花鶏と
「おー、豪邸ー」
黒の住んでいるシェアハウス、"ホーム"。
今は彼だけが暮らしているらしい。
リアルでちょこちょこ会っている私達。
最近黒の住む場所が私の住む場所と意外に近いことを知り、思い切ってやって来たのである。
私は談話室に案内される。
「こんなとこに一人暮らしとかもったいなさ過ぎ」
「じゃあお前も住む?」
「…え?」
彼の唐突な一言に思考が停止する。
黒と知り合ってはや数年。
私達の関係は実際のところ友達以上になっていた。
「あ、いや…なんでもない…」
自分の言った言葉の意味をそれとなく理解したのか、彼は私を見てそっぽを向く。
どうやら私の顔は赤らんでいたようだ。
「…」
「…」
静かな室内に静かな私達。
こういう無言の時間も少ないわけではないが、如何せん今回は気まずい。
こんな時間は好きではない。
なんとか打破せねばならぬ。
すると黒の端末から着信音。
「…あ…はい、大丈夫です…行きますから」
仕事場からだろう。
「悪いけど、行かなきゃなんねーや」
「ええ、一応私来たばっかりなんですけど」
「仕方ねーだろー、めんどくてもやんなきゃいけねーのー」
黒はいそいそと、いや、だるそうに支度をし始める。
「ちょ、私どうすればいいのかせめて教えてよっ」
「勝手にしとけー。待っといてもいいし飽きたら帰ればいいしー」
お前のほうが勝手だよ!とは言わないでおくとして。
まあ医療系で働いているのだから仕方ないことである。心の奥のほうでは納得してない部分もあるようだが。
そうしているうちに彼は談話室を出て行ってしまった。
独り取り残される私。
「…そうだ。探検しよ」
2階に上がってきた。
廊下に面して並ぶ扉たち。
「けっこー部屋あるなー。まあ黒の部屋以外空き部屋だけど」
そういえば彼の部屋はどこだろう。
私なら…
「私ならここだな」
廊下の1番奥の角部屋。
その扉に手をかけ、思い切り開ける。
「…あ、ハズレ」
クローゼットに何も並べていない本棚、すっきりした机にマットも敷いてないベッド。
ただの空き部屋。
「絶対この部屋がいいのになー」
スノコが剥き出しのベッドに腰掛ける。
すると机に備え付けてあるディスプレイが起動する。まあ少しびっくりしたわけで。
『シノさん、黒さんの部屋へご案内しましょうか?』
机上に浮かぶハウスメイドのAtori。
私は安堵のようなため息をつくと彼女に話しかける。
「うん、ありがとー。でもなんかここ落ち着くんだよね」
『そうでございますか。ここは空き部屋ですのでご自由にどうぞ』
小さなハウスメイドは恭しく会釈する。
「あ、待って待って」
『はい、御用でしょうか?』
無表情に聞き返してくる。
いつ帰ってくるかわからない人間を待つのは退屈なもの。有意義に過ごさねば。
「私とお話しよ?」
『申し訳ございません。私に対話機能はございません』
「いいのいいの。聞いてるフリしててくれればいいから」
『はい、承知いたしました』
Atoriは黙って私を見つめている。
「私、こう見えても絵描きなんだ」
『…』
ハウスメイドは反応せずに、ただ私を見つめている。
彼女なりの聞いているフリなのだろう。
「でね、今描いてるのは、"大地の夢"ってやつなの」
遥か昔から続く、空と大地の恋物語。
私らしくもないような気がするけど、だけどこの絵を完成させることが、私の唯一の生きる意味だったりもする。
「大地は空に憧れていて、空は大地を愛してたんだ」




