表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王討伐の褒美に王座を要求した勇者の話  作者: 小鳥遊ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

12 村の異変と勇者


王都を出て一週間。


御者の「そろそろだ」という声に、勇者は窓の外に目を向けた。辺境の村まで馬車に残っていたのは、勇者と、フードの男だけだった。


目の前に、見慣れた森の風景が広がっている。鳥のさえずりが聞こえ、柔らかな木漏れ日が地面にまだら模様を描いている。いつもと変わらない、穏やかな風景だった。


勇者は、フードの男と馬車を降りた。しかし、村へと続く道に入ると、違和感を覚えた。


いつもなら、村の入り口では子供たちが走り回っている。薪を運ぶ男や、井戸端で話す女たちの姿も見えるはずだある。だが、今は誰もいない。


勇者の心に、ざわりと不安が広がった。


勇者とフードの男は、ゆっくりと村の中へと足を踏み入れた。村は静まり返っており、人の気配がほとんどない。軒先に干された洗濯物が風に揺れ、飼われている家畜の鳴き声が聞こえるばかり。


(どうしたんだ、みんな……?)


ふと、物陰に小さな人影を見つけた。勇者はホッとした気持ちで声をかけようと一歩踏み出した。それは、勇者に「好きな女の子には花を渡すもの」と、教えてくれた女の子だった。しかし、女の子は勇者の顔を見るなり、小さな悲鳴を上げて、慌てて駆け去っていった。


「っ……!?  どうしたんだろう?」


同時に、聞き慣れた声が響いた。魔族の少女との間をからかっては、よく勇者を困らせていた、顔なじみのおばさんだ。


「あんた……本当に『勇者』なのかい?」


その言葉に、勇者は戸惑いを覚えた。


「はい、多分、そうですが……。それがどうしたんです?」


おばさんは、周囲を警戒するように見回してから、勇者を家の中へと引き入れた。戸を閉め、閂をかける。薄暗い部屋の中には、おばさんの家族が身を寄せ合っていた。彼らの顔は、怯えと疲労でやつれている。


「よかった……無事だったんだな。安心したよ」


勇者が心から安堵の表情を見せると、おばさんは首を横に振った。


「違うんだ……。あんたが『勇者』なら、早く、この村から出ていっておくれ」


おばさんの言葉に、勇者は絶句した。


「なぜ……。何があったんですか? 魔族が襲ってきたんですか? 村の様子が変だ。みんな、どうして隠れているんです?」


勇者が尋ねると、おばさんは深い溜息をついた。


「魔族は、関係ない。魔族なんて、この村は怖くないんだ」


おばさんは不安に顔を歪ませ、勇者の背を押すと、戸を乱暴に閉めた。勇者とフードの男は、無言で顔を見合わせた。


勇者は疑問を抱えたまま、自分の家に歩みを進めた。


家の中に入ると、勇者はここまで黙って同行してきたフードの男に、椅子を勧めた。家の中には埃が積もっており、しばらく誰も来ていないことが窺えた。勇者は埃を払い、やかんに水を入れ、暖炉に火をくべた。やかんから湯気が立ち上り、ふつふつと音を立てる。


「……何か、異変があったみたいだ」


勇者は静かに言った。フライ返しを手に持ち、落ち着かない様子でそれをいじる。


「みんな、俺のことを避けているようだった。どうして、俺が避けられているのか分からない……。」


フードの男は、何も言わずに勇者を見つめていた。その無言の視線が、勇者をさらに追い詰める。


「俺は、ただ……この村に帰ってきただけなのに。俺は、何か悪いことでもしたのか?」


勇者は自分に言い聞かせるように、震える声で呟いた。その声には、深い戸惑いと、ほんのわずかな恐怖が混じっていた。


「知りたいか?」


フードの男は、勇者に尋ねた。


「えっ!?」


勇者は、驚いてフードの男の顔を見つめた。彼の赤い瞳が、まっすぐ勇者を見つめ返した。


(なぜ彼が、村のことを知っているのだろう?)


そう思いつつ勇者が頷くと、一口茶を口に含み、フードの男が語り始めた。


「三代目の勇者は、魔王を討伐し、王都から追放された後、せめてもの罪滅ぼしとして、人間と魔族が共に暮らせる村を創った。それがこの村だ。

そしてその勇者は、一部の村人たちに『もし、再び勇者が召喚されることがあれば、彼とかかわるな』『勇者は、破滅をもたらす不吉の象徴なのだから』と、言い残したそうだ……。」


勇者は眉をひそめた。だが、フードの男の次の言葉に、勇者の心臓が凍りつく。


「勇者には、魔族を殺戮する『隷属の呪い』がかけられている。それは、勇者の意思とは関係なく、勇者の手で魔族を殺させるという、恐ろしい呪いだ……。」


(それじゃあ、魔族の少女と会うことができない? )


勇者は、自分の手を見つめた。呪いがかけられている自覚はない。だが、『隷属の呪い』がかけられていれば、魔族の少女と会うことは危険だ。そう思うと、気持ちが沈む。


「奇妙だと思わないか?」


(奇妙とは何が……? )


フードの男が薄く笑った。勇者はしばらく考えると、気がついた。


「本当だ、奇妙だな」


声に明るさを取り戻し、コップの茶を一気に飲むと、勇者も笑みを浮かべた。


「俺は、必ず、あの子に会いにいく。そして勇者という存在は、魔族たちが思うようなものじゃないって、証明してみせる!」


勇者は、フードの男にそう告げると、外に出た。村の静けさは、勇者にとって、もはや不安の象徴ではなかった。それは、これから自分が成すべきことへの、静かな決意を促すものだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ