第15話 アラーム
「イヤイヤ、こんなの楽勝デスッテ......あれ? 美緒サンと、もう1人誰でしたッケ? マダ姿が見えないヨウデスガ......」
顔ぶれが揃っていないのを不審に思ったんだろう。いつの間にやらポールの顔から『ニヤニヤ』が消えている。
「美竹摩耶だ。美緒さんの『若葉マーク』バイクで一緒に逃げた筈なんだが、まだ帰って来て無い。お前、何か知ってるか?」
「圭一サンがエマサンの暴走バイクに飛び乗った後、摩耶サンが美緒サンのバイクに無事飛び乗った所マデハ見てるんデスガ......その後ノ事はモウ自分の事で精一杯だったモンデ......」
「そうか......」
俄にエマの顔が曇っていく。きっと不安を隠し切れないのだろう。
いくら美緒と言えども、中型免許を取ったのはほんの1週間前の話。
本人が大丈夫だって言うからこんなプランを立てた訳では有るのだが、やっぱ少し無理があったのでは?
ついつい後悔の念が芽生えてしまう『EMA探偵事務所』の代表、柊恵摩がそこに居た。
「取り敢えずはマスター、なんか飲ませてクダサイ。もう喉がカラッカラダ......」
バサッ。
全身炭まみれポールが崩れるようにして、カウンターに寄り掛かったその時のこと。
ビー、ビー、ビーッ!
突如侵入者の到来を知らせるアラームが店内に響き渡る!
「皆さん、もう足がついちゃったみたいですよ。警察の特殊部隊が階段を駆け下りて来てます。さぁ、早く。隠し通路から外へ逃げて下さい。あとは私が時間を稼ぎますから」
マスターがカウンターの内側に設置された防犯カメラの映像を見詰めながら、やたらと落ち着き払った口調でそんな言葉を投げると、
ギギギギギッ......
ワインセラーが突然スライドを開始する。言うまでも無くその後ろが隠し通路の入口だ。
ここまでは全て『非常時マニュアル』通り。月に1回は必ず行ってる避難訓練の賜物。こんな危険ばかりの仕事に携わっていると、特に日頃の危機管理が重要だ。
やがてエマが、フゥ......一つ大きな溜め息をついてから、大号令を下した。
「圭一、ポール、そんな訳であたし達は、一旦散り散りになって逃げ失せる事とする。美緒達がちょっと心配だけどそこは美緒の事だ。きっと上手く立ち回る事だろう。次に落ち合う場所、日時は追って知らせる。それじゃあ、皆の健闘を祈る。行くぞ!」
「リョウカイッ!」
「御意!」
バタバタバタッ!......
バタバタバタッ!......
バタバタバタッ!......
瞬く間に隠し通路へと逃避していく、エマ、圭一、ポールだった。
そんな3人の背中を目で追いながらもマスターは、何食わぬ顔して日常のルーティンに戻っていく。
エマによって既に飲み干された『100%ミックスジュース』のグラスをカウンター越しに摘まみ取ると、ジャー......湯を流し洗い始めた。
すると......
ドンドンドンッ!
「警察だ! 扉を開けろ!」
ドンドンドンッ!
ドンドンドンッ!
開けろと言われたところで、そう簡単に開ける訳にもいかない。ここは放置の一手に限る。
「そうか、開けないつもりだな?! よし、扉を切断しろ!」
ギーッ! ガガガガッ!
どうやら警察は、重装備を持って扉の切断を始めたらしい。
そう言えば......
圭一さんの元彼女、美竹摩耶さん。今頃、美緒さんと一緒なんだよな......何か嫌な予感がするけど、大丈夫だろうか?
そこは誰もが心配するところだ。
一方、
ギー、ガガガガッ! ポキッ。
「ダメです! 全く刃が立ちません! 刃が折れてしまいました」
「なっ、なんだと?! この扉は一体何で出来てるんだ?!」
そう簡単に開いてしまう程、その扉は柔に出来ていない。
警察の皆さん......
こんな夜分に大変ご苦労様です。そうそう、お伝えしておきますが、その扉は鋼鉄製で厚さは20センチ有ります。
『ロシア製、89ミリ対戦車ロケット砲』でも撃ち抜く事は出来ませんでしたよ。まぁ、精々頑張ってみて下さい。よしっ、洗い物も終わったし、私はそろそろ寝る事にしましょう......おや、もう4時だ。
マスターはソファー上で毛布に包まると、直ぐ様、グゴ~、グゴ~、グゴ~......夢の中を散歩していた。まるで何事も無かったかのように......




