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File28.4ツ目の怪物

──前回のあらすじ──


 白龍の真神類が鍵だと考え、事務所総出の捜索に乗り出した智代子達。

 そんな最中、真神類事件の要請を受けた誠良が見たのは、ノックオフを名乗る装甲を纏った4ツ目(『偽りのヒーロー』)だった。


仲間ヒーロー、なのか…?いや──」



 蒼いバイクの上で、ポツリと漏れた誠良の声。出雲(警察)からの連絡を受け、現場へとやってきた彼は、メット越しの光景を前にして、慌てて首を振り直す。


 英雄(ヒーロー)、それは人々が呼び与えた、町を守る者の褒賞のようなもの。ただ真神類を倒す武力装置ではなく、人々にとって希望である、と。誠良にとって、それは義務であるとともに代えがたい誇りである。

 しかし──


「チッ──『エンバハル』ッ!」


 崩れ落ちるビル壁。『Loading』と鳴る電子音と共に、その場を飛び出した誠良は、ドロドロと黒い何かに包まれながら瓦礫の中へと埋もれていく。


「──もう大丈夫だ」


 全身から噴き出すスチームと共に、瓦礫が木っ端微塵に吹き飛んでいく。エンバハルへと変身した彼は、胸に抱えた女児へ呼びかけて、軽く頭を撫でる。見渡す限りの瓦礫の中、己の来た道を指差して、避難する彼女の背中を見送っていく。


「よし」


 無事消えたことを確認し、誠良(エンバハル)静かに立ち上がる。


 視界の端、真神類(マコト)と争う英雄(ヒーロー)然とした4ツ目の姿(シルエット)。周囲の被害を顧みず、ただ己の力に増長したソレは、嬲るように拳を、足を振るい動く。


『charge』


 角竜の真神類を前に、4ツ目のバックルから流れた電子音。着後、その装甲の隙間から、真神類に向かって放たれた()が、相手の肢体を絡め取り、構える4ツ目へ引き寄せていく。


「失せろ」


 誠良(エンバハル)の耳に届いた、4ツ目の冷めた声。続けて閃光が視界を一瞬奪い去ると、遅れて爆発音が周囲の空気を揺らし響かせた。


「…何を考えてるんだ奴は」


 苛立ちを言葉に乗せて、誠良(エンバハル)の足は4ツ目に向かって動き出す。

 目先に捉えるのは、真神類だった男の首を絞める4ツ目の姿。明らかに勝敗は決していた。──そう、決したはずなのに、だ。英雄(ヒーロー)でありながら、命すら奪おうとするその行動に、誠良(エンバハル)の腕が思わず伸びる。


「それ以上はいけない」


 普段の自分すら驚くような低い声。

 ただ一瞬、それに反応した4ツ目は、軽く舌打ちをすると、突き放すように男の首を離す。


「あーあ、アンタと構えるのは今じゃねぇんだよなぁ…」


 するりと、掴まれた腕を抜けて、ヘラヘラと喋る4ツ目。

 誠良にとって、自らの英雄(ヒーロー)像を冒涜する一連の態度は、もちろん看過できるものではなくて。仮面越しに、眉間をひそめた彼は、去ろうとする後ろ姿へ声を上げて引き止める。


「はぁ…」


 瓦礫にまみれたビル街で、歩みかけた足を止めた4ツ目。溜息を吐いた彼は、バイザー越しに誠良(エンバハル)を睨みつけると、吐き捨てるように口を開ける。


「せいぜい足掻くんだな。ヒーローサンよォ…」


 刹那、巻き上がった砂埃と共に、その姿を消した4ツ目──否、ノックオフ。

 ただ怪我人と、周囲の被害だけが残った中心で、変身を解いた誠良は己の拳を握り締めた。



ーーー



 善は急げか、はたまた時は金なりか。とにかく、ぼーっと浪費するよりは何か手を動かしたほうがいいと、先人に習って動き出すことしばしば。あれよあれよと言う間に、糸羽町市唯一の教習所へ通い始めた俺は、公道走行を目前に、メットとグローブを身に着ける。

 既に持っていた普通車免許のおかげか、割とすんなり進んだのは予期せぬ収穫だったけど。まぁそれ以前に、記憶喪失でも運転能力に問題無いと判断されたのか、そっちの更新が楽だったのが不幸中の幸いか。兎にも角にも、目的であった「足」が順調に確保できそうだと思う。


「田辺さんですね。今日は(わたくし)菅原が担当させていただきます」

「よろしくお願いします」


 教官に頭を下げ、続けてバイクにまたがる。他の教官曰く、いいペースで課程を終えているとのことで、早ければ来週末にある免許試験に間に合うとのこと。都合がよすぎるような気もするが…まぁ、時間に余裕があるヒモ(ニート)様々って感じか。良くも悪くも贅沢な悩みだな。

 兎にも角にも、順調に進む日常の『足』の確保。点検はした、後は今までの実習通り、安全運転を忘れないように、だな。



ーーー



 ノックオフとの接触から数日。

 病院を訪れた誠良は、順調に回復へ進む出雲の元へと訪れていた。


「やぁ、今日も来てくれたんだね」

「えぇ…ま、今日に関しては、いつもの御見舞いで済んでいればよかったんですけどね」


 ベッドに横たわる出雲の傍ら、気さくに声をかけた庄司。

 誠良にとって、秘密裏に協力してくれていた警察組織のひとり。互いに顔を合わせたのはつい先日であるが、出雲のこともあり、既に確執はないに等しい。無論、初対面で『エンバハル』について根掘り葉掘り聞かれたのだが、その圧迫面接じみた印象は彼女の知識で上書きされつつある。

 閑話休題。彼女に促されるようにして、出されたパイプ椅子に腰掛けた彼は、自らの鞄へ手を入れる。


「…その口振りだと、何か進展があったんだな?」


 点滴を繋がれたままで、顔だけ起こして口を開ける出雲。庄司の手を借り起き上がった彼は、頷く誠良の出す資料へ一通り目を通す。


「一見いいことのようにも見えるが…」

「前提が盗品である以上、それはないよ出雲ちゃん」


 冗談だ、と返した出雲の頬を、庄司が軽く摘みあげる。


「あれ以降、俺との直接的な接触は無いんですけどね…お二人も御存知の通り、ウチでは今、白龍の真神類について調べていて。その過程で少し情報が集まった感じですね」


 ここ数日間、突如件数の減った真神類による事件。それに反比例するように、『4ツ目(ノックオフ)』の目撃情報が増えている、と。

 真神類被害が減ること自体は良いことである。が、実際に接触したことのある誠良としては、どうもきな臭く、良い状態であるとは思えていないのだ。前に姉達(華奈子と明大)の元へと現れた2人組み(ヒロアスとカフラマン)とは、明らかに訳が違う。…まぁ、そちらの場合は、身元が割れた完全な協力者であると、わかっているからでもあるのだが。

 脳裏に過った姉の彼氏(白いエンバハル)を思考から追い出して、誠良は深く溜息を吐く。職場の修羅場(白竜の真神類のこと)も踏まえ、背中を預けられる人が欲しいのは本音である。


 そんな一通りの説明を終え、腰掛けたパイプ椅子がギシリと音を鳴らす。

 真神類によって襲われ、出雲の手から盗み出されたはずの「対真神類用携帯型特殊武装」──通称:サプレスバックル。誠良がその存在を知ったのは4ツ目との遭遇後であるが、集まった情報の末、その所有者を特定(正確には所在が判明)したのは大きい。…最も、誠良の関心はソレが作られるまでの、出雲の内心と経緯であるのだが。いずれにせよ、非正規の持ち主がそんな「力」を使えばどうなるのか、それは想像に難くない。



 資料に載った画像、画質の粗いその姿を目に静かに舌打ちをする庄司。我が子(「サプレスバックル」)を悪用された彼女は、ある意味この場で最も「4ツ目」(ノックオフ)に執着していると言える。──より正確に言うならば、その本心は間接的に出雲を傷付けたことに対する自責なのだが。出雲の為に、と。ただ無意識に、年甲斐も無く秘めた乙女心が産んだ悲劇である為、彼女自身がそれを口にすることは無いのだが。

 そんな彼女の心など露知らず。当てられた怒気に釣られて、仰ぐように目を瞑った出雲。彼は、しばらく唇を噛み締めると、誠良のほうへと首を動かす。


「佐倉君。虫のいい話だとはわかっているんだが…」

「えぇ、どのみち俺にとっても引っかかるので、こっちでも調べておきますよ」

「…すまない」


 短く言葉を交わして、静かに部屋を去る誠良。

 安請け合いのようにも見えるが、どのみち必要な情報である、と。病室の扉に背を向けて、自らにそう言い聞かせる。…まぁ、これで割を食うのは姉や小山をはじめとした職場の面々であるのだが、それはもはや些細なことである。


「本当は、何も起きないのがいいんだけど」


 祈るように呟いて、病院の廊下を歩く。

 ふと、姉の彼氏と会ったのもこの病院であったなと。そんな場違いなことを思い出して、煩悩と共に無理矢理振り払う。なんだかんだ、彼は誠良にとって無条件に背中を預けられる人であるのだが…姉を任せた手前、無理に巻き込みたくないという建前で、そんな本心を覆い隠す。──だいぶ、思考が乱されたらしい。

 まるで恋する乙女みたいだ。なんて、そんな冗談を脳内で吐いた彼は、懐に入ったオピレイドを握り締め、事務所へ向かう足を急かすのだった。



ーーー



「おかえりなさい、明大さん」


 日が完全に沈み落ち、街灯が夜道を照らす頃。

 ただいま、と。扉を開けるや否や、鼓膜を震わせた声にそう返した俺は、玄関の鍵を確実に閉める。


 華奈子さんと同棲をはじめてから、時間が経つのは案外早いもので。

 俺が変身したあの日以来、何故か俺が外に出ることを拒んだ彼女をなんとか説得し、自由に使える時間が増えた。こう聞くと、華奈子さんがただ束縛が強いだけのようにも思えるが、それは当たらずとも遠からずだろう。本人曰く、別の理由があるらしいが…理由はともあれ、事実、彼女はだいぶ重い。

 まぁ、そもそも俺はそんなことをする気も毛頭無いし、むしろ心地良いと思ってるが。どのみち、恋愛に拒否反応(トラウマ)を起こしていた俺が、んなこと考えるだけ時間の無駄である。


 閑話休題(さて、なにはともあれ)

 促されるようにして、手洗いの後食卓へ座る。

 ここ数日、俺の帰宅時間が遅い為、彼女の手料理を食べる機会が増えたのだ。もちろん、それが嬉しくないわけが無いのだが…俺個人としては、養ってもらっている以上、これくらいの雑事は俺がやっておきたいという、ささやかな男の見栄があるのだ。うん。誤解のないように言っておくが、華奈子さんが料理下手は訳では断じて無い。むしろめっちゃ美味い(上手い)

 食卓に並んだ料理に舌鼓を打って、彼女の愚痴を頷き返す。


「──それで…って、明大さん聞いてる?」

「うん、聞いてるよ。香水臭い客の話でしょ」

「そう、なんだけどさ…その、明大も何かあったの?」


 目敏いというか、よく見ているというか。一度話を中断して、こちらを覗き込むように、テーブルに乗り出した華奈子さん。俺は思わず食器を寄せて、汚れそうになった彼女の長髪をその肩へかけ直す。


「いや、こんな幸せがずっと続けばいいなって」

「…もう、なにそれ」


 そのまま頭を撫でて、目を細める彼女に微笑み返す。相変わらず、拗ねたような口調も、その表情と一致していないが。

 なんだかんだ、彼女との毎日を彩るささやかな幸せ。無意識に漏れた自分の言葉に、俺は改めてこんな何気無い日々が続けばいいと、そう思った。

『ノックオフ』

「The false justice that speaks of "heroes"」

4ツ目(蜘蛛の真神類)が改造されたサプレスバックルとオピレイドを用い、変身した姿。

・本来想定されていた出雲(=人間)用の強化装甲を真神類の身で装着することにより、進化をせずに一つ上のステージへと到達した。

・性能面において、エンバハル・オーバースペックと同等レベルであり、元々の真神類の持つ各種能力が強化されている。

・真神類を人間に戻す特性や、状況に応じて変身解除を行う機構は健在である。

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