38話 敵の主力艦隊を探せ
グライム達を新たに麾下に加えた後、俺達は惑星Da3953に突入するかの会議を行った。
しかし、その会議の末にくだされた結論は、「一時撤退」というものだった。
理由は明白である。
それは、グライムがもたらした宙賊艦隊の情報が、俺達の想像していたようなものとは全く違っていたからだ。
俺達は、先程壊滅させた艦隊を敵の主力艦隊だと思っていた。
「宙賊が持てる戦力なんてたかが知れている」、誰もがそう高をくくっていたのである。
しかし、グライムのもたらした情報は、その認識を根底から覆した。
宙賊が依然として保有していた戦力は、次のようなものだった。
戦艦一隻、軽巡七隻、駆逐艦三隻
これが、宙賊に残っている戦力であった。
この戦力を見れば、当時の俺達がどうして撤退したかがわかるだろう。
圧倒的な戦力差があるのだ。
参考までに、当時の俺達の保有していた戦力を書こう。
軽巡六隻、駆逐艦八隻
これを見たら、「意外とそんな戦力差なくね?」
しかし、そのうちの軽巡二隻、駆逐艦六隻は、ワーグナーとリアルヌの指揮下に置かれ、本土に待機させてある。
つまり、実際に運用できる戦力は軽巡洋艦四隻のみ。
輸送艦の護衛に付けた駆逐艦を艦隊に加えても、たった六隻。
これでは、敵艦隊に勝てるはずがない。
なので当時の俺達は、「撤退」という選択をしたのである。
俺達の艦隊は、俺達の宇宙空間上での唯一の拠点である、小惑星キケロに撤退していた。
この小惑星はパウルがこの星域に来たときの拠点として利用するために改造したものである。
本来は商業用のものだが、簡易的な軍事拠点として運用することも可能だった。
「まいったな...............................」
俺は、会議室のなかでそう呟いていた。
おそらく、この場にいる殆どの者は、同じ言葉を胸の中でそう呟いていただろう。
グライムを除けばだが....................
どうしてそう呟いたのか?
原因は、敵艦隊の中に戦艦がいるということがわかっていたからだ。
この世界において、全長千四百メートル以上の艦は「戦艦」と分類される。
当然、そんな大きさを誇るのならば、大量の武装や装甲を搭載している。
当時の俺達にとって、それはまさに厄介極まりない存在だった。
戦艦の力は、戦艦一隻=軽巡四隻という感じだ。
本当は、軽巡を惜しみなく使って戦艦を集中攻撃して沈めたいところだ。
しかし、俺達が相手にするのは戦艦一隻だけではないのだ。
俺達の数を上回る軽巡、それに僅かだが、駆逐艦も控えている。
正直、当時の俺達の知恵では、この艦隊を打ち破る発想など思い浮かばなかった。
だが、この男だけは違った。
「この程度の戦力差なら全然戦えますよ、グレース様!」
グライムは、そう言って不敵に笑ったのである。
「嘘つけ........................... こんな戦力差じゃ勝てるわけがないだろ?」
半ば諦めの混じった声で、俺はそう返した。
だが、それに対してのグライムの回答は、軍人と宙賊双方を経験してきた男ならではのものだった。
「グレース様、やる前から出来ないと決めつけるのは愚かなことです。
戦いというものは、事前の準備で勝敗が決まると言っても過言ではない。指揮官とはその準備を突き詰める者達だと、俺は思います。
だからこそ最初から諦めるのではなく、やれる準備をすべて整えてから、改めて判断するのです。
この言葉は、まさにこのときの俺に必要だった言葉だった。
あの言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ「指揮官」というものを理解した気がするのだ。
「わかった、やってみるだけのことはしてみよう。
しかし、どうやって勝ちに行くんだ?」
先程のグライムの言葉を聞いて、やれることはやってみようと思ったが、それでも全く勝てそうな未来が予想できないので、俺はグライムに助けを求めるようにそう聞いていた。
すると、グライムはかなり自信気な顔をして、会議室のスクリーンにとある画像を開いた。
「この二隻の違いについてわかりますか?」
スクリーンに映されていたのは、二つの艦船の画像だった。
一隻は、俺達の旗艦である軽巡洋艦アドラー、もう一隻は敵の戦艦だ。
正直、グライムから出されたこの問いはかなり難しかった思い出しかない。
まあ、それは俺が深く考えすぎてしまっていたからであるが.......................................
結局、俺はこの問題を解くことは出来なかった。
だが、代わりにガスターがやすやすと解いてしまったのである。
「主要構造物が露出してるか、していないかだろ?」
この問題の解答は、この一言で十分であった。
「正解だ.................!」
その答えを聞いたグライムは、子供のように声を弾ませた。
そしてそのまま、グライムは解答の解説を始めた。
「ガスター殿の言った通り、この二隻の違いは、主要な構造物が外に露出しているかいないかです。
我々の艦艇は武装や艦橋を艦内に格納できます。 しかし、宙賊の艦艇は違います」
それを聞いた俺は、なんとなくこれからグライムが言う事がわかってしまった。
そして、グライムがそのことを言い出す前に、俺はそのことを言った。
「つまり、宙賊の艦艇は沈めることは出来なくても無力化できる、そういうことを言いたいんだろ?」
グライムは満足そうに頷いた。
「その通りです」
この発言は、グライムの言いたかったことと完全に一致していた。
しかし、俺からしたら解答がわかってもまだ疑問はある。
それは、「弱点がわかっていても、それをどうやってつくのか?」という疑問だ。
しかし、グライムは俺の言いたいことを見越して先にこう言った。
「我々が敵に勝っている点は、駆逐艦の数です。
つまり、動きが遅い敵艦を航行不能にして、その隙に上部構造物を破壊しようという作戦です、どうですか?」
やはり、今書いていても思うが、このときにグライムを仲間にしておいて本当に正解だった。
その会議の後から、俺達は敵の主力艦隊を打ち破る準備に着手した。
まず最初に行ったことは、艦隊戦力の増強である。
本土に待機していた、リアルヌとワグナーの艦隊を呼び戻したのだ。
これにより、俺達は持っている全戦力である、軽巡六隻、駆逐艦八隻を一つの戦力として投入できる体制を整えることが出来たのである。
次に着手したのは、偵察網の構築だった。
これは、俺達が持っていた哨戒艦二隻を交代で運用し、惑星Da3953の周辺の偵察を継続させた。
当時の俺達は、宙賊の艦隊がどこにいるのかが全く判明していなかった。
ゆえに、哨戒艦による継続的な索敵こそが、唯一の手段だったのである。
その一方で、艦隊戦闘を想定した演習も繰り返し実施した。
戦術の確認、各艦の連携、魚雷攻撃のタイミングなど.................... あらゆる局面を想定し、訓練を重ねながら、俺達は敵の主力艦隊が姿を現すのを待ち続けた。
しかし、敵の主力艦隊は三週間が経過しても一向に現れなかった。
これの原因は、おそらく前回の戦いにあったのだろう。
俺達が、宙賊の艦隊をあまりにも容易く打ち破ったため、敵もまた慎重にならざるを得なかったのだ。
しかし、敵が姿を現さないという状況は、俺達にとっては決して好ましいものではなかった。
敵艦隊を撃破しなければ、Da3953に眠っている莫大な資源を確保することはできない。
つまり、いつまで経っても俺達は、村の工業基盤を整えることが出来ないのである。
その事実が、日を追うごとに俺の焦燥を募らせていった。
だが、その焦りを一瞬にして吹き飛ばす報告が届いた。
「敵主力艦隊を補足」
という一報である。
これは、短いが決定的な一報だった。
ついに、宙賊の主力艦隊が姿をあらわしたのである。
東暦7027年6月11日のことであった。




