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第8話 ヴァローナ

 取り敢えずは目前の窮地を逃れた摩耶だった。とは言っても、それは一時的に過ぎないこと。


 まだまだ警察官達は周りにウジャウジャ居るし、帝国化学工業(株)だって、取り返しに掛かって来る事は間違い無い。


 更に言ってしまうと、この『マーメイド』を買い受ける予定だった犯罪組織だって黙っちゃいない筈だ。


 そんな憂うべく状況の中、 あたし1人でこの先一体何が出来るって言うの?


 もう限界......誰かあたしを助けてよ!


 今更の如く、臆病風に吹かれる無力な乙女、美竹摩耶がそこに居た。ところが今そこには、そんな摩耶を救う強い味方が居た事も事実だったのである。



「おい、何黄昏れてんだ?」


 えっ? まだ警察官が居たの?!


 突然なる背後からの声掛けに、心臓が口から飛び出す程の衝撃が全身に波紋する。


 慌てて『マーメイド』をお堀に落としそうになるも、寸前の所で掴み直し、難を逃れた。


「だっ、だれ?!」


 焦って振り返ってみると、やはりそこには1人の『警察官』が。いや......むしろ『警察官の制服を着た誰か』と言った方が、正しいのかも知れない。


 その者は帽子を深く被り、顔を計り知る事は出来なかった。ただ、微笑んでいる事だけは間違い無い。


 お堀で溺れている者達を除けば、この者以外に人の姿は無かった。


 そうなると、『警察官の服を着た誰か』......即ち、目の前の微笑み男が、警察官達をお堀へ突き落としたと言う事になる訳だ。


 果たしてベールに包まれたこの者は、味方なのか? それとも敵なのか?


 もしこの行動が、摩耶を救うべく起こしたものなら、それ味方である事を意味する。


 しかしもしこの行動が『マーメイド』を奪い取るが為に起こしたものならば、それ敵である事を意味する。


 そして、その者は遂にベールを脱いだのである!



「摩耶......少し痩せたんじゃ無いか?」


 なんと......なんと! その者は摩耶のよく知る人物だったのである。


「あ、あ、あ、あ、......あなたは......」


「よっ、お久しぶり!」


「け、け、け......圭一さん!」


 見ればその者は、笑顔で手を差し伸べている。そして気付けば、摩耶は吸い込まれるようにしてその者の手を握っていた。


 その手は大きく、頑丈で、逞しく、そして何よりも温かった。



「うっ、うっ、うっ......あたし......」


「全く......無茶な事しやがって。4年前と全然変わってねぇな。まぁ、そこがお前の長所でも有るんだけどな......


 おっと、また警察官が来たようだ。泣いてる場合じゃ無いぞ。募る話はまた後で聞かせて貰うとして......まずはこの包囲網を突破する事が先決だ」


「う、うん......」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 正直......あたしは夢を見てるのかと思った。


 4年前、突然あたしの前から姿を消した『かけがえの無い人』が、こんな所でこんなタイミングで現れた訳なんだから!


 でも今あたしは間違いなく寝てないし、その手をしっかりと握っている。だからやっぱ夢じゃ無くて現実なんだろう......


 でもその現実は、更なる厳しい局面へと秒刻みで変化を遂げていったの。



「逃がすな! 共謀者が居るぞ! 周りを取り囲め!」


 気付けば、何処からともなく湧き出て来た警察官達が前にも、後ろにも、右にも、左にもウジャ、ウジャ、ウジャ。2人の世界に浸ってる場合じゃ無かった。



「けっ、圭一さん、どうすれば?!」


 皇居にも、二重橋の上にも、お堀にも、そして目の前にも。気付けばすっかり警察官達に取り囲まれてる。


 それはまるでエンドレスの『もぐらたたきゲーム』。どれだけ叩けば、もぐらは出て来なくなるのだろうか? あたしは圭一さんの手を強く握り、ただワナワナと口を震わせている事くらいしか出来なかった。


 そんな慌てふためくあたしに対し、救世主とも言え彼の方はと言うと、


「まぁ、そんなに慌てなさんな。『ヴァローナ』に比べりゃ日本の警察なんて赤ん坊同然だ」


 余裕綽々の表情を浮かべてる。『ヴァローナ』が何なのかは分からないけど、決して強がっているようには見えなかった。多分、本当に余裕なんだと思うわ。でも一体どうやって? その答えを知るまでに、然したる時間を要す事は無かった。



 ガガガッ! 


 ブルルンッ......ドドドッ!



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