オリテ領
ひたすら山道を歩いて、関所につく頃には夕方になっていた。
「前へどうぞ」
「はい」
ノエルは返事をして前へ進み出る。
王城から送られてきた『国外追放書』と一緒に、父親のコランドの『爵位証明書』、身分を表す伯爵家の家紋の入ったブレスレットを番人へ渡す。
「ほう……伯爵家の御子息ですね。失礼いたします。そちらのお連れの方は……」
兄、と言いかけて、ノエルは口をつぐんだ。
書類では証明できない。
変に言い訳をすれば怪しまれる。
どうすれば不自然じゃないか……国外追放になった伯爵令息についてきた若い男……。
「護衛のレインハルトです」
門番はじろっとレインハルトを見た。
フードを目深にかぶった若い男は、姿勢もよく礼儀正しく目礼する。
そのあたりのゴロツキとは違った気品があり、伯爵家の護衛というのも頷けるーー。
「ふむ、良いでしょう。下まで降りればすぐにオリテの領地です。宿屋がありますが、悪どい商売をしている輩もいるようですから、お気を付け下さい」
ノエルはほっと息をついた。
武器を持った門番たちは物々しい。
ここは中立地なので、ゼガルド側、オリテ側ということはないが、なんとなく背筋を伸ばさなければいけないような気持ちになる。
「新たな場所での幸運を」
「ありがとう」
木の簡素な門をくぐり、ノエルはレインハルトとオリテ領に入った。
返してもらった書類とブレスレットを鞄の奥にしまう。ここからは、ただの平民の兄弟だ。
「ついに、国外追放だな」
「……ええ」
レインハルトは山を下りながら、浮かない顔をしていた。
ノエルはその背中を、バンッと叩く。
「うわっ! 何なんですか」
「おい。忘れてんじゃねぇぞ。お前は俺の?」
「……兄、です」
「うし。お綺麗な言葉も品の良さも、身分を偽るのには邪魔になるんだからな。平民らしくしろよ」
「あなたは、生まれてからずっと貴族として暮らしてきたはずなのに、どうしてか時々ひどく平民らしいときがありますね」
「えっ? いや? 全然?」
「目が泳いでますよ」
レインハルトは涼しい顔で言ってのける。
「そういうお前だって、何か隠してるよな」
ノエルは坂を下りながら、レインハルトに話しかけた。
「お前は他のやつと違う。貴族の学院でいろんなやつを見たけど、お前の所作はそいつらと比べても遜色無い」
「またまた、かいかぶりすぎですよ。ほら、宿屋が見えてきた。ここからはオリテ領です。僻地とはいえ、村人はいますから気を付けて……もうすぐ着きます……じゃなかった。着くよ、ノエル」
「ああ」
ノエルは眼下に広がる、寂れた田舎町を眺めた。
ここが、新しい生活の拠点になるのだ。
頼れる者は己と、この涼しい顔をした謎の多い『兄』だけだ。
とりあえず今日は宿屋に泊まって、旅の疲れを癒やそう。
その時、何かが山道の木陰から飛び出してきた。
「ギイィィィッ!」
それは2対の大きな植物だった。
壺のような形で、黄色と紫と緑が入り交じったような気色の悪い色をしている。
「マンイーターだ!」
レインハルトが叫んだ。




