053.運の尽き……?
「うわあああああーーーああああっっと」
「なっ……鎖を風で回転させて毒液を包み込むように受け止めやがった……!」
タンクトップ男……今は上半身裸男だが、右腕から放った毒液がオレに届くどころか空気中に撒き散らされなかったことに戸惑ってる。
この鎖は奴らがオレたちを倉庫に閉じ込めるのに扉のカギ代わりに取っ手にグルグル巻きにして使ってたやつ。
オレの近くに落ちてたんで、奴らと言い合っている間にさり気なく近づいて足で手元まで引き寄せておいたのだ。
「へへっ。武器になるものをオレの近くに放置したのが運の尽きだったなあ!」
「舐めんな! 一発だけしか撃てねえとでも?」
「だがその様子じゃあすぐには連発できねえよなぁ〜!?」
「くっ……」
初めて歪んだ表情を見せた上半身裸男……間髪入れずに反撃に転じる!
「おらああっ! 喰らえ、鎖竜巻!」
オレが右手を前に突き出すと同時に鎖は高速回転しながらヤツに接近して。
バシバシッ! と鞭を身体に叩きつけるように連続攻撃を仕掛けていく。
「ぐああああっ! こんなふざけた技でやられるかよ! く、鎖を溶かしてやらあ……!」
回転して間断なく叩きつける鎖を?
確かにヤツが身体から分泌する酸の毒ならできるかもだが……。
「その前に決着つけてやるよ! 更に高速回転、うらあああっ!」
「う、うぐおおああああっ!」
オレの魔力が尽きて鎖が溶けるのが早いか、それとも。
「ううっ……!」
「フッ。お前はよく耐えた……だが勝ったのはオレだ!」
ドーン! と先にうつ伏せに倒れたのは、もちろん上半身裸男……風を纏ってる鎖をすぐに溶かしきるのはさすがに無理だったね。
まあ、カッコつけてるオレも実はギリギリだったのだが。まだ残ってるやつがいるから、強がりでも余裕を見せなきゃならんのだよ。
「このタコが! あっさりやられやがって……」
「さあ、あとはお前だけだぜ〜!?」
「……ここは戦略的撤退! 命拾いしたなぁ、タツロウ!」
「待てやコラァ!」
「ああ、言っとくけど商館長は商館の中にいるからよぉ。こうなった以上は……すぐ助けに来ねえと、どうなっても知らねえぜ?」
タコ野郎が捨て台詞を吐いて逃げ出そうと……逃すかよ!
「タ、タツロウ〜! は、早く降ろしてえ〜!」
「さすがにもう限界だあー!」
おっと、忘れるところだった。高い天井から突き出している棒にしがみついているアルヌルフとロベルトが顔を真っ赤にして今にも落ちそうになってる。
「悪い、ちょっと待ってろ! 『つむじ風』!」
今度こそなけなしの魔力を使い果たして2人を風に乗せて優しく降ろしてやった。
「どこが優しくだ! 腰を打ったぞ、イテテ!」
「おまけに目が回って、ちょっと立てねえよ!」
うるさい奴らだなあ。でも今さら焦っても仕方がない。行き先はわかってる。
逃げた方向と捨て台詞からすると商館に逃げ込んだはず。
2人が動けるようになったら突入するか……あまりのんびりしてると商館長が本当にヤバいかもしれん。
「タツロウ……お前、危険なこと考えてるんじゃないだろうな?」
「……やるしかないだろロベルト。タコ野郎の目は結構本気だったぜ」
「だけど、どう考えてもあっちの方がもっと強い連中が待ち構えてる。俺たちだけじゃ」
「どっちにしても応援がここまで来れるかどうか。ザクツブルクの城門で止められるに決まってる」
「だけどさあ」
「いつも言ってるけど、お前らが無理ならオレ1人で行くから。お前らは落ち着いたら安全な場所まで避難しろ」
「……わかったよ。もうここまできたら覚悟決めないとな。俺も一緒に乗り込む」
「無理すんなって」
「無理をするつもりはない。が、お前の背後を守るくらいならいけると思う」
「……まあそれなら。アルヌルフさんはどうするよ?」
「お、おれは……おれも行くよ、ここから1人でウロウロ歩き回る方が危ない気がする」
「じゃあ決まりだな。とにかく武器になりそうなものを探そうぜ。鎖は毒液と酸にまみれてるから、もう使えねーな」
◇
とりあえず周囲で見つけた棒切れをオレが、鉄パイプをアルヌルフ、バールをロベルトがそれぞれ手に持って商館の門の前に立つ。
塀の上だけでなく向こう側にも気配は感じない……しかし念のため、鍵がかけられていない扉を開けると同時に戦闘態勢をとる。
「誰もいないな」
「油断はするな。まずはオレが入るから、周囲の警戒よろしくな」
オレは覚悟を決めてバッと中に入る……誰もいない。
門から建物までちょっとした庭園があって、そこは地面に芝生が綺麗に……いや、所々剥げたり萎びて変色したりと手入れが行き届いていない。
まあ乗っ取られてるわけだから当然か。木や茂みも一定間隔で植えられているが、短く切りそろえられて侵入者が隠れようにもすぐ見えてしまう。
逆に待ち構える方も身を隠せないけど……となれば、建物の陰に隠れているのが自然か。
「行くぞお前ら、入ってこい」
「それじゃ俺はタツロウの右側を。アルヌルフさんは左側を気をつけて」
「お、おう……誰も出てきませんように」
ここに現れなくても、建物の中で待ち構えているから、それはそれで厄介なんだけど。こっちは中の構造が分からないから相手の方が圧倒的に地の利がある。
ドアまで恐る恐る近づいて、建物の左右の陰から誰も出てこないのを確認してからドアノブに手をかける。
またまた誘い込むように鍵がかかってない……ロベルトたちと目で合図をしてからサッと開けると。
「でやああっ!」
「ちええーい!」
「いきなりか! おらああっ!」
バキッ! と襲いかかってきた2人を棒切れで払い除けたが……その背後に多数の人影が。
そうだ、ここは引き下がるフリをして外に誘い出そう。ドアから出てくるところを1人ずつ叩きのめしてやる……古いアクションゲームの如く。
「お前らちょっと下がれ!」
「……悪いけど無理」
「ああ〜、もうおしまいだ〜!」
コイツら何を言って……。
「タコ助が! まんまと罠にはまりやがって。タツロウ、お前の方こそ運の尽きだったな〜?」
しまった……最初からオレたちを玄関まで誘い込んで、その後に隠れていた連中が背後から囲む策だったってわけだ。
前からは警棒みたいな武器を持ったスーツ姿の連中が近づき、そして背後はタコ野郎とその配下のチンピラたちが逃げ道を塞ぐ。
絶体絶命のピンチ……こうなったら破れかぶれで突っ込んでロベルトたちだけでも……!
ピシャーーン!!
「ぎゃああああああっ!!」
「うわあっ! いきなり稲光みたいなのが落ちてきたぁ!!」
背後の連中が立っている場所が一瞬激しく光ったと思ったら、まさに落雷のような轟音が遅れて耳に響く。
空は雲はあっても晴れてるのに……いや、その正体はすぐに分かった。
風と火の2属性持ちで魔力の覚醒者……『雷』の魔力を持つ男がそこに降り立ったのが見えた。
「やれやれ、お前たち……無理をせず待っていろと言ったはずだが?」
「コンラートさん!」
「こ、これで助かった〜!」
少しずれた眼鏡をクイッと指先で上げながらオレたちを叱咤するという登場で、ヴィルヘルムの側近にしてオレたち家臣団の団長、コンラートさんが駆けつけてくれたのだ。
<あとがき>
いつも読んでいただいてありがとうございます
次回更新は4月12日(日)の予定です
よろしくお願いします




