イーサン・フォーサイス
ブランの名を呼びながら入って来たのは、獣人国の王でもあるイーサン・フォーサイスだった。
金色の長髪を右側で結んでおり、髪の毛と同じ色の瞳は真っ直ぐブランを見ている。
イーサンはライオンの獣人なので、頭の所には小さな耳がついている。
「……イーサン、いきなり入って来るな」
「何故だ? 手紙は出しただろう?」
「当日に手紙を出す馬鹿がいるか」
「ハハハッ。それはすまない!」
ブランは呆れたような表情だが、イーサンは気にしていないのか嬉しそうに笑っている。
イーサンが獣人王となる前、この国に一人で訪れた。この際にブランと出会い、二人は友人の様に接しており。気を許している仲なのだ。
「……よくそんなので、王が務まっているな」
「ハハハッ! そんな事を、私に言うのはお前だけだぞ?」
「本当に、お前はいつ会っても変わらないな……。」
「むっ。そこに居るのが、ブランの番でリゼリア嬢の生まれ変わりであるお嬢さんか?」
イーサンは、ブランの横に居たルミエールに気づいた。
何故、リゼリアの生まれ変わりだと気づいたのかなんて聞かない。イーサンは気づいたのだろう。番であるリゼリアが亡くなった後も、結婚しなかったブランが婚約を発表したのだ。
あれだけリゼリアを愛していた男が、婚約を発表した相手は、もしかしたらリゼリアの生まれ変わりなのではないかと……。
だが、会うまではイーサンもまだ疑っていた。だが、会った時の印象もルミエールの魔力もリゼリアと似ていたのだ。
「この姿では初めましてですね。お元気でしたか? 獣人王」
「うむ。ブランが婚約発表したと聞いたときは、耳を疑ったが本当にリゼリア嬢の生まれ変わりなのだな。今の名は何て言うのだ?」
「失礼致しました。ルミエール・リフェアと申します。」
「ルミエール嬢か……また会えて嬉しいぞ」
パンッ
イーサンは、握手をしようとルミエールの方にふわふわの毛の中に肉球が見える手を出した……。その手に導かれる様にルミエールは、手を伸ばしそうになった時だった。イーサンの手をブランがはね除けた為、ルミエールが伸ばしそうになっていた手は行き場を失くしていた。
「……触るな」
「ハハハッ! 男の嫉妬は見苦しいぞ? ブラン。」
「前に会った時、リゼリアがお前の手を嬉しそうに揉んでいたのだ、ルミエールも一緒の事をしそうだろ!」
「ハハハッ! そう言えば、そんな事があったな」
リゼリアだった頃から、動物好きなルミエール。初めて
イーサンに会った時、握手をしたリゼリア。
その時、ふわふわとした毛の中に隠れている肉球を無意識にプニプニと揉んでしまっていた。
その時、リゼリアの表情がとても嬉しそうにしていた為、ブランは嫉妬してしまいイーサンに向けて殺気を放っていた。
その後は、誤解を解くのにリゼリアは必死にブランを止めた。当のイーサンは、何故か楽しそうに笑っていた。
そこからとは言うものの、リゼリアは獣人の男にはむやみに近づかないと言うのを約束させられていたのだ。
「ルミエール……」
「は、はい!」
ルミエールの事を、低い声でブランが呼ぶ。怒られてしまうのかと思い、ルミエールは強張ってしまった。
振り向いた先のブランは、無表情でルミエールを見ていた。その目は、冷たく暗い。
「……獣人の男には、近づかないと言うのと触らないと言うことを約束しておくれ。じゃないと、その男を私は殺ってしまいそうだ……。」
「わ、分かったわ!」
(……あの目のブランは、本当に殺りかねないわ。私が近づいただけで殺られるなんて申し訳ないわ……気を付けないと。)
ルミエールの返事を聞いたブランは、いつもの様な表情に戻るとにっこりと微笑んだ。
「……ふむ。ルミエール嬢も、こんな男に捕まって大変だな!」
二人のやり取りを聞いていたイーサンは、楽しそうな表情で二人の方に近づいてくる。
近づいてくるイーサンを見て、ブランはルミエールを自分の方へと抱き寄せ。整っている顔を歪めた。
「……近づくな」
「そんな心が狭いと嫌われるぞ?」
その言葉を聞いた途端、ブランは勢いよくルミエールを見た。
その表情は、捨てられそうな子犬の様な表情をしている。眉は下がっており、悲しそうだ……。
「……そんな事無いわ?」
ルミエールの言葉を聞いたブランは、安心した様にため息をついた。
「クククッ。本当に、お前は見ていて飽きないな!」
「……喧嘩うっているのか?」
「そう怒るな。友ではないか」
「お前と友になった覚えはないぞ!」
「ハハハッ。 この恥ずかしがり屋め!」
「ハァー。本当に、毎回毎回お前は話を聞かないな。私の話を聞く努力をしろ!!」
「話を聞いているではないか」
ルミエールは、二人のやり取りを聞きながら何だかんだ仲良しだと思いながらやり取りを聞いていた。
微笑ましそうに見ていたのが気になったのか、ブランは不思議そうにこちらを見た。
「……ルミエール。そんなに嬉しそうにして、良いことでもあったのかい?」
「はい。お二人が変わらず仲が良さそうなのが嬉しくて。」
「……そうか」
「ハハハッ。ルミエール嬢に言われたら、否定出来んのか?」
「……煩い。それで? 何しに来たんだ」
「……? だから祝いに来たと言っただろう」
「……本当にそれだけか?」
「そうだが?」
きょとんとした顔をしているイーサンを見たブランは、深いため息をついた。
その後、イーサンが一人で竜人国に来た事を知り、慌てて来たのだろう。汗をかきながら慌てた表情をしている獣人王の従者を使用人が連れてきた事によって、その場は終わったのだった。




