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第10話 事故物件に棲まう霊

 車のキーを回すと、ブォン……とエンジンが止まり、静かさが響き渡った。


「さぁ、ここから歩こうか」

「……はい!」


 ドアをバタンッと閉める。外はひんやりとした冷気に満ちていた。


 私とヒロは今、事故物件へ向かっている。小物入れの持ち主が孤独死したのは、美しい住宅街に佇むアパート内だった。


「そういえば……意外と近かったですね?」

「うむ、予想的中だ」

「え?」

「まぁまぁ、まずは視てみようじゃないか」


 ヒロの意味深な言い方が気になる。これから行く現場には何が待っているのだろう?


 ネットの事故物件動画にはヤラセが多かった。でも時々、本当に危ない霊が潜んでいるケースもあって……。あの活動者たちみたいに取り憑かれるのではないか、ちょっと怖くなる。私にはヒロがついているから大丈夫……だよね?


「ん? あれじゃないか?」

「あ……間違い無いと思います!」


 スマホの地図アプリは正確に目的地を示している。建物の前に辿り着き、安心してナビをオフにしようとした時……。


 ──()()()()()()()()()()()()()()()した。


「いやぁっ!!」


 私は驚いてスマホを放り投げてしまった。落下の衝撃で液晶画面にパックリとヒビが入る。


「おいおい、そのスマホ新機種だろう? 勿体無いじゃないかぁ」


 ヒロは相変わらず呑気な口調で、地面のスマホを拾い上げる。


「ああ、これ最初見ると驚くよねぇ。すまんすまん、磁場が歪んでいるようだ」

「磁場って……なに……?」

「強い磁力が流れている場所のこと。コンパスや電子機器が狂いやすいんだ」

「霊が何かしているの……?」


 私の不安そうな様子を見たヒロは、爽やかな笑顔を浮かべて空気を和らげる。


「逆だよ。磁力は思念に影響を与えやすくてね、霊が引き寄せられてしまう」

「……磁力が心霊スポットを作っているの?」

「そういうこと!」


 ヒロが手渡したスマホを、私は恐る恐る受け取った。画面の方位は回りっぱなしだ。


「ただ、ここはちょっと深刻だね」


 彼は事故物件であるアパートの一室を、目を細めて眺める。まるで何かに気づいたように。


 私は骨董品こっとうひん店の店主に聞いた情報を読み上げた。


「建物一階の奥の部屋……窓越しに座り外を眺めるのが日課で、闘病生活の末に病死。発見当時はいつもの場所に座ったまま、体が腐敗しきっていた……」


 心臓がバクバクするのを感じながらスマホを構える。少しずつ、部屋の方角へカメラを向けると……。


 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 長い髪は膿にまみれてギトギトしており、何か小さなものがしきりに這うのが分かる。


「うっ……」


 これ以上直視できなくて、私はスマホを下ろした。


「それが通常の反応だよ」

「……すみません、私」

「無理に視なくていい。彼女も本望では無いだろうから」

「どういうこと?」

「これは推測に過ぎないが……孤独死した女性は、磁場の影響でここに取り残されているのかもしれない」


 見た目の怖さに驚いてしまったけれど、確かに今まで見た悪霊に比べて、剥き出しの敵意は感じない気がする。でも……。


「悪霊化したってことは、ただ取り残されただけではなさそう……ですけど」

「よく気づいたね!」


 ヒロはパチンッと指を鳴らして語り始める。


「彼女は病と闘いながらも、外の世界への憧れを抱き続けた……。毎日窓際に座り、道行く人を眺めていたらしい」

「心が痛む話ですね……」

「では、事故現場の向かい側の建物を見てみよう!」


 彼に促されて、初めて視野が狭まっていたことに気づく。向かいの建物も似たような鉄骨のアパート……ではあるが、一つだけ違う点があった。


「ヨガ教室が入ってる……?」


 三島みしまさんの行動を聴取した時、ヨガ教室の話題が出たのを思い出した。骨董品の話題に夢中になって、他のことはすっかり無関係と決めつけていたけど……。


「そう、事故現場からはヨガ教室の中の様子がよーく見えるんだ」

「本当ですね……!」

三島みしまさんの自宅からの距離からして、ここは十分に生活圏内と思われる。もしここに通っていたとすると……」


 ヒロは焦らすかのように一呼吸置き、結論を話し始めた。


「霊の『外で自由に活動したい』という願望と、遺物を持った三島みしまさんが出会い、悪霊として取り憑いてしまう……。なんて筋書きも不自然では無いかな」

「そんなことが……」

「強い負の思念が、悪霊化のきっかけになるんだ。嫉妬・怒り・悲しみ・苦しみ・孤独とかね」


 窓際に座る彼女の気持ちを想像すると、なにもできない自分がもどかしくなる。ただただ悲しい話だ。


「勘違いしちゃいけないのが……どれだけ素敵な人間でも、悪霊になってしまう可能性がある。善悪じゃ無いんだ」

「小物入れの持ち主も……?」

「前向きに闘病生活を送っていたらしいが、磁力にあてられて、マイナスな思念だけが増幅したのかもしれない」

「それは……辛いですね……」


 切ない気持ちに浸っていると、ヒロが顎に手を置いて考え始めた。きっと彼は次に何をするべきか、思考を巡らせている。


「さぁ、悲しみの連鎖を止めるために、除霊を始めようか」

「は……はい!」


 ついに本格的に除霊を行う……! 動画サイトなどで少し知識は入れたつもりだ。あれをヒロと私でやるの?


「恐らくだが……悪霊の本体は事故物件にいる彼女か、三島みしまさんに取り憑いている彼女、そのどちらかだ」

「なるほど?」

「まずは目の前の()()()()()()()()()()()()

「え?」


 嘘でしょ……あの腐敗した霊がいる部屋に入るの? どうして毎回、怖い場所に突入しなきゃいけないの?

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