戦う理由と能力覚醒
鉄と鉄がぶつかる音がする、発砲音がする、槍が空を切る音がする、戦闘慣れしている兵士達に引けを取らない戦いをしている、やっぱりあの神によって上げられた戦闘能力はチート並だな、まるで無双アクションゲームの主人公みたいだ
「はぁ!!」
〈ガスッ!!〉
兵士の隙を見て刀を振り下ろす、首元に当たると切れること無く兵士が倒れる、俺がやっているのは峰打ちだ、某時代劇とかでよくやっているのを思い出したわけです
麗奈や諒の周りを見ると同じように兵士が倒れているだけで、血などは流れてない、有希は手甲だから手刀で倒している、みんなこの村の前で誰かを殺すわけにはいかないと思っている、まさに以心伝心だ
「サマエル!!」
黒の少女は槍を鎌にシフトチェンジするとすかさず俺を狙ってくる、猛アピールは嬉しいけど、まだ死にたくない
「ホント…反則だよな…」
ため息をつきながら少女に突撃した
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「ちょっと…さすがに多いわね…」
私達三人はある意味初陣と同じだ、英樹は一度あの少女と戦っているみたいで動きが意外としっかりしている、ゲームばかりしてると思ったけど、もしかしたらそのゲームが役に立ってるのだろうか
ともあれ、運動能力において負けない私が英樹の足を引っ張る形になっている
「諒…有希……大丈夫?」
他の二人を見ると二人も同じように大きく息をしながら兵士と戦っていた、やっぱり英樹は凄い、死にそうになったからとかじゃなく、覚悟が違ったのだ、私はあれだけ覚悟を決めておいて実はまだ悩んでいた、本当に正しいのかを、けどあいつは迷ってない、あの目を見たら分かる、自分を…私達を信じている、私達四人なら出来るって信じている
「……情けないな私……あんなこと言っておいて………よし、やめた……もう悩むのは、迷うのは」
そうだ、迷ってなんていられない、私達は生きるんだ、それだけでいい、それだけで戦う覚悟は出来るんだ
その瞬間、私の中の何かがはじけた
「『私の刃は風を越える、音を越える……光より速く、あなた達の認知を越える!!仲間を守る刃となれ!!』」
自然と…いや、勝手に何かを言っていた、私も何なのかは分からない、けど、これが私の力になるのだと思った
「切り裂け!『剣光・ライトニング』!!」
瞬間だった、みんなの動きがスローモーションになり、その中を私は自由に動けるような感じだ
「一体………でも、これなら」
訳が分からなかったが、このチャンスならいける気がした、迫り来る兵士達の首元に私の銃剣の背を叩きつける、一気に駆け抜けると全員元通りの速さになった、私の後ろにはさっきの能力的なやつで叩きのめした兵士達が倒れていた
「私……すごーい…」
少しあっけにとられたが、我に返り、英樹の所に向かった
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一瞬何が起きたのか分からなかったが、麗奈が瞬間移動をしていた、しかも、兵士達が全員いつの間にか倒れていた
英樹といい麗奈といい、適応力が高い、諒も予知でもしたかのようにこの状況を言い当てるし、三人に一体何が起きてるのだろう
あと、不満なのが英樹は刀、麗奈は銃剣、諒は双剣なのに私は手甲だ…ガンドレッドである、手にはめる鉄の塊だが手にフィットして更に重さなど感じない
「…えい」
でも、この手甲は面白い、兵士に手のひらをかざすと
〈ボッ!!〉
「な…なんだ!?熱い!?」
なんと炎が出るのだ、さすがにこんがりと焼いたら可哀相なのでちゃんと水をかけて消火はする
〈バシャン!!〉
まぁ、勢いはポンプの威力で消火はする、でもこれが私の力の一つなのだろう、本で読んだことはあったけど、まさか本当に魔法を使える日が来るとは思ってなかった…嬉しい
とはいえ、相手の中にも魔術師はいるらしく、諒が苦戦している、助けにいきたいけど兵士がいるせいで無理だった
「くっ…私にもっと戦う力が……」
「有希、危ない!!」
疲れのせいで一瞬隙が出来てしまった、それと同時に兵士が剣を振り上げていた
「(…ダメだ……間に合わない)」
死を覚悟した、こんなことになるならもう少しみんなと楽しめばよかった
「(……嫌だ……まだ死にたくないよ……もっとみんなと居たいよ……麗奈と一緒に買い物に行く約束してるのに…諒と本の話したいのに……まだ英樹と一緒にいたい……)」
この時間がすごくゆっくり進んでいるような気がした、相手の動きがよく見える、諒が何かを叫んでる、麗奈が振り返っている……あと何秒であの剣で斬られてしまうのだろう……
「(…ごめん…みんな)」
私は目を閉じ、心の中でみんなに謝った
〈カキン……〉
何か鉄と鉄がぶつかる音がした気がする、目を閉じてどれぐらい経ったのだろう、私は斬られたのだろうか…痛みは感じないし、剣で斬られた感覚はしない
恐る恐る私は目を開けた
「……え…っ………英…樹…?」
私の目の前で敵の剣を刀で受け止めている青年の名前を呼んだ
「有希…大丈夫、絶対に死なせないから……せい!!」
英樹は相手の剣を弾き飛ばし首筋に峰打ちを決めた、兵士は力無く崩れて意識を失った
なんで一番遠くにいた英樹が私の目の前にいるのだろう
「どう……して?」
「ん?……いや、今回はあの女に感謝するべきだろうな……まぁ、ぶっ飛ばされてきたって所かな?」
呑気に、けれど安心するような声で言った、本当のことなのか英樹の服はボロボロで、擦り傷もある
「まさか…私を助けるために……!?」
「……麗奈の能力は近距離じゃないと無理そうだし、諒は予知能力、ならあの馬鹿みたいにぶっ飛ばし系の攻撃をしてきそうなあの女の力を使っただけの話だよ」
「バカ……英樹も死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「バカはお前だよ、有希……何勝手に死ぬ覚悟してるわけ?俺達四人全員で元の世界に帰るんだろ?」
そうだった、全員で元の世界に帰るんだった……本当にバカなのは私だった
「ごめん…英樹…私、もう諦めない」
「あぁ、それでこそ有希だ」
英樹が微笑んで私の頭を撫でる、この状況でされるのは反則だ、ときめくなという方が無理な話だ
「英樹…結婚しよ」
「あんたは何どさくさに紛れて変なこと言ってんのよ!!!」
いつの間にか近くまで来ていた麗奈の全力のツッコミが炸裂した
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一体どうなっているんだ、いつの間にか引き連れていた兵士達は全員気を失って倒れている、更にあの男…まともに攻撃を与えれたと思ったら、逆に攻撃で吹き飛ぶのを利用して仲間を助けるなんて……一体何者なんだ……命がけで仲間を守る?そんな馬鹿な
「……私も舐められたものだな……こうなったらまとめて始末してやる、私の本気に恐れるがいい」
私はすべての力をサマエルに集中させる、コレを喰らって生き残った者はいない……あの男…あの男さえいなければ……
「私は負けるわけにはいかないんだ!!『全テノ闇ヨ、我ガ道ヲ仇ナス者達ヲ喰ライ尽クセ!!』」
サマエルの鎌先が漆黒に染まる、全ての命を喰らい尽くす災厄の捕食者、この一撃で終わらせてやる
「恐れろ…震え上がれ……そして、絶望しろ!!『Seele Raubtier Jet schwarz〈魂ヲ喰ラウ漆黒ノ捕食者〉!!』」
鎌を一降りする、すると奴らに向けて無数の鎌鼬が飛んでいく、更にゆっくりと広範囲に漆黒の斬撃が迫っていく、鎌鼬にやられるかこの捕食者に喰われるか、奴らの命も時間の問題だ
「『ここは私の領域、魔術回路展開、魔術式解析、全ての魔法・魔術は私の力の前では無意味』」
今さっきまで死の体験をしていた女が何やら呟いている、恐怖のあまりにおかしくてもなったか?
私のサマエルを防ぐことなど出来ない
「鎌鼬は任せて……後は英樹…任せたから……『魔術駆使!!』」
周りの雰囲気が変わった気がする、何が起こるのかは分からないが無駄なことだ、奴らは鎌鼬に切り裂かれ、サマエルによって魂を喰われるのみ、奴らに勝ち目など無い
しかし、そんな私の予想は裏切られる、鎌鼬は奴らを切り裂いた……はずだった、なのに…なぜ奴らは倒れない……鎌鼬は服を切り裂く、だが、体はほぼ無傷だ、意味が分からない
「な……に……一体なにが……!?」
回避不可能の鎌鼬が全て当たった、今も当たり続けている、なのに倒れるどころか、傷一つ付かない
「有希…あんたチートね、一体どうなってるの?」
「この空間において魔法や魔術の類は私の意思によって強くしたり弱くしたりできる……みたい?」
そんな能力聞いたこと無い、そんなことが出来るなら初級魔術を究極魔術並みの威力にできるということなのか……あり得ない…あり得るわけが無い……そんなこと、不可能だ
「ふ……ふはは、鎌鼬はどうにかできても、コレはそんなものじゃ防げないぞ、魔術や魔法ではない、死神の鎌と同じ攻撃だ、威力を弱めたところで当たれば即死だ!!」
そうだ、私の力はどんな相手でも即殺せる、それこそどんな最強の戦士であろうが
「貴様ら全員、絶望しながら死ぬがいい!!」
絶対不可避のデスサイズ、当たれば最期、その魂を刈り取る、奴らに防ぐことは出来ない…勝った、私は勝った!!
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「英樹…」
「有希の能力でも防げないなんて…」
「どうするのよ…英樹」
みんな焦っている、俺だって焦ってる、どうにかしないと即死なんて……どんなチート能力だ、絶対不可避とか……絶対不可避か……なら、物質があるのか……物質があるなら、破壊することはできる…いや、破壊といってもどうすれば物質を破壊できるのであろうか……
「……諦めないぞ……やれることはやる…諒…有希…麗奈……みんな覚悟を決めてここにいるんだ、俺が諦めたらどうなる……やれると信じて進むんだ…」
たとえ即死の攻撃であれ、防ぐ手立てはある、武器でもアイテムでもなにか……
その時俺の頭の中に何かが駆けめぐる、よく分からないが動き、文字……そうか、これが俺の力なのか……あの神によって使えるようになった人の能力の限界を超えた力……なら、やるしかない
「『全て現象・万象・幻……俺自身が認知・認識可能なら全ての事柄は俺の前に無意味・無駄・無価値……見えるもの、見えないモノ、聞こえるもの、聞こえないモノ、感じるもの、感じないモノ……そこにあるだけで全てを破壊する』」
刀身が青いオーラを纏う、上手くいくかは分からない、やらなければ死ぬし、やっても死ぬ……なら、やってみてダメで死んだ方が諦めがつく
「俺の邪魔をするなら…破壊するのみ『我流・次元刀〈夢幻の太刀〉!!』」
迫り来る死神の鎌に刀身をぶつける、ぶつけた所から次元を切り裂き、その現象が完全に消えるまで何度でも切り裂き続ける、そのスピードはコンマ1秒で数万の次元を切り裂く、そして、現象が消えるとき…いや、次元が現象を認識しなくなったときここでようやく次元裂断が終わる、これであったことは無いことにされる、これが俺の能力…我流・次元刀〈夢幻の太刀〉なのだろう
「な……なな……」
少女は驚愕の表情を浮かべながら震えている、きっとこんなことは初めてなのだろう、そのまま力無く座り込むと、こっちを見ながら
「……や…やるなら……やればいい」
弱々しく言った、きっと、負けたから殺せと言っているみたいだ、よく見ると肩が震えている、目元は涙がこぼれそうなぐらい潤んでいる、死が怖いのだろうか……さっきまでの強気な態度が打って変わって弱々しい少女になった
「じゃあ、遠慮なく」
このまま逃がしてもいいけど、また噛み付かれたら厄介だ、災難の種は早めに摘んでおくに限る
「ひっ……く……」
今にも泣き出しそうな少女は、目をつぶって斬られるのを待っていた、有希といい死を覚悟するのは早い気がする、まぁ、仕方ないけど
俺は、そんな死を覚悟した少女の頭を撫でた
「ふ…ぇ……?」
びっくりした顔でこちらを見上げてきた、よくよく見ると可愛らしい顔だ、銀髪のロングで赤色の瞳、ぱっちりとした目、スラッとした鼻筋で柔らかそうな唇……って、なにじっくり観賞してるのだろうか
「……どう…して?」
声色も先程までの凜としたものではなく、女の子らしい可愛い声になっている、どういう変化だ、同一人物とは思えない
「まだ死ぬのが怖いんだろ?」
「っ…べ…別に……怖くなど……」
嘘が下手だ、こんな姿を見て殺すなんてそんなことは出来ない、それに、もう一つ理由がある
「全く、なんで兵士達を峰打ちで眠らしたか分からないのか?」
「……」
「この村の前では絶対に人を殺さないって決めたからだよ」
少女はハッとした表情で見てきた、まるでたったそれだけで、自分達が死ぬかもしれないのにこちらは殺さす倒すだけなのか?という感じだ
「どうして……」
「さぁ…何でだろう……でも、この村の人にお世話になったから…かな?」
「……そんなことで……」
「あぁ…そんなことで理由は十分なんだ」
そうだ、それだけでいいんだ、俺が戦う理由は確かにこの世界の平和を取り戻すこと、けど、今は目の前で困ってる人を助けるために戦う
「そうか……」
少女は立ち上がり、懐から何かを取り出した
「……でも、次は私が勝ってみせるからな……今回は素直に引いてやる」
そう言って取り出したものを空にかざすと、倒れている兵士達がどんどん消えていく
「え…?……えぇ!?」
さすがにびっくりだ、向こうでも三人ともびっくりしている
「ただの転送道具だ気にするな」
いや、さすがに見たことないものはびっくりする、少女は俺の反応を見てクスクスと笑っていた
「確か、英樹だったな」
「え?…あぁ、そうだよ」
何故知っているのだろう……あっそっか、麗奈達が俺の名前を連呼してたもんな
「私はメリア・リーシェンだ……じゃあな」
そう言うと、光に消えていった、最後は凜とした状態に戻っていた、でもメリアか…最初に会ったときは余裕なかったけど、二回目はまじまじと見たらすごく可愛いし、笑顔が可愛かった
ちなみにそのあと麗奈と有希に怒られてしまった