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第4話 裏の警備員

 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 正直、相棒ポールの口から『恋人』って言葉が飛び出した時は、不覚にも動揺してしまった。


 でも誤解しないでくれ。別に『恋人』が居るって訳じゃ無いから。


 ただ俺も今年で31になる。過去に『恋人』が居たかと聞かれれば、そりゃ『YES』って言うしか無いだろう。


 遊び心だけで付き合った女も居れば、結婚まで本気で考えたヴィーナスだって居たりもするわな。


 もしそんな俺がヴィーナスにまだ未練を残していたとしたら......


 そんでもって今日、そんなヴィーナスと出くわす可能性がほんのちょっとでも有ったとしたなら......


 真冬だろうが真夏だろうが、男なら床屋の1つくらい行ってもおかしく無いだろ。


 でもまぁ、ポールにそんな話をしようもんなら、真っ先に喋っちまうから口が裂けても言えんけどな......フッ。


 俺はそんな過去の『ヴィーナス』の顔を頭に浮かべながら、今正にビルの上階を眺めていた。


 日曜の深夜ともなれば、殆どの階が灯りを消してるのに、最上階の24階だけは煌々と眩い光を発してる。


「まさかあいつが今24階に居たりして? ハッ、ハッ、ハッ......んな訳無いか......」


 俺が頭の中でそんな問答を繰り返していると、


「圭一サン、専属警備員達がコッチをジロジロ見てマスヨ。きっと僕らの会話に興味津々なんデショウ。


 彼らが『表の警備員』ナラ、僕らは『裏の警備員』 こんな所で怪しまれルト、この後の仕事がやりずらくナリマス。ココハ一つ猿芝居でも打っときマショウヨ」


 こいつ中々よく見てるな!


 俺はさもあらずと言わんばかりに首を小さく縦に振った。するとポールは、敢えて警備員達に聞こえるようにと、声のトーンを上げてきた。



「圭一サン、でも何でうちらナンカにこのビルの警護を依頼して来たんデスカネ?


 『立派』な警備員サン達がいっぱい居るんダカラ、うちらは必要無いデショウ。そんなに重要な任務なんデショウカ?」


「お前、エマさんの説明全然聞いて無いな......よし、俺がもう1度説明してやるからよく聞いとけよ」


「すまんデス......」



 いつもならここで、待ってました! と言わんばかりに『喧嘩ゲーム』が始まる所でだったが、それも時と場合によるわな。


 ビル専属の警備員達が見てる前で堂々と始められるようなボケネタじゃ無い。


「この『帝国化学工業(株)』って会社はな、とにかく化学物質やら生物を研究しまくってて、世の為人の為になる製品を、じゃんじゃん開発してる立派な企業だ。


 話に寄ると、最近じゃ巨大毒グモの持つ猛毒から癌の特効薬を作り出すなんて研究もやってるらしいぞ。途中で巨大グモが逃げ出して行方不明になったり、色々苦労してるらしいがな。でもまぁ、立派な話じゃないか。 とにかく、あちこちの有名理科系、医学系大学から実績の有る教授や、優秀な卒業生がわんさと集まってるって話だ。


 そんな最中、ある重大な『物体』がこの企業に送り込まれて来た。それがどんな『物体』で一体何の役に立つのか? 何て事は俺ごときが知るよしも無い話だけどな。


 とにかくライバル会社も多い訳だ。その『物体』を外へ流出させないようにする事が俺らの仕事だ。どうだ? ちゃんと理解したか? 起きてるか?」


「ムニャムニャ......眠い」


「ダメだ、こりゃ」



 今、俺の目の前で眠気眼を擦ってるイケメンハーフは、俺と同期で『EMA探偵事務所』に入隊した相棒、ポール・ボイド。


 見ての通り、ちょっと頼り無いところも有るけど、いざと言う時には結構頼りになる強者だ。


 俺達男2人以外に、2人の女性がこの探偵事務所に所属してるんだけど、彼女らの事を話すと長くなるから、また別の機会に紹介させて頂く事としよう。


 とにかくカリスマ性豊かで嗅覚鋭いスーパーウーマン達だ。今日も予定通りにいけば、あと1時間程度で俺達と合流する事になるだろう。


 そんな俺達『EMA探偵事務所』の面々は、極神島・富士の樹海・はたまた極東ロシアで飛んでもない難関事件を解決しちまったもんだから、裏社会じゃすっかり有名になっちまった。


 別に有名になったからって訳でも無いんだが、請けた仕事の大小に関わらず、俺達は常に全力で職務を遂行しなけりゃならない。


 それが俺達『EMA探偵事務所』の掟だ。もちろんポールだってそんな事は分かってる筈だ。


 今、眠気眼を浮かべてるのも、きっとこいつなりの猿芝居なんだと思うぜ。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


「おいポール、シャキッとせい!」


 圭一がお付き合いで、そんなポールに突っ込みを入れた正にその時のこと。


 突如、警備員達から渡されてたトランシーバーから、怒号が巻き起こる!


「ガー、ガガガッ......たっ、大変だ! 『M物体』が盗まれた。犯人は裏口から外へ出て日比谷通りを北へ逃走中。


 該者は『帝国化学工業(株)』の社員と思われる。特徴は黒のロングコートに黒のショルダーバッグ。身長約160、細身の20代女性。


『M物体』は、同ショルダーバッグの中に隠されている模様! 直ぐに手分けして『M物体』の外部流出を阻止しろ! ガー、ガガガッ......」



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