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卒園

【異世界のコウノトリ】から授けられた子供たちも随分と成長した。

そしてついに、初めて卒園していく子がいる。

プリンセスの子と、うちの子二人。勇者くんと魔王くん。

合わせて三名がこれから普通の子も通っている小学校へと入学することになっている。


「ぐすっ、ぅええええええん。」


泣きだしてしまったのは、天使ちゃんだった。

お転婆な天使ちゃんが泣くのを見るのは私も初めてのことで、皆が驚いていた。

ただ、こうなる予感はしていた。

プリンセスと天使ちゃんは、なんだかんだで仲良しだったし。

卒園が決まってから、天使ちゃんはずっと不機嫌そうだったから。

その態度が、寂しさの裏返しであることはわかっていた。


「な、なんでお前が泣くんだよぉ…。」

「だって、だって。ずっと一緒だと思ってたのにぃ。」


泣き続ける天使ちゃんを見て、つられて涙目になった悪魔くんが頭をなでてあげていた。


「わたしも、怖いし、寂しいです。」


プリンセスも、涙を必死にこらえて答えた。

この幼稚園とは違って、小学校では一般人ばかりと接することになる。

うちの子は勇者と魔王という関係上、二人一緒にということにされたが、彼女は一人だ。

不安でたまらないだろうに、前世がプリンセスである彼女は頑張ってその場に凛々しく立っていた。

おそらく、うちの子二人も一緒だろう。


「っでも、またいつでも会えますから!会いに来ますから!」

「僕、も。頑張るから。魔王だけど、皆の代表として、先生の生徒として頑張ってみせるから。」

「うん!だから…先生と幼稚園のこと、任せたよ!」


立派に育ったなぁと感動する。

卒園する三人に向かって、全員で盛大な拍手を送った。

私はこれからも幼稚園をやっていく。うちの子とずっと一緒だった日々が終わるのだ。

正直寂しい、けど。

新しい生活へを迎える彼らを、私は黙って見送る。

「頑張れ」とは言おうと思っていたけどやめた。

だって彼らは、自ら「頑張ってくる」と言ったのだから。






さて、それから数日後のこと。

幼稚園に新しい仲間が加わって、また賑やかになった。


「せんせー。武士くんと騎士くんがまたけっとーしてまーす。」

「はいはーい!」


まったくあの二人は何かというと張り合うな、と逃げ笑いしながら向かう。

見てみれば、もう天使ちゃんや執事くんたちに決闘をやめるように注意されていた。

彼らも、卒業していった子たちを見て年上としての役割を重視するようになったのだと思う。

代わりに下の子たちの面倒を見てくれるようになっている。


「ほーら二人とも、仲直りの握手しようか。」

「断る!」

「断る!」


結構似た者同士なのに、どうしたら仲良くなってくれるだろうかと頭をひねる。


「とりあえず、そのオモチャを地面に置こうか。」

「だめー!」

「おなごは手出し無用!」


自分の手にしたオモチャ、もとい武器を奪われまいとして私に振り回してきた。

私にぶつかるのはいいけど、他の子に当たらないか心配して慌てて止めようとした時だった。


「母上に手を出すな。」


ランドセルを身に着けた魔王くんが、騎士くんと武士くんの持っていたものを握っていた。

そのあまりの風格に、二人は慌てて手を離して距離を取る。


「とりあえず、喧嘩両成敗!」


そこですかさず二人の額にデコピンをしたのは、同じくランドセルを背負った勇者くん。

デコピンされた二人は、手加減されていたとは思うが痛そうにしゃがみこんでいる。


「だ、大丈夫?駄目じゃない、いきなりデコピンしたら。」

「だって、そうでもしないと魔王のやつ何したかわかんないよ?」

「え?」

「ほら、母さんも怒るからこの程度で済ませてやろうな。」

「むぅ」


魔王くんはすごく不機嫌そうにしていたが、仕方ないといった風にそっぽを向いた。


「魔王くん!」

「勇者くんまで!」


二人のことを知っていた子たちがざわめいた。

思わぬ再会で素直に喜ぶその子たちに対して、他の新入りの子は動揺していた。


「ゆ、勇者に魔王って。言った?」

「そういえば聞いたことある。勇者と魔王がついてる先生がいるって。」

「まさか、あの伝説の!?」


一体どんな感じにその話を聞かされたんだろう。


「ところで二人とも、学校はどうしたの?」

「魔王のやつが早退したのが悪い。仕方なく追ってきただけだもん。」

「母上に悪いことする奴がいる予感した。」

「母さんを言い訳にしない!さっきまで覗いてただけのくせに。」

「じゃあ二人して覗いてたのね。」

「あ。」

「愚か者。」


やれやれ、とため息をついた。

卒園してからも頑張るといったのはどの口だったか。


「学校にもどーる!」

「はーい!」

「ごめんなさい。」


うちの子たちが私から卒業するのは、当分先のようである。


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