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海辺が夕日で赤く染まる。
それも次第に夜に抱かれていく。
砂浜にぼんやり浮かぶ花火の光。
私とシンは皆から遠く離れた場所で、線香花火に火を灯す。
「私、線香花火のほうが好きだったりするなー…」
「俺も。こんな小さいのに綺麗に光るからな」
遠くからはしゃぎ声が聞こえる。ルームメイトや友人達の声。
「…ねぇ」
「どうした…?」
今を必死に、それでいて謙虚に輝く火花を見つめながら問う。
「聞きたいの…シンの本当の名前…」
「…」
シンの持っていた線香花火がポトリと落ちた。
「俺の名前は…もう置いてきたんだ…ずっと昔に…」
「シン…」
私の線香花火も地面に消えていく。
辺りが薄暗くなり、互いの顔がよく見えない。
「…置いてきちゃダメ…」
「え…」
闇を挟んだ向こうでシンが戸惑う。
「過去がどんなに辛い過去でも…消すことも書き換えることも出来ない…」
シンに手を伸ばす。その手は彼の頬に触れる。
「でもさ…大事な記憶だと思う…必要な記憶だと思う…」
「しかし…」
彼に見えているかはわからないが、私は微笑んで見せる。
「大丈夫、私も一緒に背負って行くから」
「…すまない…ありがとう…」
シンは私の額に自分の額を当てる。
シンの額は少しひんやりしている。
「…蒼空」
「そら…?」
「ああ、俺には不釣り合いな名前だな」
「ううん、そんなことない」
2人の唇が重なる。
そのまましばらく、貪るように唇を重ね続ける。
「…ハルカ…その…」
「うん…いいよ…」
砂浜に身を預け、2人は夕闇に沈んでいった。




