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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(1)姫薔薇の妖精ノエル・ブリザーグ5歳 レインハルトとの邂逅

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白銀の少年

(このままだとまずい。何か、何かないか)



周りを見渡せど、何も武器になるようなものはない。

あったとしても、幼いノエルに使いこなせるはずもない。



(――魔法)



念じる。

目の前の女性ひとを助ける力。

信じる。

きっと何か、ここが魔法のある世界だというのなら、自分にも何か。


(何も起きない)



腹の中が熱くなるような感覚がするが、それだけだ。

どう使いこなせばいいかも分からないエネルギーが体に充満する。

余りにも無力で小さな自分の情けなさにノエルは腹が立った。



「お嬢様、お逃げ下さいッ……お父様たちの所へ!」


痛みと恐怖に眉をしかめながら、自分を逃がそうとする大人シーラ




(情けねぇ)




5歳のノエルはキッと顔をあげた。

魔法は使えないが、このまま離れてしまえば、女性を見つけたオークは獲物を巣に連れ帰るだろう。

身の保証は何もない。


ノエルは握り拳を作って、オークに突進していった。




「おぉぉぉぉぉっ!」




獲物の腕をつかんでいたオークの手の甲に、思い切り噛みつく。



「グア!?」


オークが怯んで、本能的に突然の痛みに手を離した。振り払われて、ノエルは地面に転ぶ。

その拍子に、シーラもドサッと倒れ込む。


何が起こったか理解したオークの赤い充血した目がギラリとこちらを向いた。

首の入れ墨がオークの体液にじんめりと濡れ光っている。

オークは鼻から血を出し、怒りに満ちている。もう正気を失っているのか、それともこれがオークの本来の姿なのか。



ノエルは豚をにらみ返して不敵に笑った。


もう絶体絶命だ。

だけど、泣いたってどうにもならないなら、ハッタリで取り繕って戦ったほうが100倍良い。


オークのぶよぶよとした大きな手が、ノエルの首を狙ってにゅっと伸びてきた。

自分が息絶えるまで、噛みちぎってやる。

ノエルはシーラの悲鳴を聞きながら、涎を垂らす豚を睨みつけた。







その時、一迅の風が吹いた。

砂煙にノエルが目を瞑ったその一瞬。


バサッ!


と風の音がした。オークの体が揺らいだ。



ドォンッ!!


巨体が真横に倒れて地面に沈む。

地面に血溜まりができて、赤い水たまりのようだ。

ゆっくりと倒れたオークの体は、首を境にして二つに分かれていた。


血溜まりの後ろに、白銀の髪をした人が佇んでいた。

長めの前髪が、残像のように風になびいて揺れる。

鋭い目は凍てつく氷のようだった。

身長はそれほど高くないので女性かもしれない。


「……怪我はないですか」


声変わりをしてすぐの、高くもないが少しばかり不安定な音だった。


(若い男だ)


ノエルは目の前に現れた少年をじっと見た。


まだ幼さは残るものの、ものすごく整った顔をしている。猛禽類のような鋭さのある顔貌だ。成長途上らしく首や手足が長い。

オークの返り血を浴びた肩はべったりと濡れていたが、気にした様子はない。

頬に飛び散った血をぞんざいに指の背で拭いている。



(こいつ、血に慣れてやがる)


ノエルは感心した。

まだ10代の半ばほどだろうか。

この年齢で、これほどの剣裁きとは恐れ入った。

何よりも身のこなしが速い。


シーラはハッと我に返った。

「大丈夫です! 問題ありません。ありがとうございます」

シーラは腕をさすりながら言った。


「そう。よかった」

少年は微笑んだ。

シーラが赤面する。

ついでにノエルも見惚れてしまった。


(うっわ……)


少年の凍てついていた瞳が溶ける瞬間、ぶわっとその辺りの空気に花が咲く。

分かってやっているのかは定かでは無いが、この美貌に気が付かないでいることは誰にもできないだろう。


少年だけが、美貌そんなことを気にかけずに淡々としていた。


「まだ豚はたくさん居る。広場の方へ逃げましょう」




銀髪の少年は先陣を切って早足で歩いた。

ノエルはシーラに抱っこされながら、その後ろを着いていく。

何度もオークが出てきたが、少年はその度、ノエルたちを下がらせて剣を振るった。

豪快な剣さばきによって、オークたちは次々と倒れていく。

ノエルはその光景に圧倒されながらも、彼の勇敢さと強さに感銘を受けた。



(すげぇ、無駄のない動き)


光る刃が、そのまま人になったかのようだった。


そして、広場に着き安全を確保したころ。


「お怪我、ありませんでしたか」

と、シーラとノエルに話しかけた少年の、案外に穏やかな笑みに、ノエルの心の中には、特別な感情が芽生えていた。



(似てる)



「本当に助かりました。あの、お名前は」

「名乗るほどのことはしていません」

「いいえ! このままでは私が、帰ってからご主人様や奥様に叱られてしまいます」


シーラがくいさがる。

銀髪の少年は、困ったように笑って言った。



「レインハルトです」



(ハルさんだ)

と、ノエルが思うほどには、その少年には年齢を思わせない落ち着きがあった。

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