8話 ピクニック
山に行き、ワイルドボアに襲われてから数日。怪我は回復し始めているが、まだ安静にと言われている僕は、村長宅に来ていた。
「良い景色の場所だと?」
「出来れば村の近くで安全な場所をお願いします」
実はあの後、父さんとお母さんとどう話していいか分からず、会話も挨拶ぐらいへと減ってしまっていた。
このままでは家族関係が悪くなってしまうし、何より父さんには助けてくれた感謝の気持ちを、お母さんには心配させてごめんなさいという気持ちを改めて伝えたい僕は、現在ピクニックの計画を立てていた。
「そう言われても難しいのぅ……。セレンも分かると思うが、村の外は魔物がいるから危険だ。村の中だと、戦える大人が守ってくれているから安心じゃが。どうして、村の外なんじゃ?」
「村の中だとピクニックをしている感覚にはなりません。それにいい景色だと、それだけでもいい気分になりますし、感謝の気持ちを伝えるにも大事な事なんです」
「ふむ…、そうか。少し待っとれ」
村長は席を外すと、部屋の奥へと入っていく。そして、ある押し花と地図を持ってきて戻ってきた。
「この花をみて、どう思う」
村長が見せてきたのは、黄色い花びらの花だった。それ以外には特に何も無い。だが、それこそがこの花のいい点に見える。特徴がない事が特徴という、シンプルで綺麗という花だった。
「普通ですけど、綺麗に感じます」
村長はそれを聞くと満足そうに、そうかそうか。と言い、地図に指を指す。
「これはな、この山を越えて見える小さな池の周りに生えている花なんじゃよ」
指を指した場所は、前回僕がワイルドボアと会った山の隣で、起伏が激しいのが特徴だ。僕がそっちに行かなったのもそれが理由だったりする。
そしてあの花は、別名幸運の花と呼ばれていて珍しいものだそうだ。昔、村長はここに花畑を見つけて1輪の花を持ち帰ったそうだ。それから、ここには出来るだけ人が近づかないようにし、大事に守ってきていたらしい。
「教えてもらっておいて何ですが、本当にいいんですか?」
「あぁ、構わんとも。親に感謝の気持ちを伝えたいならそれ相応の場所を用意してやるのが、わしの、村長としての役目ってものじゃ」
「ありがとうございます!村長!!」
村長にお礼をし、お茶を飲み干すと、もう一度ありがとうございましたと言って村長の家を出るのだった。
また翌日、今度はケールおばさんの所に来ていた。
「簡単に作れる、素手で食べれる料理?」
「はい、そうです!」
ケールおばさんは料理が得意で、収穫祭の時に料理担当をしている。村で一番なのかは分からないが、料理担当をしていると言うことは、少なくとも上手な方であること。もしかしたら、ピクニックに最適な料理を知っているかもと聞きに来たのだ。
「そうだね、ノルムットなんてどうだい?」
「ノルムットですか?」
「あぁ、そうさ。パンで具材を挟み、食べる料理だよ」
あっ!サンドイッチの事か!てっきり、地名みたいな名前だからその地方に伝わる伝統料理かと……。いやでも、サンドイッチもサンドイッチで沢山の種類があるのに、この世界に来てから一度も見てないって事は、この世界では伝統料理なのかもしれないな。
「あの、オススメの挟む具材ってありますか?」
「おすすめはね、シーキャベツを挟むのと、ワイルドボアの肉を濃いめの味付けで焼いてから挟むやつだね」
「そうですか、教えてくれてありがとうございます」
ケールおばさんに別れを告げると、ちょっと待ちなさい。と言われた。少し待っててと家に入ると、野菜を数個とパンを持ってきて戻ってきた。
「これ、街に行った時に買ってきた野菜だよ。どれを挟んでも美味しいから。それとこのパンはノルムット作る時に使いなさい」
「ありがとうございます!!」
再度お礼をすると、ピクニックに行く準備に備え、家に帰るのであった。
夜、父さんが帰ってくる。
「ただいまー」
「おかえりなさい、父さん」
「おかえりなさい、あなた」
夜ご飯を食べ、食後の休憩中に父さんとお母さんに明日の予定がないかを聞く。
「父さんとお母さん、明日って予定ある?」
「ん、いや無いがどうしたんだ?」
「私もないわよ」
「明日一緒に行きたい場所があるから、このまま空けといて欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
「わかった、明日は空けとくよ」
「それと、お母さん!」
「なに?」
「明日のお昼は僕が作るから、そこの所よろしくお願いします」
「んー、でも危険だから」
「お願いします!」
「……分かったわ。後ろで見ていていいならいいわよ」
「ありがとう!!」
どうにか父さんとお母さんの時間を貰え、出掛ける事が出来る様になったため、明日の準備に取り掛かる。と言っても、今日は早く寝るだけだが。
☆☆☆
鳥の鳴き声は聞こえないが、朝目が覚めると、外着に着替える。そして朝ごはんを食べると、今日のルートを確認するために一度村長宅へ行く。地図を見てルートを確認すると、また家に帰る。
「父さん、今日は村の外に行くから、武器を装備しといてくれますか」
「外に行くのか?」
「はい、でも危険な場所ではありません。途中に山を越えるので、念のために武器を持っておいて欲しいんです」
父さんは少し眉間に皺を寄せたが、すぐに顔を戻すと、わかったと言い、了承してくれた。
そしてその間にケールおばさんから貰った材料で、シーキャベツのノルムットと、シーキャベツ&ドリオントマトのノルムット、父さんが狩ったワイルドボアのノルムットを作る。それを25個ほど作ると木製の籠に布巾を敷いて、その中に敷き詰めていく。後は、その籠と地面に引く様の大きめの布をバッグに詰めると、準備は完了。
「父さん、お母さん、準備終わったよー!」
「俺も終わったぞ」
「あと少しかかるから、待っててちょうだい」
お母さんの準備が終わるのを待っている間、父さんと2人きり。やはり、会話はあまり弾まずに時間が過ぎていった。
「ごめんなさい、またせたわね」
お母さんの準備も終わると、いざ目的の花畑へと目指した。
山の前までくると、父さんはここか……と。お母さんは、ここを登るのねと言い、凹んでいる。
僕も直接見ると驚きが隠せなかった。何故なら道がなく、木と木の間をくぐり抜けていくしか登ることができなかったからだ。
しかし、ここで諦めてしまっては目的の花畑は見れない。花畑は迂回したら行けない為に、ここを直接越えるしかないのだ。
僕が一緒に行こうと言ったのもあり、意を決して先陣を切ろうとすると、父さんが僕の肩を抑え止めた。
「俺が先頭を務めるよ。間にセレン、後ろにファノンで付いてきてくれ」
「分かったわ」
「りょ…了解」
先陣を務めると言った父さんは、腰に付けてある二つの剣の内の一つ、短刀を取り出すと、僕に預ける。
「いいか、セレン。俺が良いと言うまでは決して鞘から抜くな。だが、抜いて良いと言った場合は、それを使いお母さんと自分の身を守れ。いいな」
「ちょっと!?」
ファノンは父さんに対して、どうして子供に剣を持たせるの!と怒るが、父さんはそれを気にせず、僕の目をしっかりと見て、僕が返事をするのをじっと待っていた。
「はい!」
「ちょっとセレンも!」
父さんがなんで僕に剣を持たせたかは分からないが、先日の件で魔物の怖さをしっかりと身をもって理解した僕は、ただただ真っ直ぐに、「はい!」と返事を返すのであった。
「よし、行くぞ」
父さんが剣を鞘から抜き、構えながら前を進む。僕は父さんから渡された短刀を見る。赤黒い鞘を持つそれは、ワイルドボアを倒す時に持っていった短刀だった。両手でそれを握りしめると、父さんの後を続く。
お母さんは何かを言おうとしていたが、魔物が声に反応し寄ってきたら危険だと判断したのか、小さな声でセレンが心配じゃないの?とだけ言い、僕の後ろについて来た。
山を登り始めて数時間、折り返し地点に到達した。ここまで魔物は出てきず、安全に来れたといえよう。しかし、ここからは魔物が出てくる可能性が高い。村長曰く、ここは普段人が来ない場所だから魔物が生息しやすくなっているそうだ。
「よし、ここからは更に気をつけていくぞ」
父さんは剣を握り直すと、慎重に歩み始める。折り返し地点から歩き始めて、10数分経ったぐらいだろうか。突然父さんが足を止めた。
「気をつけろ。周りに2、3体魔物がいる」
「了解」
「何時でも戦闘用意は出来てるわ」
それぞれが気合いを入れる。父さんは剣を構えて、お母さんは魔法の発動準備にかかっている。僕に出来る事は無く、気配を感じとるのに集中する。
ボッ!
「避けろ!!」
突如、風の魔法が僕達の正面目掛けて飛んでくる。それを避けると、右側から狼の魔物、ヤマオオカミが2匹飛び掛ってきた。
「ウォーターショット!」
「ギャン!」
僕に飛び掛ってきたヤマオオカミをお母さんが魔法で倒すと、父さんはもう1匹のヤマオオカミに斬り掛かる。ズバッ!という効果音が聞こえそうな勢いで首から胴体を切り離すと、剣を納刀する。
「ふう……。2体で良かったな」
「そうね、多いと大変だし少なくてよかったわ」
2人は強く、それでいて何年も一緒にやって来たようなコンビネーションで魔物を倒した。
僕はただそれを見ていることしか出来ず、それでいて魔物の気配も感じ取る事が出来なかった為、落ち込んでいた。
「セレン、お前はまだ戦闘系の事にあまり関わった事がない。だから気配を感じ取れなくても仕方が無いさ。それよりも、魔法が飛んできた時に避けれた方が凄かったぞ」
「そうよ、落ち込む必要はないわよ」
「ん…。大丈夫。目的地はまだ先だから急ごう」
その後も何度か戦闘が起き、その度に何も出来ずに助けられたのだが、何とかお昼丁度に目的地に着くことが出来た。
そこは、沢山の花が咲き誇っていた。左奥には小さな池があり、その周りには幸運の花と呼ばれる黄色い花も沢山生えていた。
「綺麗……」
「あぁ、そうだな」
「うん、綺麗…」
この世界に来てから初めての幻想的な景色に思わず息を呑む。
「あっ、あそこにしよ!」
小さな池の周り、少し盛り上がった場所に木が生えていた。木の周り3メトル程は、花が生えてなく、敷物を敷けるスペースもある。
「じゃじゃーん!これが今日のお昼です!!」
「おお、これをセレンが作ったのか?」
「うん、そうだよ。ノルムットと言って、素手で食べられる料理なんだ」
「セレン、作るの頑張ってたものね」
うっ……。それは、言わないで欲しいですお母さん。それに頑張ったと言っても、思ったより挟むのが上手くいかなかっただけで、実際は簡単だったんだから。
「そうか、頑張って作ってくれたんだな。じゃあ、皆で食べるか。いただきます!」
「「いただきます!」」
「んっ!美味い!!」
「ええ、美味しいわね」
普通に褒められると恥ずかしい。顔が赤くなっているのが分かる。何とか、誤魔化そうとシーキャベツとドリオントマトのノルムットを一気に口に運ぶ。
「「「ご馳走様でした」」」
昼食をとり景色を楽しんだ頃、僕は切り出す。
「父さん、この前は魔物に襲われた時に助けてくれてありがとうございました。そして、勝手に村に出た事ごめんなさい」
「……いや、俺こそちゃんと話しておくべきだったさ。だからこれは俺の責任でもある。気にすんな」
「お母さんも心配を掛けてしまってごめんなさい。そして、いつも家のお仕事ありがとうございます」
「無事だったから良いわよ。出来ればもうしないで欲しいけど」
素直に謝るのは難しい事だった。だけど謝ると、胸のつっかえが取れたような気がして、妙にスッキリした。
「さて、帰るか」
「ねえ、幸運の花1輪ぐらいだったら持って帰ってもいいかしら」
「1輪なら良いと思うけど、ここに来れば見れるし、また皆で来たい…かな……」
「そうね、またここに来れば何時でも見れるわよね」
お母さんは帰る途中何度も振り返り、未練がましそうにしていたが、家に着く頃にはいつも通りのお母さんに戻っていた。
1日ぶりですね。僕です。
今回も早い!だけどそろそろ筆が止まりそうです。
実は前々回と前回、そして今回の話は、元々予定していた話を何となくの気持ちで変えて書いたものです。そのため予定していた流れが全部白紙になりました。やばいですねー。
まあ、物語の大筋からは外れてないので多分大丈夫でしょう。
何はともあれ次回はいつ出せるか、もしかしたら明日かも知れませんし、1年後かも知れません。何時になるかは分かりませんが、次回更新される時にまた会いましょう!!