3-2
彰は机の前の椅子に座り、紙に似顔絵を描いている。彼の特技は絵を描くことであった。すらすらと鉛筆で顔の輪郭を描いていく。目鼻口を描き、私は彰の絵に感心する。よくここまで上手く描けるものだと。しかしながら私が思っているような顔には似ていない。
「なんか違う」
私が言うと、彰はもう一枚の紙を用意し、もう一度紙に似顔絵を描き始めた。
「刑事じゃないんだからさ。難しいっすよ」
彰が言うと、私は頭を悩ました。私の頭の中に、あの部屋で出会った少女の顔がはっきりと浮かんでいるわけではない。だからこそ、何枚でも描いて似ている顔を探したいのだが、宝探しの地図を作るよりも難しい話だった。
「まず描いてどうするのよ」
「体育館に集まっている生徒に、似顔絵を見せて、知っている子供がいないか探したい」
「それは知ってるけどさ」
彰はそう言って、鉛筆を置いた。
「描いても描いても、晴翔が思っている女の子と違うんじゃ、この方法は無駄なんじゃねえか」
「分からないよ」
「つー疲れる」
彰はそう言って、椅子を引いて机から離れた。そして教室の扉を開ける。私は彼を呼び止めはしなかった。もう一つの机の上にある十数枚の似顔絵の紙を見比べてみた。この中で比較的近いのは、と思って一枚の紙を机の上に置いた。残りを隣の机に丁寧に置く。
その一枚を持って、私は体育館に向かった。体育館の入り口は閉まってはいない。生徒のことを考え、出入口の施錠は止めたのだ。自由に出入りしてもいいが、あまり体育館から離れないように言ってある。それでも、無駄に遠くまで向かう生徒はいなかった。恐怖心のほうが勝るのだろう。
私は扉にセロテープを使って紙を貼り付けた。近くにいた女の子が紙を見上げる。
「上手いです。お兄さんが描いたの?」
「いや、この女の人を知らないかな?」
「知ってる」
「知ってる?」
「あのね」
女の子は「あのね」と繰り返した。
「とても優しい人だったよ」
「優しいんだ」
「うん」
「お友達なの?」
「違う」
「友達じゃないとしたら」
「夢に出てきたの」
夢に出てきたと聞いて、私は白い部屋を思い出した。あそこで出会った少女と、目の前の女の子が言う優しい女の人は同一なのだろうか。
「夢って、最近見た夢?」
「この女の人はね、ヨゲンシャって言われていたよ。別の人はキュウセイシュだってさ。お兄さんは歯医者って言っていたと思う」
「僕も夢に出てきたの?」
「うん」
「そうか」
私は当てが外れたと思った。女の子の名前は、新川花楓と言った。
「花楓ちゃんがまた夢を見たら、お兄さんに教えてよ」
「分かった」
私は花楓と約束をした。教室に戻ると、彰が机の前に座り、絵を描いていた。
「そこに三枚ある」
机を指した。似顔絵を見比べるが、少女に似ているのはなかった。
「どこに行っていたんだ」
彰が言うと、私は素直に体育館の入り口に紙を貼ってきたと伝えた。
「見つかるんか」
「新川花楓という女の子が見たって」
「誰か知らないけど、大収穫じゃねえか」
「夢の中らしい」
「あらま」
「俺のことも夢に出てきたようだった」
「いつ夢を見たのか、言っていたか?」
彰は鋭い意見を述べた。たしかに、出会って間もないのに、俺のことを夢に見るだろうか。つい先ほど寝て、たまたま夢に出てきたのだろうか。その夢も、寝ている間に見る夢を指しているのかでさえ不明だった。
「もっと聞いてくる」
「頑張れよ。刑事さん」
彰はそう言って、手を挙げた。




