第11話 美緒登場
「早くしないとバリケードに突っ込むだろ。悪いけど俺は先に行くからな。ポール、後は頼んだぜ!」
「了解! 任せトイテ!」
「そんじゃな!」
あっと言う間に姿を消していく圭一さん。ヒュルルルル......ピタッ。見事バイクの後部座席に着地だ。
「サァ、君モ早く飛んで! もう時間が無いデスヨ!」
無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理......
絶・対・に『無理』だって!
今何キロで走ってるって言うのよ?! いつの間に300キロ超えてるじゃない!
見れば開いたサイドウィンドウの向こうで、バイクに乗った悪魔女がこっちに向かって手招きしている。おいで、おいで、おいで......
因みにあなたのヘルメットに貼ってあるその緑のマークって.....まさか......若葉マーク?! んなバカな!!!
ダメダメ......躊躇してる場合じゃ無い。もうすぐバリケードに激突だ。
鋼鉄に激突して死ぬか? それとも若葉マーク時速300キロ超に飛び乗って死ぬか?
そんでもってあたしは遂に、
「南無阿弥陀仏!」
飛んでみたのである。もちろん『マーメイド』を背負ったまま。それで次の瞬間には、バタバタバタッ! 物凄い風に身体が後方へと押しやられてしまう。
当たり前だ。真横に居るバイクに飛び乗ろうとして真横に飛んだら、真横のバイクに飛び乗れる訳が無い。
!!!
慌ててバイクの悪魔女は急ブレーキ! 何とかあたしの身体を収めようと決死の行動に出てくれる。
タイミング的には完全にアウト! でもその人は決して諦めなかった。ハンドルから両手を離し、かろうじてあたしのショルダーバッグに手を掛ける。
ガガガガッ!
その時、あたしのハイヒールは完全に地面と接触してた。
ポキンッ、ポキンッ!
2本のヒールがぶっ飛んだと思った次の瞬間には、見事あたしの身体は座っていたのである。
「どうも......初めまして」
「こちらこそ」
あたしの顔の前でその人は、ニコリと笑ってくれた。でもなんで......あなたはあたしの顔の正面で笑ってるんですか?
バイクが左へ進路を変えれば、あたしの身体も左へ曲がる。そしてバイクが右へ進路を変えれば、あたしの身体も右へ曲がる。
そんなこんなで...... ようやく自分が向かい合うようにして、ハンドルの上に座っていた事を悟るのでした。時速300キロの世界で。
やがてバイクはバリケードの直前で路地へと逃げ失せた。右へ曲がったり、左へ曲がったり、石段を駆け下りたり、登ったり、空を飛んだり、地面に潜ったり......
気付けばパトカーも警察官達の姿も見えなくなってる。
どうやら......命懸けのダイブが功を奏し、何とか窮地を乗り切れたらしい。
「あたしを救ってくれて有り難う。あなたは......」
「別に名乗る程の者じゃ無いわ。『EMA探偵事務所』の切り込み隊長、桜田美緒とは私のこと」
だそうだ。
えっ、今......桜田美緒って言った?
『美緒』って......圭一さんから貰ったスタンガンの名前じゃない! あなたがそうなのね......
ウィーン......快調に裏路地を進んで行くバイク上で未だ向かい合い続ける2人。そこには何やら怪しき雰囲気が漂い始めていた事は言うまでも無い。
「あたしも別に名乗る程の者じゃ無いからとっとと忘れて結構よ! 美竹摩耶って名前だけどね!」
「あら、そう。じゃあとっとと忘れるわ」
ギギギッ、ガガガガガッ!
「ちょっと、急に曲がらないでよ! 落ちるじゃない!」
「300キロのタクシーから飛び乗れる程、尻が軽いんだったら、この位平気でしょ」
「ふんっ!」
「......」
きっと一旦バイクを止めて、後部座席に乗り換えるタイミングも掴めなかったんだろう。互いに目を合わす事もなく、無言で裏路地を駆け抜けて行くさすらいの若葉マークバイクだった。
とにかくここまでは急展開に継ぐ急展開。
行き当たりばったりの連続にも関わらず、未だ摩耶が『M物体』すなわち『マーメイド』を確保できていた所以は、圭一達の出現に他ならない。
果たしてその出会いは『偶然』だったのか? それとも『必然』だったのか?
まぁ、別に焦る事もあるまい。その答えは直ぐに分かる事なのだから......




