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14.自己紹介、そして撃沈。





 始業式。

 今日はちゃーんと朝ご飯いっぱい食べてきたからおなかは鳴らないのだ!!

 

 あっ、生徒会長喋ってる。

 この人は今年の3月まで1年生であったにも関わらず生徒会長となった出来物であるらしい。

 まあ我が校の生徒会長様のことは、今は置いておこう。

といいつつ実はこの人について忘れ気味・・・・・・てへ。もうわたしも長年ここで過ごしとりますからなぁ~。前世の記憶なんてもう遠いものですわ。しかも僅かに記憶にある物語からも度々外れているから・・・・・・もう予測不能に近い。

 にしてもイケメン。ちなみに生徒会メンバーは全員重要なキャラ。全員もれなくイケメンです。お決まりですよね、はい。



 生徒会長のお言葉の次に、今年から入った新しい教師の紹介がされた。

 その中に若くて背が高くて体格が良く、爽やかでちょっぴり熱血そうなわんこ系イケメンがいた。

 女子達がざわめく。




 ヤッホーー!! キターーーー!!!!

 

 彼はユウキと同じ年度に学校に入った新任の体育教師、

  “鷹ノタカノツメタカシ”!


 俺のけっこう好きなキャラだ。

 とにかく・・・・・・どんくさくて可愛い。そして熱血ですがすがしい。

 そして初々しい・・・。ザ・好青年って感じの人物だ。



 うわぁー、ほんとに鷹ノ爪が今目の前にいるなんてぇ。信じられない!!

 目の前には、緊張して挨拶を噛みまくっている鷹ノ爪。なにそのはにかみ。

 

 かーわーいーいーーーー 好青年ーーーー   


 残念ながらそんなに濃密に関わらないが、彼は俺らの体育教師。女子には疎まれるが男子を教える先生なのだ。

 なにもないとこでつまずく鷹ノ爪先生・・・早く見たい・・・・・・




 新しく学校に来た教師陣の紹介と挨拶が終わり、次に担任の発表だった。

 俺らのクラスは当然、楽良先生。

 これからよろしくお願いしまーす!!




 式が終わってぞろぞろと教室に戻っていく。

 俺は1組だったから教室が一階にあって移動が楽だが(体育のときとか)、9組から12組までは2階なのである。まあ、一階の差くらいどうってことないが・・・・・・

 

 12組と聞いて驚いただろうか。

 この王翼高等学校では各学年12組ずつあり校舎が7階という、結構デカい学校なのだ(俺的にね)。

 校舎が2練あって、それを渡り廊下が繋いでる構造だ。例えば1年生ならば1~4組までは1練で、5組~8組は2練、という様になっている。 

 また校舎の隣に教師のいる教師練が建っており、そことも渡り廊下で繋がっている。



 教室に入って椅子に座り読みかけの本を読んでいると、徐々に生徒たちが教室に入ってくる。

 前の席に座った奴が振り返る気配を感じると、案の定声をかけられた。


 「ねぇ、何の本読んでるの?」


 でたよ『何読んでるの』。このセリフなんか嫌いなんだよねー。

 教えてもどうせ『ふーん』の一言で終わったり、興味なさそうに反応するもんなー。

 なんとなくぶすっとした顔を上げると、目の前に前髪が長めでマッシュルームカット(?)の大人しそうな生徒が本をのぞき込んでいた。

 

 「たきちか先生の『猫の五月雨さみだれ冒険記 シリーズ6』だけど」


 「うわぁ!!僕もそれ好きなんだあ!! 6巻って昨日発売だったよね!?もうそこまで読んでるの!!? 僕まだ半分のとこまでだよ!」


 「マジ!?あんたこれ知ってんの!?」


 「うん!そのシリーズ大好きなんだ。 もともとたきちか先生が好きで読んでたんだけど、猫の五月雨シリーズが一番好きになったんだ。 あっ、ほらこないだあったフェアで貰ったやつ。限定100コの五月雨ファスナーチャーム!」


 そう言ってマッシュくん(仮名)は興奮した面持ちで机の横に掛かった自身の鞄を見せてきた。

 彼の言ったとおり、鞄のファスナーにはぶちゃっとした顔の五月雨の顔のチャームがちょこんと付いていた。


 「うおっ、ガチじゃん。俺もこないだ行った! ほら!!」


 俺はペンケースを取り出して、そこに付いている、彼の物とは別の表情をした五月雨を見せた。


 うおお~~と盛り上がる2人。

 それを教室に戻ってきた他のクラスメイトが遠巻きに見ていた。



  『猫の五月雨シリーズ』。この本に出会ったのは俺が小学校低学年のとき。確か3年生くらいの時かな。

 チヒロがインフルエンザで学校を1週間程休んで暇だった俺は、休み時間に図書室に入り浸って本を読んでいた。そして偶々手に取って読んでみたらハマったのがこの作品だ。


 ある梅雨のじめじめとした長雨に濡れているところをもの越しが柔らかな青年に拾われた猫。

 彼はその猫に“五月雨”という名を付ける。その名前に似合う、長雨のようにじとっとした目つき。五月雨はその目つきの悪さや可愛い気のなさから前の飼い主に捨てられたのだった。というか、自分から家を出たそうだが。飼い主が、新たに可愛らしくて従順に反応を返し甘えてくる子猫を家に連れ帰ってきて、その子のことしか構わなくなったそうだ。

 この本の前半部分、俺は泣いた。甘えたくても上手く甘えられない五月雨。それに自分のことを無視する飼い主。目の前で可愛がられる自分とは全く違って可愛らしい見た目の子猫。

 五月雨はずっと孤独だった。

 子猫が来る前、飼い主の帰りを首を長くして健気に待っていたり、ウザがられてもすり寄る五月雨。


 新しい飼い主はそんな不器用な五月雨を心から愛した。

 最初は警戒していた五月雨の心を、時間をかけて解きほぐしていった青年。

 俺はなんとなく五月雨を自分に重ねて、今自分を大切にしてくれている親やチヒロのことを思って頬を濡らした。

 青年は新しい花の品種を作る研究をしていた。研究成果が認められず、青年はとっくの昔に資金援助を打ち切られていたが、彼は私的に研究を重ねた。

 昔病床で失った妹との約束だったそうだ。この世界の全てを、青年が作った美しい花でいっぱいにしてやると。

 青年によってそれはそれは美しい花が生み出された。研究は成功したのだ。

 

 だが青年は病に倒れ、あっけなく亡くなってしまう。

 青年の意思を受け継ぎ、五月雨は青年によって開発された花の種を持って世界中を旅し、種を蒔く旅に出たのだ。

 あまり外の世界を知っているわけではない五月雨にとってそれは旅というより冒険だった。

 

 見たことのないものをみたり、いろんな生き物に出会ったり・・・・・・

 と、五月雨の冒険記を綴ったものが、このシリーズだ。




 実はチヒロもこの本の愛読家である。

 インフルエンザで苦しむチヒロを学校帰りに見舞いに行き、日中1人で過ごすのは暇だと言ったから図書室から借りてきたこの本を家に置いていった。

 そしてチヒロもハマったということだ。


 こないだのフェアもチヒロと一緒に行ったのだ。

 で、100コ限定のグッズを見事手に入れて、手に入れられなくてむくれていた俺にくれたのだ。



 このマッシュくんと五月雨の話で盛り上がっていると、楽良が教室に入ってきた。

 さあ、これから地獄の自己紹介だ。

 めっっちゃ緊張する。いつも自分の順番が来るまで何言おうか考えてるから、皆の自己紹介が全く入ってこない。みんなは自分の番が終わった瞬間気持ちに余裕ができるから自分から後の人のはゆったり聞けるだろうけど!ちくしょー!こういうときは出席番号前の方になりたいー!!



 俺は皆の自己紹介を聞いてありきたりなことを言うという作戦を決行することにした。




 自己紹介が始まった。


 出席番号1番の人からだ。

 みんな大体、名前、趣味、みんなに一言って感じだ。


 チヒロは名前だけ言って座ろうとしたが楽良に怒られて適当に言ってた。

 チヒロのが通れば俺もそうしようと思っていたのに・・・ちぇっ


 ユウキはオドオドしながら小さい声でアニメを見ることが好きだと言った。

 とたんにクラスはざわっとし、


 「えっ、やっぱあいつオタクぅ~!? きっも」


 「だと思った。 なんかオタクっぽいもんね」


 などとひそひそ聞こえてきた。

 

 えぇ・・・・・この世界って、オタクに厳しいんですか・・・?? てかユウキってアニメ見るって言っただけじゃん・・・・・・

 俺アニメとか漫画とか普通に好きなんですけど・・・・・・



 なんかみんなムカつくぞ。アニメや漫画を差別するんじゃないっっ!!

 1人で勝手に憤っていると、俺の前の席のマッシュくんが立って自己紹介した。

 

 彼の名前は“歩野谷ホノヤ木蜜キノミツ”。趣味読書。


 マッシュ君を改めてよくよく見てると、なんとなく漫画の中に出てきたような・・・気がする。

 漫画の中でメインで出てこなくても、この世界に存在していることには変わりないもんな。


 でも、俺は今、ユウキの自己紹介に対するクラスメイトの反応にムカついている。

 俺の番になり、勢いよく立ち上がる。


 「俺も、アニメとか漫画とか好きですけどぉぉ!!!?」


 勢いよく座る。






 沈黙――



















 ハッ・・・しまった!!!!!!

 ムカついたからってこれはだめだろっ!!!子どもか俺っっ!!!


 俺はもう一度立って


 「あ~・・真柴真希です・・・。よろしくおねがいしますぅ・・・・・・」


 ブッフォと楽良が吹き出したのが目の端に映る。


 自己紹介の最後の方が小さくなった。多分俺の顔は今真っ赤になっていることだろう。

 はっずかし!!いくら腹が立っててもあれはないわ。










 こうやって、無事(涙)全員回り、最後にまだ肩を震わせる担任の楽良の自身の紹介で終わった。

 ちなみに彼もサブカルチャーには興味があるらしく、ユウキのフォローをしたつもりなのだろう、熱く語っていた。









 ちょうど楽良の話が終わったところでチャイムが鳴り、20分間の休憩に入る。

 もう俺は自分の自己紹介が終わった瞬間から自分自身もオワッテいたので両手で顔を覆って固まっていた。するとこっちの方に近づいてくる足音が聞こえる。

 チヒロはきっと気を使ってほっといてくれるだろうから、俺に用がある人物だろう。


 「あの・・・」


 聞き覚えのある声だ・・・ってか、ユウキじゃん。

 俺は手を顔からゆっくり剥がす。少し熱い顔を向けて、


 「何?」


 と、ほっといてくれオーラを出すが、ユウキには通じない。ちくしょー


 「ぴっ・・・『ぴょんっとキャロット』って、知ってますか・・・・・・?」


 

 「知ってる・・・けど・・・・・・」


 おおっ・・・あのユウキが俺に話かけている・・・・・・!!

 感動以外の何でもない。俺は今、ほ、本物の白島結城と話を・・・!!!


 ユウキが尋ねてきたアニメは、ちょうど俺も少し前に見ていたものだ。

 なつかしー。


 

 「そうですかっ!! あれ、滅茶苦茶面白いですよね!? 主人公の容姿はちょっとぶりっ子気味で最初えぇ~と思いましたが、見てるとだんだん慣れてきて、可愛い子ぶってるくせに結構言うこと辛辣で・・・でもそこが面白くて・・・」


 ユウキは突如興奮気味に早口で話し出す。


 教室の端では『やだー、美少女系アニメぇ? 引くわ-』とか、『うわ、あいつとは話さないようにしよ。てか話合わなそーだけどな(笑)』とか嘲笑の声が聞こえてくるが、それよかユウキの話す内容に共感しすぎてあまり気にならなかった。


 

 「わっかるー!! だよなあ!!? あの変身シーンの直前の決めゼリフ、あれ滅茶苦茶好きだわ」


 同調すると、ユウキはパアッと顔を輝かせ破顔した。(眼鏡で表情ほぼ見えないけどオーラでわかる)


 「そうですよねっ! あれあれ、ほら何でしたっけ・・・変身ポーズの前のセリフ。『なんとかな敵もぴょんぴょんっと解決・・・』みたいな感じでしたよね・・・」



 「そうそう!!『七面倒くさい敵共もぴょんぴょんっと解決☆ 面倒だけど敵が出ない日は寂しいぴょんっ☆ 美少女うさ耳ヒーロー“ぴょんっとキャロット”参上!!だ、ぴょんっ!!』

 だったよな?」


 俺も興奮していて、主人公のセリフを振り付きで熱演してたら、周りが水を打ったようにシンと静まりかえっていた。目の前のユウキでさえ呆然として何故か天を仰いでいる。

きっと今のが気持ちわる過ぎて、現実を受け入れるのを拒否しているのだろう。魂抜けかけてるし。

 


 ヤバっ・・・。恥の上塗り・・・・・・

 校庭行って穴掘ってこうかな。




 すると教室の中でヒソヒソ話が爆発した。




 うわーーん!!!!入学早々みんなから引かれてぼっち確定じゃーん!!

 あ、でもチヒロがいる・・・・・・!

 でもでもチヒロも引いてたらどうしよう~!!!!!

 俺がアニメとか好きなの、チヒロに秘密にしてたんだよねーー・・・

 

 うう・・・・・・チヒロの顔を、見れない・・・






 


 教室内では1組の生徒達がひたすら『最強の不良が見るアニメだとっっ!? てか今のふり最高にかわええっっ・・・!!』『きゃーーーーー!!今の見たっ!?めっちゃかわいいいいん!!!!真柴くん・・・いや、マキちゃんだったよね!?名前!?ちょっと次の時間話かけてみようよっ!!』『はぁはぁ、萌え・・・マキちゃん・・・・・・俺もマキちゃんにぴょんっ☆されたい・・・・・・』

 という声が渦巻いていることを、本人は知らないのだった・・・







 

 そして自分の席に座って昨日購入した『猫の五月雨冒険記 シリーズ6』を読んでいたチヒロは、まーた“かわいい”を振りまきやがって・・・とため息を吐くのであった。














































 


 




 


 




 



























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