幕間 セレンが居なくなった後の屋敷
幕間なので前回のあらすじはお休みします。
あらすじちゃん、前書きちゃん
セレンがエルフーンの街で行方不明になった。スレイドから届けられたその情報は、フィアドール家の屋敷に瞬く間に広がった。
〜ノーラ=フィアドール〜
わたくしのせいだ。
わたくしがあの時、止めていれば。
後悔だけが今も頭の中を駆け巡る。
セレンが行方不明になった、その情報が届けたられた時、わたくしは誰よりも先に自分を責めた。
セレンのことを心配してなかった訳では無い。
普段は子供だが、たまに大人顔負けの賢さを誇るあの子を知っていたわたくしは、彼女なら大丈夫だと思った。
彼女なら、危ないことを注意しとけばきっと大丈夫だと、そして、止めることなく行かせた。
その結果がこれだ。
彼女は勝手に居なくなるような子じゃないから、何か事件に巻き込まれた可能性が高い。
そうだわ、スレイドなら何か知っているかもしれない!
もともとセレンが、エルフーンの街に行く原因を作ったのはあの男だ。そして、いなくなった情報を持ってきたのもあの男。
もしかしたら、事件に関わっているのかもしれない。
もし、事件に関わってなかったとしても、何か知っている可能性は高い。
わたくしは急いで部屋を出ると、スレイドがいる研究所へと走って行く。
研究所に着くと研究員に、スレイドさんは今忙しく、急用以外なら後でお願いしますと言われたが、それを無視して執務室へと向かう。
セレンがいなくなったのよ、急用に決まっているわ。
執務室に着くと、ノックもせずにドアを開ける。
「スレイドいる?」
「いますよ、だけどボクも忙しいんです。出来れば早めに済ましたいので、用件だけ教えてください」
スレイドは、心底嫌そうな顔でこっちを見る。
わたくしだって嫌だ。
会いたくないし、嫌いだし、二度と会う予定なんてなかった。
だけど、セレンの情報を少しでも持っているのなら別だ。
今は、少しでもセレンの情報が知りたい。
だから、会うしかない。
「セレンに関して知っている情報を全て話しなさい、今すぐ」
それを聞くとスレイドは、一瞬だけ眉をひそめる。
やっぱり、この男は何かを知っている。
その眉をひそめる行動だけで、全てを予測する。
貴族として生まれたわたくしは、人の顔から得られる情報を全て察せられるように育てられてきた。正直人の顔から情報を取るのは好きではなかったが、今日ほど感謝した日はない。
「その情報でしたら、既に貴女のお父様であるルクス様にお話しましたよ」
嘘だ。
お父様に出来る限り話したのは本当だろうけど、全てを話した訳じゃない。
例えば、セレンが居なくなった情報の入手源とか。
「お父様からは既に聞いているわ。わたくしが知りたいのはそれだけじゃないの、貴方が知っている情報全てよ」
「……」
「……」
沈黙が訪れる。わたくしは何も言わずにただ、スレイドの目を見続ける。
「はは、本当に相手にしたくない女だな……」
スレイドは諦めたのか、大きなため息をつくと、まずはどうやってセレンのいなくなった情報を掴んだかを話し始めた。
「本当に他は知らないのね?」
「ええ、知りませんとも」
スレイドは両手をぶらぶらと振りながら降参のポーズをとる。
わたくしは、それを見て本当に他には何も知らないと予想する。
「邪魔したわ」
それだけを言い残し、執務室を出る。
結局、あの男が知っていたのは二つだけだった。
まずは情報源。これは、セレンに渡した荷物が宿屋に置いてあったことから届けられた情報だったらしい。
続いては行方不明になった時間。
行方不明になった日、セレンは冒険者組合に寄っていたらしい。それは、ドーラドアという人物を探していたため。そして、情報を得られたセレンが冒険者組合を出たあと、行方が分からなくなった。
この事から冒険者組合から宿に帰る途中に、何かに巻き込まれた可能性が高いと推測されたらしい。
つまり、その間に起きた出来事全てを調べれば何か分かるはず。
そうと決まれば、騎士を個人で動かす許可を申請しにお父様のところへと向かう。
「許可はできん」
「どうしてですか!?」
「いいか、もうすぐお前はリーズワベル侯爵家の長男ユリオ様に嫁ぎ、結婚する。そんな大事な時に、騎士を個人の理由で動かすわけにはいかん。
ノーラ、お前は仮にも貴族だ。使用人も1人の人間で、大事な命なのには変わりないが、貴族の自分の命は使用人の命よりも重く見るべきだ!」
「それなら!結婚するまでの少しの間だけでもいいのでお願いします!!」
「それでもだめだ。そしてこれは親としてではない、1人の貴族として言わせてもらう。お前の勝手な理由で、大切な騎士を動かすな!」
お父様はそう言うと、もう話すことは何も無いと言わんばかりにわたくしを部屋から追い出した。
お父様の言っていることは間違ってはいない。
だから、何も言い返せなかった事が悔しかった。
部屋に戻ると、ベットに体全体を埋める。
頭に思い浮かべるは、セレンの顔。
もしかしたら今この瞬間も危ない目にあっているかもしれない、寂しくて泣いているかもしれないのに、何も出来ない自分が悔しい。
コンコンッ
ドアをノックする音が聞こえる。
「だれ?」
「エレイナです、お時間よろしいですか?」
エレイナ。
確かセレンと一緒の村から来た使用人で、セレンが行方不明になった時、わたくしと同じぐらい後悔している人が居たとすれば彼女ぐらいだろう。
今は誰とも会いたくはなかったが、彼女には謝らないといけない気がした。
「入ってもいいわよ」
「失礼します」
ベットの上に座り直すと同時に部屋に入ってくる。
「何か用かしら?」
「はい、ノーラ様がセレンのことで色々としていたと聞きまして」
「そのことね、笑ってもいいわよ。何も出来なかったわ、わたくしじゃセレンに対して、何も出来なかったわ!
わたくしはセレンに沢山のことを教えてもらったのに、助けることも出来ない!!
わたくしは色々な物をくれた彼女に対して何もすることが出来なかったのよ!!」
あれ…?おかしいわ、こんなこと言うはずじゃ……。
何も出来なかった自分に、いつの間にか感情が抑えられなくなっていたらしい。気がついたらエレイナにその感情をぶつけてしまっていた。
エレイナの顔を見ると、驚いたような顔をしていた。
きっと、わたくしがこんなに感情的に話すことが珍しいのだろう。
そして、真面目な顔に戻ると
「大丈夫ですよ、ノーラ様。きっとセレンはノーラ様に感謝しています」
とわたくしを慰める。
「いいえ、それはないわ。今も彼女はどうして助けてくれないの?僕がなにかしたと言っているに違いないわ。そして助けにこないわたくしに対して、何で助けに来ないのと怒っているに違いない!」
「それは絶対にありえません。
この屋敷で働き始めた時、セレンは心も生活もギリギリで苦しかったはずなのに、毎日が楽しそうでした。
それはノーラ様が居たからです。ノーラ様がセレンに自身を姉と呼ばせようとしたり、お風呂に一緒に入ったりして元気づけようとしたから、あの子は笑顔で居られたんです!
私はあの時、何もしませんでした。自分も新しい環境で忙しいからと言い訳して何もしなかったんです!
そしてノーラ様のおかげで元気になったセレンの姿を見て、私は安心するとともに、自分を激しく叱責しました。なぜあの時、自分は何も行動をしなかったのだと。
だから、ノーラ様が自分を責める必要はありません。何も出来なかったんじゃないんです、貴女は助けるために行動をしたんです、その行動が素晴らしい事なんです!
元気出してください、貴女が悲しんでいてはセレンも悲しみます!!もし、今貴女が何かセレンに何かしてあげたいと思うなら、笑っていてください!それだけでいいんです!」
わたくしはその言葉を聞いて、心が救われた気がした。
「ありがとう、エレイナ。少しだけど心が軽くなったわ」
「いえ、私なんかの言葉で心が軽くなったのなら嬉しい限りです。それでは私はこれで」
エレイナは一礼すると部屋を出ていった。
そういえばエレイナは、セレンのことが聞きたくてここに来たのかしら。
もしそうだとしたら悪いことをしたわ。今度、お菓子でもあげるとしましょう。
部屋にある椅子に座ると、今後のことについて考える。そして、一つの策を思いつく。
わたくしはもう少しで結婚する。その時に夫となるユリオに頼めばいいのだ。
使用人のセレンを探して、と。
だが、そう簡単に上手くは行かないと思う。仮にも貴族の長男だ、どんな教育をされているか分からない。
だが今のわたくしはこれに賭けるしかなない。
まだ結婚までは、5ヶ月ある。
いや、もう5ヶ月しかない、だ。
それまでの間に、セレン探しの協力を得られるようにしなければならない。
そうと決まれば、早速お父様に話を聞きにいく。
ユリオの好きなものは何か、どうすれば好かれるかを聞きに。
だから、もうしばらく待っていて、セレン!
桐原優「いやあ、1章の続きを三月に書き始めてから2章が終わるまでが約20日ぐらいでしたっけ?
今までの投稿ペースからしたら考えられないぐらい早かったですね。まあ、本編が短くなっているというのもあるのですが。
さて、今回書いた幕間ですが、セレンが捕まったあとのノーラのお話を書いています。セレンが捕まった日から3日、4日ぐらい経過した辺りですね。
本当でしたら、モルスの幕間を書く予定でしたが、最初しか出なかったおっさんよりも、ノーラの方がいいと思いそっちにしました。
そしてモルス、すまん。お前の出番はこれから先もきっと無い。
それでは皆さん、次回3章が投稿される時にまた会いましょう!ばいばい!」




