大軍の襲来
馬鹿な話だが、どこでまちあわせするのか俺はまるで聞いていなかった。
「まさか適当なこと言われてはぐらかされたとかか………?」
そう思ったが、なんとギセルは壁から穴が空いたと思うとヌッと出てきたのだ。
「おっ、おひさ〜。」
「昨日あったばかりでしょ………。」
そこで、後ろでスラニスさんがいることに気づき、振り向くとなぜか顔面が青い。
「………壁の修理代………。」
そういって倒れてしまった。
「「ちょっ!?」」
そんなハプニングはさておいて、その穴を通るときったない汚部屋にでる。
ゴミに埋まりかけたなか椅子を引っ張り出してギセルはいう。
「魔力はなぁ、大気に溶け込んでいるのを呼吸するとき吸い込んでいるんだ、だから、深呼吸すればするほど魔力が体を流れる量は多くなる、最もせいぜい2倍くらいだが、ただ座禅を組むよりは遥かにましだ。」
やってみろ、そう言われたのでとりあえず深呼吸してみる。
「先生!何も感じません!!」
「そりゃそうだ、うちのガリ勉共が落とされてんだ、お前みたいなペーペーがすぐにできてたまるかよ。」
とにかく、ギセルの指導のもと、その日はずっとそうして魔力操作の練習をした。
「なるほど、そんなたくさんのゴブリンが………巣は見ませんでしたか?」
「巣?」
俺は昨日のことを受付嬢に報告していた。
「ええ、大抵は洞窟とかですが、テントなどをはってる事あります、言うまでもなくゴブリンの住処のことです。」
「………いや、そんなものは無かったなぁ…。」
そう言うと受付嬢の顔は更に険しくなる。
「これは、あくまで仮の話ですが、このような事は前にも一度、別の地域でも確認されているのです。」
「どういう事ですか?」
「ゴブリンは、巣に大半の仲間が待機し、少支隊を派遣するのです、全部が全部狩りをするのではなく、だから普通は巣でもないのに百体クラスのゴブリンが確認される事はまずありません………しかし、極度に肥大化した巣なら………。」
「ちょっと、恐ろしいこと言わないでください、それって数万匹クラスでいるってことでしょ、もはや災害じゃないですか。」
「最早、ではなく災害です、その場合騎士団の派遣等をする必要があります、冒険者ギルドの手に追える範囲ではありませんから、最早戦いは一国との戦争のようになるでしょうね………。」
無論、仮定の範囲は出ませんが………、ここで受付嬢は一旦間をおいて、こういう。
「とはいえ、ここまでイレギュラーが重なると、調査隊の派遣は確実なものとなるでしょうね、おそらく、3日後には緊急依頼として出るのではないでしょうか………。」
その夜の事だった。
最初それに気づいたのは門番だった。
「全く、こんな夜遅くまで仕事とはなぁ、門番ほどブラックな仕事はないね。」
そんな愚痴をこぼしながら見張りを続ける。
「ん………?」
遠くから光が見えた。
「なんだ………?この時間に。」
その光は1つだけではない、2つ、3つ、4つ、どんどん増えていった。
「なんだぁ………!?」
門番はその異常事態に看守塔に上がり、非常事態を知らせる鐘に手を置く。
その光は、今や数百にもなっていた。
そして
火の手が
反対から上がった。
「なっ!!?」
向こうの光に目をとられ、反対に敵が近づいていたのに気が付かなかったのだ。
「敵襲!!敵襲!!!」
今度こそ門番は迷う事なく鐘を鳴らす。
「なんだこれは!?」
「大変よコーイチさん、敵が来たみたい!」
そう言って扉から話すのはスラニスさんだ。
「敵って!?」
「まだわかんない、暗闇で何も見えないんですもの、でも何かがこの街を襲っているのは確かなの、門番さんが敵襲の鐘を鳴らしたから。」
冒険者ギルドには、有事の際は無条件で冒険者は手を貸すことになっている。
そのため俺は行かなければならない、そうスラニスさんに伝えると俺は装備を着て出ていった。
「頑張って!」
そう俺を励ますスラニスさんの声が聞こえた。
外はポチポチと人が出てきていた。
何があったのかと外に出て見ずにはいられなかったのだろう。
「なんだ!!何だお前らぁ!!」
そんな悲鳴が聞こえたので行ってみれば、男が緑色の人型に襲われているところだった。
「やはりゴブリンか………!!」
俺はすばやくそれをたたっ斬り、男を助ける。
「こい、来いよっ!!」
俺はなかなかな数のいるそれを片っ端からたたっ斬っていく。
ボゥッ。
そんな音が聞こえた。
「………!?やめろぉ!!!」
俺は弓に当てずっぽうにうって、それはゴブリンマジシャンにあたり、やつの出した炎もかき消える。
「上位種もいるのか………!!」
俺は急いでギルドに向かう。
冒険者ギルドは多数の冒険者と避難してきた人達でごった返している、なぜここに避難したのか聞くと、ここには訓練場が地下にあり、有事の際にはそこも避難場所になると言われた。
「サーラさん!!」
「コーイチさん!!」
俺はあたふたしている受付嬢と合流する。
「途中連中と遭遇しました、奴らゴブリンだった。」
「知っているわ、いまギルドマスターが冒険者を率いて迎撃に向かう準備をしているわ、ほら、きた………。」
そう言われたので見てみれば、そこには初老の紳士が中央に立っている。
ギルドマスター。
滅多なことでは見ない、というより初めてその姿を俺は見た。
「みんな聞いてくれ、これよりゴブリンの迎撃に向かう、Dランクは今すぐ5人組、EやFランクは10人組を作れ、あまりはこい、適当にねじ込んでやる、Cランクのものは………どうせ対していないな、よし、各グループのリーダーをやれ、いいな!!」
そうテキパキと指示を飛ばすと皆もテキパキ動き始める。
あっという間にグループと配分が出来上がり、それをマスターの指示で各地に向かうこととなる………。
「ギルドマスター、ここにも避難民が大勢います、護衛のものを用意するのがいいかと………。」
「サーラ、お前は十年のベテランだ、受付嬢のまとめ役もやってるあんたなら、それくらい不要だとわかるだろう?」
ハァ、そうサーラがため息をつくと、ご勝手にと言って訓練場に入っていく。
「………ほお?ホコゴブリンのパラディンかい?それも3体もまぁ………。」
冒険者ギルドに入ってきたのは厳しい鎧を着込んだ男が三人だ。
所々からみえるその緑の肌からそれがゴブリン………ホコゴブリンだとわかるだろう。
ホコゴブリンはゴブリンの進化種で、その強さでもDに匹敵する、まして、重鎧に身を包
み、回復魔法まで覚えた『パラディン』となればまず間違いなくCランクに相当するだろう。
「さあて、そんな大判ぶるまいされたんじゃ、こっちも出すもん出さないとなぁ…?」
………その瞬間、ホコゴブリンパラディンの間に緊張が走る、なんて事のない初老の紳士、それがいきなり何倍も大きく見えたからだ。
「まぁ、素の体力は落ちたが………魔力は何したって落ちねぇからな………。」
その瞬間、ギルドマスターはかき消え、床に穴が空き、一体が吹き飛んだ………。