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第55話 村鍛冶の店先は、今日も止まらない
その翌日、リッカに連れられて、俺は初めて村鍛冶の店を正面から見た。
見るつもりで行ったわけではない。リッカが「親父んとこ、今日は馬車の金具と鍬が重なってる」と言い、気づけば足がそちらへ向いていたのだ。
店先は工房の前から見ても忙しかった。
鍬、鎌、釘束、輪金、蝶番、鋤先。村人が次々と持ち込み、父はほとんど言葉も使わずに受け取り、見て、火へ入れ、打ち、返していく。
止まらない。
派手な仕事ではない。一本に深く寄り添う形でもない。だが村の暮らしを止めない、という意味ではこの速さこそが価値なのだと分かる。
俺はしばらく黙って見ていた。
父はこちらに気づいていたはずだが、声をかけてはこなかった。仕事が先なのだろう。実際、それが正しい。
「……やっぱすげえだろ」
リッカが小さく言う。
「ああ」
「親父の仕事、あたし好きなんだ」
「分かる」
「でも、おまえの鍛冶も見たい」
「知ってる」
その二つが両立するのが、いちばん面倒で、いちばん本物なのかもしれなかった。
帰る時、俺はぽつりと言った。
「親父さんの仕事があるから、村は回ってる」
リッカは少しだけ驚いた顔をして、それからうれしそうに笑った。
「言うと思った」
「うるさい」




