新 傷ついた男 5
「………。」
彼は、崩れ落ちる男からほとばしる鮮血をすべて無言で受けている。
この前、彼はオークを狩ったとき血まみれだった、あのときの彼もこうやって仮面をつけていたような表情で、血を浴びるままに任せていたのだろうか?
彼は、私の方を振り返る、その目にあるのは、虚空、ひたすらに虚空、空虚。
「あっ………。」
親友が、突然得体のしれないものになった感覚だった、私は一歩後ずさり、その瞬間、コーイチの顔に表情が戻る。
「………あ………サン、ティシナ?」
「コーイチ………?」
私は、その瞬間彼との間の大切な何かが崩れ落ちたのを感じた、私は彼に近付こうと一歩歩み寄る。
「こないでくれっ!!」
コーイチは狂乱して、柄にもなく泣きながら私から逃げる。
「待って!!」
「………。」
私は、コーイチの家の前に立っていて、だけど最後の一歩を踏み出すか迷っていた。
私は………私はどうすればいいの?こんなことになってしまったいま、コーイチになんて言えばいいの?
「………あ………。」
家の扉が空き、コーイチが疲れ切った表情で手招きする。
「………相変わらずお茶、美味しいね、私あれからずっと頑張ってるけど、これだけは勝てないわ………。」
それは、ずっと無言の空間だったこの家の中で、やっと絞り出された会話だった。
「………………サンティシナ………知ってるんだろ、何があったか、カーラスとあった。」
「………。」
「………クラーストキアのあれは、地獄だった、戦っていたときじゃない、すべてが終わったあとのクラーストキア、それが、目に焼き付いて離れない、それに………俺を助けるために、ある冒険者が犠牲になってかばってくれた、夜な夜な、その日のことを思い出す、その冒険者の顔を、俺は忘れられない………………。」
ここは、クラーストキアの一角にある、廃墟同然の屋敷、ここがかつて、いや今もある女の研究所であることを誰も知らない。
「………ふわぁぁぁぁ、まったく、まさかこの歳になって若者の介護をするとは思わなかったわ、昨日もこの前も大変じゃ、まったく、こういうときこそ男手がいるというのにリューゼもあのギセルとかいうのもどこいったのか、カーラスとかいうのもあの女についていってしまったし………。」
明らかな年寄り口調、まるで自分がおばあさんであるかのようないいぶり、だが実際にはその姿はまるで逆、とんでもなく若い銀髪の女だった。
「あ〜あ、やじゃやじゃ、あれからろくなものくってないし、まぁ私そんなものなくても生きていけるけど、なんだがこの体になってから、そういう人間味のある行動がいかに素晴らしいことか理解できるように………。」
何十年も一人で研究してきただけはあり、もはや独り言が独り言に聞こえない。
「………知らない天井だ。」
「………!!!馬鹿っ、心臓に悪いではないか、私はてっきり、昔の同僚が呪い殺しにばけてでたのかと………!!」
「………。」
「………悲惨ですね。」
俺は目覚めた世界でそう言った。
クラーストキアの再建はあらかた終わっていた、だが、歩く人達の顔には深い苦労の色が見て取れる。
「………これは。」
「慰霊碑じゃ、ここが、あの化物が立っていた場所じゃ、やつの場所はわからん、あの大混乱でだれも詳細を見ておらぬ、迷宮に戻っていったのか、それとも………。」
この世界に解き放たれ、どこかで息を潜めているのか。
「…………!!!」
俺は、それに触れた瞬間、あの人の顔がフラッシュバックする、あまりにもドラマ的で都合が良すぎるように思うが。
「………。」
この慰霊碑の、慰霊、その中には、きっとあの人も入っているのだろう。




