新 傷ついた男 6
「………俺の地獄は、そこじゃなかった、俺の地獄はこのあとだ、俺は街をブラブラブラブラ、転々としていた、だが、今までと違って、まるで訓練に身が入らなかった、どこか俺は上の空だった、べつに、いままでより落ちたわけじゃない、いままでのようにあがらなくなったんだ。」
コーイチは焦りながら必死に鍛える、いな、必死、といいながら、かれはまったく集中することができなかった、かれは常に背中に亡霊達を貼り付けていたからだ。
「………そんな折だった、あの事件が起きたのは。」
街から街への移動の際、冒険者は行商人の護衛依頼を受けたりする、行商人は冒険者に報酬と馬車などの足を提供して、見返りに護衛。
「盗賊の襲撃があった、俺のはじめての対人戦だった、やつらは大したことも何もない、下っ端の下っ端だった、俺は殺すことすらなく奴らを制圧して、気に片端から縛り付けた。」
コーイチは彼らの頭を街までしょっ引いていくことにした、だが彼らは口を割ろうとはしなかった、困り果てたコーイチは頭がだれか話したものだけは逃してやることを約束する。
それに食いついた男がいた、男は頭が誰か話した、コーイチは、その気になればその男との約束をいともあっさりと破り、そのまま縛り付けたままにすることもできた、だが彼はその男を逃した、もっとも足だけを自由にして、手はちゃんと縛ったままだった、それなら他の盗賊を開放するにも凄まじい時間がかかり、悠々と逃げられるはずだった、コーイチの判断は完璧に思えた。
だが、男は予想もつかない行動に出る、手を縛られたままコーイチと行商人をそのま追跡したのだ、男は夜コーイチたちが止まっている間に追いつき、頭の拘束を解く、そして………彼らは、コーイチの一瞬のすきをついて、行商人を惨殺した。
「気立てのいい老夫婦だったなぁ、奥さんはシチューをつくるのがうまくてなぁ、旦那の方は旅する片手間でいろんな童話を収集して、それを子供達に読み聞かせるのが趣味だったそうだ、子どもたちの喜ぶ姿をみるとたまらないって言っていたよ………あの時間は、生涯俺は忘れないだろうな、本当にそれくらい、あの二人はよくできた夫婦だった。」
だが、その時間は破壊された、怒りで半狂乱になった二人の盗賊によって。
コーイチは………彼らを殺した。
「なにもできない、みんな死んで真っ平らだった………。」
コーイチは、それから放心状態のまま旅を続け、やがてこの盗賊の撃退の腕を買われ、冒険者の中でも特に珍しい賞金稼ぎとなった、もはや壊れてしまったコーイチにとって今更人の二、三人殺してもなにも変わらない、彼は平然と狩り続けた。
「………俺は、一度だけ人と組んだことがある、彼らは怯えていたよ、敵ではなく、俺に対して、それでやっと気づいたんだ、俺が一体何をしたかを、どんな人間であれ、人を殺す、それがどういうことなのかを………。」
「………思い話をしたな………。」
「………うんん、いいの、私はむしろ嬉しい、だってコーイチがそんなことまで私に話してくれたんだもの。」
「悪いな………俺は、それ以来、人の視線が怖くなった、実際俺を知っているやつの大半は化物を見る目で俺を見ていたが、俺のことをまったくしらない赤子の目にまで恐怖を感じるようになったんだよ、だから俺は逃げてきた、そんな針のような視線から…………。」
「………。」
コーイチの顔は、見たことがないほどやつれているように見えた。
きっと、この人はこのご年間ですべてのことに疲れ切ってしまったんだ、そう私は気づいた。
私には、なんの慰めの言葉をかけてあげることも、その権利もない、私は蚊帳の外の人間で、私の言うことなんて野次と対して変わらないだろう。
だから。
「………サンティシナ?」
私は席をたち、テーブルを回ってコーイチに近づく。
「サンティシナ?………サンティシナ!?」
ぐいっと近づく私の顔にコーイチは体をのけぞらせようとするが、逃げるなんて許さない、私はガッチリと掴んで言う。
「ねぇ、コーイチはまだ、冒険者を続ける気はある………?」
「………ある、と言いたかったけどないし、する必要もなくなった。」
そうだろう、コーイチはBランク冒険者として散々お金を稼いできた、それこそ即決で家まで買えちゃうくらいには裕福だ。
彼が前に行ったように、その気になれば今すぐ引退して遊んで暮らすこともできたのだ。
「………私が、なって欲しいっていったら………だめ………?」
「へ………?」
「私は、コーイチがもっと努力して、強くなってほしいって言ったら駄目なの?あなたに理由がないなら、私の理由じゃだめ?」
「べつにお前のことなんか………。」
だが、コーイチはそこでなぜか私の顔をチラチラ見る。
「私本気よ、私はただの受付嬢だから戦うことなんてできないけど、それでもできることはなんだってやるつもり。」
「えぇ………なんていうか、その………?」
コーイチは、私の顔を玉視する。
「…………あっ、そうか、私がお願いするんだから頭下げないと行けないわよね、コーイチ様、どうか強くなって」
「ちょいちょいちょい、分かった分かった、待ってくれよ。」
コーイチは私を止めに入ったから、私はにっこり笑って言う。
「まだ、やってくれる?」
「………………出来る、かも知れないな、お前が、そう思ってくれているのなら。」
その翌日、彼は私と一緒に行きたいところがあるといった。
「えぇ〜先輩もうできちゃったんですか〜、気が早すぎますよ〜。」
「ほんっと懲りない、ほんっと懲りないわねあんた達!!」
だけど私は彼女を叱ることはしない、代わりにこう言ってあげる。
「そうよ、悪かったわね、あんたも誰か捕まえなさいよ〜。」肩をポンポン叩きながら。
後輩は予想もしない返事に一瞬返答に詰まったらしいが、私は魔女もびっくりの高笑いを響かせながらコーイチの家に歩いていく。
「………ほらついた、ここは神殿よ、ここには魔法神だけじゃなくて、魔法における様々な偉業を成し遂げた人間達が聖人として祀られているの………。」
「へぇ………いいところに案内させてもらった、今の俺にピッタリじゃないか。」
コーイチは、巨大な像が立ち並ぶ空間で困ったように周りを見ながら「礼拝ってニ礼ニ拍手一礼でいいんだっけ?」とよくわからないことを言う。
「う〜んなんだっけ?確か………とりあえず目をつぶって手を合わせて祈ればいいのよ!」
「怪しい返答だなぁ…………。」
コーイチはとにかく祈る。
「………コーイチは何祈ったの?」
「………魔法で俺を救ってください?」
「なにそれ!!」
私は………やばいやばい、ツボに入って笑いが止まらない、何がなんだかわかんないけど!
「本当にそう祈ったんだ………思えば俺のそばにはずっと魔法があった、戦いで魔法を使わない日は無かった、魔法の上達が、いつの間にか俺の目標になっていた、魔法が俺の支えとなった…………だから今度も救ってもらうさ、魔法ってのは、本当に万能で便利な力だからな。」
彼の顔には、いまだに心の疲れがにじみ出ているが………笑っているとき、笑っているときだけはまるで何も無かったかのようだった。
このとき、俺は初めて魔法をただの道具としてではなく、自分の歩く道として見ることになった。
サンティシナは、俺が努力して、強くなった姿を見てみたいと、俺の夢でないのなら、私の夢ではだめなのかと。
………あ〜あ、なんていうか、釣られてしまったというか………あいつの願いなら、それでいいかなぁ、というか………だめだよなぁ、あんなことされるくらいでドキドキしてちゃなぁ…………。
俺は無意識に頭を掻きながら神殿をあとにする。
とりあえずサクッと書いてきました、ちょっとだけ縮んだ気がしなくもないが………そんなことより、これで大丈夫なんですかね。
改めて自分の文章見たけどまぁとても細かく書いてますねぇ、あのときは悩みながらじっくり書いてたからなぁ………。
そんでもって今回はコーイチの回想をとても短くまとめたので、まぁかなりあっさりしていると思います。
正直かなり分かりやすくなったとは思いますが、その代わりいろいろ良かったことが抜けていったようにも思います。
それじゃ。