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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(2)ノエル15歳 婚約破棄と国外追放

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卵酒



へっくしん。


愛らしいくしゃみの音がした。




ブリザーグ家、伯爵令嬢ノエルは、スンッと可愛らしくはなをすする。

ちょっと風邪をひいてしまっただけなのだ。

過保護にも、もう熱もないのにベッドに寝かされてしまった。美しい薔薇の柄のネグリジェは、ノエルによく似合っている。



(アレだ。足りないんだ)



ノエルは悟った。


自分の体が――

アレを欲している。







「……レイン」

「はい、ノエル様。ここにおります」


婚約破棄の翌日は大波乱だった。

伯爵夫妻は王宮へ行き、しばらく帰ってこなかったと思えば、ドタバタと帰宅してまたすぐに出て行った。


その間、気持ちの疲れもあったのか、はたまた風呂上がりに下着でうろついていたのか悪かったのか、ノエルは熱を出して倒れてしまった。その間の世話はメイドとレインハルトがしてくれている。


特にレインハルトは風呂とトイレ以外はかいがいしくノエルの看病をして、側を離れなかった。

まるで飼い主を心配する犬のようだ。



「もっとこっちに来て、レイン」


レインハルトの瞳をノエルは真っ直ぐに見つめた。

美少女と美青年の視線が交錯する。

レインは、色素の薄い美しい瞳を揺らめかせた。

銀を帯びた視線が心配そうにこちらを見ている。


今がチャンスだ。

ノエルは薔薇色の可憐な唇を開く。


「私は神の声を聞いたわ」

「なんということでしょう」

「それによると」



ノエルは厳かに言った。



「卵を用意しなさい、と」

「卵、でございますか?」


レインハルトは端正な顔を歪め、変な顔をした。

あまりに意外だったのだろう。

でも、大切なのはここからだ。

ノエルは淡々と、大まじめな顔で言う。


「なるべく新鮮な卵。朝に採れたばかりのものがいいわ。そしてそれを」

「それを?」

「それを……黄身だけにして」


「卵の黄色い部分ですね。それをどういたしましょう? ポーチドエッグにしましょうか」

「クリスタル・エーテルに混ぜて頂戴」


と、ノエルが言うと、レインは目を見開いた。


「エッ……エーテルにですか!? ですが、それは……」


レインが言うのも無理はない。

クリスタル・エーテルは、特殊な飲み物だ。


大陸にしか生息しない不思議で希少な野菜から作られる飲料物だ。

実の形はジャガイモに近いが、夜になると光り輝く。これを昼間に掘り出し、特殊な濾過装置にかけておく。


ノエルはこれを図鑑で見たり、『お父様』であるコランドが飲んでいる姿を見ていた。

貴重なものなのも理解している。


しかし、彼女の中には今や本能的な衝動がこみ上げていた。

すなわち――。


(卵酒ッ! 卵酒が飲みたいッ!)


クリスタル・エーテルは光を蓄える特性があり、飲むときにはグラスが幻想的な光に包まれるのだった。

その不可思議な性質から、儀式や特別な式典で飲まれることが多い。もちろん値段は平民には手が出ない。桁違いである。


だが、ノエルはその精製方法からこれがウォッカや焼酎に近い何物かであることを見抜いていた。



(あーっ! 焼酎が無いなんてありかよ。米はともかく、芋も麦も無いってのは辛い! ストレスは水溶性じゃねえ、油と酒に溶けるんだ。黒糖もいいが無いもんは仕方ねぇな。ウォッカに近いもんっとなると、おそらくエーテルだ。あれっきゃない。たのむぞレイン!)



「しかし、お嬢様。あれは式典などで大人が飲むものですが……」

「でっ、でも、私は神の声を聞いたの……そうすれば私の病は癒えると」

「し、しかし、エーテルは貴重かつ、子どもが飲むような物では……」

「あっ! ああっ! 苦しい! 頭が割れるようだわ! いいえ、このままではきっと真っ二つに割れてしまうわ! 電チューのようにッ」

「でんちゅ!? ああっ、お待ちくださいお嬢様! 今、旦那様に交渉して参ります」




(つい口走ってしまった……)



電チューというのはパチンコで左右に開く電動のチューリップ型をした部分のことである。

異世界でも現世でも、知らなくても全く良い、いや、知らない方が良い大人の用語だ。




「おまたせいたしました」




レインが持ってきたグラスを、わくわくとノエルはのぞきこんだ。


「これって……」

「こどもエーテルです」



イケメン何割まし、という良い顔で微笑まれて、ノエルは押し黙った。


どう見ても牛乳だ。


結局、レインが持ってきたのはミルクセーキのような代物だった。



頭が割れてしまうと駄々をこねた結果、エーテルの匂いを嗅ぐだけならばいいという生殺しをされ、ノエルは己の体が子どもであることを、いやがおうにも実感したのであった。



そのミルクセーキもどきをちょうどノエルが飲み終わった頃、ブリザーグ伯爵夫妻とエリーが部屋に入ってきた。



「ノエル。悪い報せだ」

と、伯爵が言った。

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