マンイーター
マンイーターはそれほど強い魔物ではない。
蔓が巻き付くと厄介だし、毒液を撒くから農作物に害があるとして嫌われているが、それだけだ。
つまり、腕試しには丁度良い。
マンイーターに剣を振りかざしたレインハルトを、ノエルは止めた。
「まあ、待て。こいつはそこまで強くなさそうだからさ、試させてくれよ。攻撃魔法」
レインハルトはじろっとノエルを見たが、軽く頷いて前衛を代わってくれた。
「よし、見てろよ〜……」
ノエルは胸の真ん中に力を込めた。
みぞおちの間に熱が集まる。
ここまではいつも通りだ。
手の先から魔力のこもった衝撃波が出るイメージで、詠唱すると攻撃魔法が発動する。
授業でも何度かやったし、そこそこ成績もよかった。
だが、悔しかったことには、魔力も人体の体積に比例するようで、素養のある男にはどうしたって威力は敵わなかった。
ノエルの最大は小さな焚き火くらいの炎が限界だった。
すごいやつは、小さな物置ほどはある火の球を出現させていた。
派手で威力のある技を、連続で繰り出すことのできる恵まれた体格と才能のある男子生徒たちをノエルは羨望の眼差しで見ていた。
走り込みをしても筋トレをしても、それほど大きな変化はなかった。
これ以上、筋力も背丈も変わらないと悟ったノエルは、この女の身での限界を知った。
仕方ないので、小手先のテクニックをちまちまと磨かざるをえない数年間だった。
焚き火も背後からぶつけることができればダメージを与えられる。
マンイーターに相対したノエルは、これが初めての実戦にもかかわらず、わくわくしていた。
「なんかしらんが封印が解けた今、攻撃魔法の威力もあがっているはず! キャンプファイヤーみたいな炎を何発もぶっ放してた男どもほどではなくとも、手持ち花火が打ち上げ花火くらいにはなっているはずッ! よし、これを敵に背後からぶつける!」
胸がどくりと脈打つ。
エネルギーの塊が掌に集まる。
ビリビリと痺れるほどの感触。
「手応えが、キモチイイ〜!」
これは期待できる。
ノエルはうきうきしながら、敵の後ろ側へと熱の塊を打ち上げる。
直撃は狙わない。防御されたらノーダメージになる。背後を狙うのだ。
バレーボールのサーブのように、上を見る。
「角度、よしっ!」
よく狙って、相手の隙を観察して玉を打ち落とす。
(そこだ! おし、いでよッ、俺の)
「ファイアー!」
ノエルが詠唱したその瞬間、
「ギ……」
蔓をうねらせて威嚇していたマンイーターが、動きを止めた。
ボッ!!
オレンジ色の光が凄まじい勢いで移動し、風を起こした。
あっというまに、魔物が炎に包まれる。
まるで空気全体が爆発したかのような、熱。
「え、熱?」
ノエルが違和感を覚えたと同時、メラメラとチリチリと、ボウッという音が聞こえてきた。
マンイーターはただの炎となり、消し炭となっている。
ノエルは集中すると周りが見えなくなる性質だった。
だから、すぐには気付かなかったのだ。
マンイーターの背後の、木々も、花も、切り株も。
山の半面、一帯が燃え始めていることに。
それは巨大なキャンプファイヤーどころか、あたかも山一つ分を使った、天に捧げるかがり火のようだった。
「え……」
ノエルは呆然と、己がしでかしてしまった山火事を見た。
ごうごう、と炎が燃え盛る。
(ファイア、って、火の球が出る魔法、だよな…? ボールが……あれ? なんか)
思っていたのと違う。
オリテに来て5分もしていないのに、こんな山火事の犯人になるなんて、ありだろうか。
(国外追放されて、早速犯罪者ッ!?)
血の気がひくとはこういうことだろう。
我にかえったノエルは、泣きそうになって振り返った。
レインハルトは剣を取り落として、立ちすくんでいる。
「レイン!」
と呼びかけると、はっとしたようにレインハルトはノエルを見た。
それは兄を見る妹、もしくは弟、そのものだったかもしれない。あるいは、有能な部下の意見をきく上司の姿だったかもしれない。
とにかくノエルは全力で背後を頼った。
「どうしよう!?」




