第1話 ME-21研究室
『月が満ちるほど、犯罪が多く行われる』......そんな都市伝説を信じるか、信じないかは、あなた次第!
ゴールデンタイムのTV番組において、よくそんなフレーズを耳にしたりもする。テレワークが浸透した昨今ともなれば、尚更の事では無かろうか。
そして今宵......
東京は丸の内、天下に轟く『帝国化学工場(株)』本社ビルの最上階では、今正にのっぴきならぬ大事件が巻き起ころうとしていた。
夜空を見上げてみれば、豪快に餅をつくウサギの姿がはっきりと見て取れる。そう、それは『満月』の夜の出来事だった......
もしかしたら、悪戯好きなウサギが実直なる『彼女』をそんな暴挙に走らせたのか? それともただの偶然なのか? もし近未来、月に行く機会でもあれば、是非ともウサギにその真意を聞いてみたいものだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※
『MEー21研究室』
堅苦しきそんな札が掛けられた当該オフィスビル最上階の内廊下を、覚束ない足取りで歩き進む年若き女性の足は間違いなく震えてた。
ガクガクガク......
視点は定まらず、動きもやたらとぎこちない。一体彼女は何をそんなに怯えているのだろうか?
①細い目に細い眉
②高い鼻に薄い唇
③ウェーブの掛かった濃茶色のセミロング
④スレンダーなボディにハイヒール
4つまとめて、『美人キャリアウーマン!』見た目そんな風貌を持ち合わせた女性は、まだ十分にあどけなさが残ってる。多分、20半ばには達していないのだろう。
言い知れぬ恐怖がそんな彼女の身体を支配してしまったのか? それとも自らが仕出かした事の大きさに、身体が竦み上がってしまったのか?
理由は定かでは無いが、明らかに顔からは血の気が引いていた。そして可哀想な程に、ブルブルと怯えてる。
最上階廊下の窓がガタガタガタッ......風に窓が煽られただけでも、
「な、なに?!」
ミシッ。光沢Pタイルの床が軋み音を上げただけでも、
「だ、だれ?!」
眉毛が飛び上がらん程の驚きを見せ、思わず立ち止まってしまう。
「お願いだから誰も出て来ないで......」
祈るような気持ちで、フラフラと廊下を歩み進むその姿は、ゼンマイ仕掛けのロボットとしか言いようが無い。
そんな彼女の肩には、何やら重そうなショルダーバッグが。黒一色でいかにも頑丈そうだ。
一際線の細い体躯に20キロ以上は有ろうかと思われる大荷物。そんな組み合わせが、やたらとアンバランスに見えて仕方が無い。
もしかしたら、肩に食い込むその荷物に、何か秘密でも有るのだろうか? まさか爆弾を背負っている訳でも有るまいし......
目を凝らせてみれば、ロングコートの内側に見え隠れする白衣に顔写真入りの名札がピンで留められてる。
◯印の中心に『帝』と描かれた企業のロゴマーク。そしてその脇には『第三研修室 美竹摩耶』との文字が記されていた。
プラスチックケースに収められたそんなカード状の名札は、等間隔に設置された天井LED照明に反射し、その者の功績を称えるかのように光輝いてる。
きっと彼女はこの『帝国化学工場(株)』の優秀なる研究員で、名前を美竹摩耶と言うのだろう。
「大丈夫......エレベーターに乗っちゃえば、あとはもう外へ逃げるだけ」
怯える自分を鼓舞するかの如く、小声でそんな言葉を呟きながら、やがて20メートルにも満たない廊下を歩き切った美竹摩耶。
行き着いたその場所は、1日に何度も行き来している『エレベーターホール』だ。
手を震わせながら、パネルの▽ボタンを押してみると、ウィーン......エレベーターは1階からこの24階へと急上昇を始めてくれる。
因みに25時を過ぎたオフィスビル、しかも今宵が日曜日である事を考えると、エレベーターが途中で停止する事など考えられる訳も無かった。
1F......13F、14F、15F......
予想に違わず、目まぐるしく数を変えていく表示ランプ。その数が増していくにつれ、摩耶の表情からは強ばりが薄れていく。
『我が事成れり』
きっと彼女はそんな心境だったに違いない。
やがて、エレベーターの到着を知らせるブザー音が鳴り響くと、ニヤリ......無意識の内に、摩耶の顔からは笑顔が溢れていた。きっと心の中では、すでに祝杯を上げていたのだろう。
どうやら摩耶なる研究員は、肩に背負ったその大荷物を、是が非でもこのビルから持ち去りたいらしい。
ところが......神は摩耶に対し、『杯』では無く、『刀』を与えたかったようだ。
ギー、バタンッ。
エレベーターの扉が開いた途端、緩み掛けた摩耶の表情が一気に凍り付く! 理由は他でも無い。
「おや、美竹君。今日はもうお帰りか?」
な、な、なんと?!




