊じゃあるまいし。
ガタッ、カチッ。
「ちょっと圭一さん、一つ恐いこと聞いていい? その長い筒って......なんなの?」
「見れば分かるだろ。ロシア製、89ミリ対戦車ロケット砲だ!」
回りくどい言い方してるけど、簡単に言うとやっぱバズーカ砲なんだろう。 そして、
シュパッ。 ヒュルルルル~ ドッカ~ン!
見れば、ロケット弾は見事パトカーの前輪に命中。当たった瞬間、パトカーがコマみたいにクルクル回り始めてる。
有り得ないって! 何で一般人がバズーカ砲持ってるのよ?! どうやって手に入れたって言うの?
「ああ、このバズーカ砲か? 先週、神宮外苑のフリマで売ってたから買っといた。それがどうかしたのか?」
フリマでこんなもん売ってるなら、あたしは勝浦の朝市で魚雷を買うわ。
正直なところ......
少しずつだけどこんなサバイバルに慣れて来たような気がする。
何かワクワクするって言うか、次が楽しみって言うか......多分こんな気持ちになったのって生まれて初めてだと思う。




